【FRUE × DEAL 対談1】日本におけるカウンターカルチャーとしてのフェスのあり方。
今年3回目の開催となるFESTIVAL de FRUE。ジャムバンドカルチャーとテクノ/ダンスミュージックのパーティーを、フェスという時間のなかでリンクさせようとしているのかもしれない。音の深淵に潜んでいるものを、ライブという一期一会の時間を体験することで共有していく。他のフェスとは違う体験が、FRUEには存在している。FRUEオーガナイザーの山口彰悟とDEAL編集長の菊地崇の対談。
菊地 そもそも、FRUEというパーテイーを始めたのはいつだったの?
山口 東日本震災のちょうど1年後にUNITで「パーティー」 としてスタートさせました。2012年3月です。テクノ/ダンスミュージックのパーティーです。以降、年に2回くらい続けてきました。
菊地 いつか野外で開催したいと思っていた?
山口 そうですね。クラブで続けることで、おもしろい友人たちとたくさん知り合いました。 クラブはクラブで、親密で関係性が深くなることもあるけど、どこか行き詰まりを感じました。なんかお客さんが広がっていかない。どこか内輪ノリの感覚が抜けない。テクノ好きは、テクノしか聞かないし、なかなか他の音楽を受け入れてくれない。集客数でいうと500〜600人がMAX。お客さんも知っている人しかいないし。かつて、自分が大好きだったオーガニックグルーヴは、ハコで開催した時でも、いろんな混じりがあったんですよね。90年代末から00年代はじめが、そういうノリだったというのもあるけど、今みたいに細分化されていなかった。テクノもハウスもヒップホップもバンドミュージックもあった。あの混ざっている感覚を求めている部分があって、今、この日本で、いろんな人たちを混ぜることができるのは、ハコでパーティーをやってても難してく、もはや野外でフェスにするしかないんじゃないのかって思ったんですよね。あと、野外でやってほしいという気運の高まりを感じました。
菊地 FESTIVAL de FRUEとして、一昨年に1回目が開催された。去年はさらにいろんな人が混じっていたように感じたけど。
山口 元々ダンス系のパーティーだったので、そういう人たちをすでに拾ってくれていたんだけど、昨年は特にオーグルとかフジロックのフィールド・オブ・ヘブンやオレンジコートに行っているような人たちが、FRUEのことをちょいちょい拾いはじめてきてくれたのかなと。
菊地 開催時期を11月上旬にするということは、最初から目論んでいたこと?
山口 どの時期に開催するのがベターなのか、数年は考えていた気がします。5月から10月って、ほとんどの週末になんらかしらの野外イベントが開催されているじゃないですか。どこにも入る隙がない。で、残っていたのが11月の頭だったんですね。ラビリンスと朝霧ジャムが終わって、野外フェスの締めというポジショニングにもなるし。
菊地 確かに今年は秋の天候が悪かったこともあって、最後はFRUEに行こうかっていう話をよく聞く。
山口 9月や10月にパーティーやフェスに行って「今年の最後はFRUEに行く?」みたいな話を多くの人がしてくれていたんですよね。それってこっちからしたら願ったりかなったりで。気候が変化しているから断言はできないですけど、過去50年間で、11月に台風が日本に上陸したことはないですからね。だから11月の初旬にやりたいなって。標高が低い場所だったらギリギリできるんじゃないかって考えて、野外フェスがやれそうな場所を探したんです。標高が低くて温暖なところって、千葉か静岡なんですよね。ただ千葉だと関西からのアクセスが悪くなってしまう。そうすると結局は、静岡の海の方という選択肢しか残らない。11月初旬の静岡の最高気温は20度くらいだし、最低気温は10度くらいなんですね。それくらいの気温だったら、防寒をしっかりすれば大丈夫ですから。
菊地 メインステージに屋根があるっていうのも、ポイントはかなり高いと思う。
山口 気軽に行けるっていう部分では大きいですよね。新幹線でパッと行ってタクシーに乗っていけちゃう。市内にはホテルもあるし。もちろんキャンプインで楽しんでもらうことが一番の願いなんですけど。
菊地 FRUEでは、ここでしか見れないようなミュージシャンが数多く海外から招聘されている。どうやって探しているの?
山口 スポティファイとかで探しているし、海外での評判をチェックしたりもします。あと出演してもらったミュージシャンからの紹介も多いですね。今年出演するブラジル人のギタリストDUOのダニエル・サンチャゴとペドロ・マルンティンスは、ファビアーノ(・ド・ナシメント)の紹介だし。
菊地 FRUEではブラジルなどの南米のミュージシャンも多い。
山口 エルメート(・パスコアール)の流れありますね。南米のミュージシャンは、日本でライブすることは少ないから。あとサイケなバンドも入れたいと思っているんです。
菊地 その意味では今年のラインナップではチャッカーズがサイケ感がある。
山口 ある部分ではジャムバンド的な要素も持っていますしね。
菊地 FRUEは3回目の開催になるんだけど、口コミで広がっていると思う。
山口 フェスとしてアナウンスが少ないのが、自分たちの足りないところなのかなって思うこともあります。一方で、アナウンスが少ない中でみんなにたどり着いてほしいっていう気持ちもあるんです。
菊地 確かにかつての野外パーティーは情報がほとんどなくて、自分で探さなければたどり着かなかったわけだから。
山口 掛川駅を降りてフェスを案内する人が誰もいなかった、というようなことをツイッターで書かれたこともありました(笑)。こっちでーす!ってスタッフに誘導されてバスに乗ったりするのより、「っぽい」人に話しかけたりするのっておもしろいじゃないですか。掛川駅から会場までタクシーで2000円くらいなので、ちょっと一緒に乗って行こうよ、なんて声かけちゃえるいいきっかけなのにとか思うとこもありますが(笑)。
菊地 フェスがこれだけ数多く開催されるようになって、フェスそのものがお客さんに寄って行っているのかもしれない。お客さんではあるんだけど、参加者、あるいは一緒にフェスという空間を作り上げる仲間というような感覚も、フェスから打ち出してほしいと思う。
山口 「フェスティバル」って名乗ったからには、ちゃんとしなきゃなっていうことも感じています。レイブパーティーだったら、突き放したようなものもありじゃないですか。
菊地 その意味ではパーティー感を残したい?
山口 そうなんですよね。だから難しいんですけど。ノリとしてはパーティーなんですね。7月に開催された忍野デッドは、いろんなところから人が来ていたと聞きましたけど。
菊地 忍野デッドにはグレイトフル・デッドというカルチャーが根底に流れているから。
山口 いわゆるデッドヘッズの人たち、PHISH PHANの人たちにもFRUEに来てほしいんですよね。
菊地 FRUEには、デッドやPHISHのカウンターカルチャーの遺伝子が少なからず伝わっているだと感じていて。話は変わるんだけど、無料エリアを作るとかはどうなのかな。マーケットだけではなく、そこに小さくてもいいからライブのステージも作って。そうすると、もっと広がりが持てると思う。東日本大震災をきっかけに、東京という大都市が中心ではなくて、地方に自分の場所を求めて移住する人が増えた。ヒッピーとは言わないけど、自由な生き方を望んでいた人の方が移住という選択をしたと思う。そういう人たちって、音楽の場も間違いなく好きだから。
山口 無料ゾーンっていいアイデアですね。確かにFRUEに行きたいと思うきっかけのひとつになるかもしれない。そういうエリアがあると盛り上がりますよね。運営は大変になるだろうけど。
菊地 いろんな人が混じる受け皿になれるのかなって。FRUならそれが可能だと思うんだ。本来は、野外フェスもカウンターカルチャーのはず。都市ではないところに自分たちの場所を作るわけだから。けど日本では、野外フェスをカルチャーとして捉えていない人も多いのかなって思う。
山口 自分たちが20代前半でジャムバンドやパーティーに遊びに行くようになったきっかけが、そこにカルチャーを感じたからってのもあります。バンドやパーティーの後ろにあるもの。ある種の憧れがそこにあった。フジロックもカルチャーを作っている。究極的にはFRUEという場所からカルチャーを作りたいですよね。最近、いろんな人達が集まってきていて、まだ生まれたばかりだけど、どうにかしたら大きなうねりが作れるんじゃないかなと思っています。
対談写真 = 伊藤 郁
開催日:11月2日(土)〜3日(日)
会場:つま恋リゾート彩の郷(静岡県掛川市)
出演:
11月2日/Carlos Niño、Daniel Santiago & Pedro Martins、Don't DJ、Geju、Laraaji、Marco Benevento、Quartabê、Sam Gendel、Svreca、Vessel & Pedro Maia present Queen of Golden Dogs、YAKUSHIMA TREASURE(水曜日のカンパネラ×オオルタイチ)、悪魔の沼、 Compuma、 Dr.Nishimura、 Awano
11月3日/Tom Zé、ACIDCASE、 Acid Pauli、Aex、 miAs、Billy Martin、Carista、Cedric Woo、cero、Itiberê Orquestra Familia Japão 、Otomo Yoshihide(大友良英)、Wata Igarashi、チャッカーズ、Grupo de Capoeira Angola Pelourinho Japão