国の法令改正に必然的に伴う条例改正と指定専決
国の法令が一部改正されることに伴って必然的に条例を改正しなければならないことがよくある。特に、地方税、国民健康保険等の分野では、頻繁に国の法令が改正される。場合によっては、国の法令の一部改正法の施行日に合わせるために、地方議会の臨時会を招集しなければならないことさえある。
しかし、国の法令改正に合わせて条例の字句等を変更するだけであるから、条例の一部改正案をめぐって地方議会で激しい議論が戦わされるわけではなく、あっさりと可決されるのが通常である。
このような手間と時間と経費をかけることは、無駄であるとまでは言わないが、「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」(地方自治法第2条第14項)という地方自治法の趣旨からすれば、必ずしも望ましいものではない。
そこで、最近の地方議会の中には、本来、条例の制定改廃は、議会の権限であるが(地方自治法第96条第1項第1号)、このような場合には、議会の議決を経ずに長の専決処分によって条例の一部を改正することを予め認める議決や条例を制定するところが増えつつある。
つまり、このような場合には、長の一存で条例の一部を改正してもいいよと議会が事前承認を与えるわけである。改正した後で、長は、議会に事後報告するだけで足りるので、非常に経済的である(指定専決。地方自治法第180条)。
ただし、指定専決が認められるのは、「普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項」に限られる(地方自治法第180条第1項)。何が「軽易な事項」であるかは、議会の意思によるが、何らの限定を付すことなく、長の専決処分に委ねることは許されない。
cf.1地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
第二条
14 地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。
第九十六条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
一 条例を設け又は改廃すること。
第百八十条 普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。
2 前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。
このような指定専決を認めているのは、青森県八戸市、香川県土庄町、大阪府四條畷市、高知県土佐清水市、長崎県川棚町、長崎県南島原市、長崎県島原市、鹿児島県南大隅町、長崎県壱岐市、山口県周防大島町、岡山県奈義町、神奈川県綾瀬市、鳥取県三朝町、埼玉県熊谷市、愛知県愛西市、石川県小松市、長野県小諸市、北海道猿払村、千葉県八街市、神奈川県伊勢原市、鳥取県鳥取市、鳥取県南部町、千葉県 柏市、千葉県長生村、香川県まんのう町、愛知県岡崎市など、多数ある。
地方議会によって、微妙に表現が異なるのが興味深い。長の権限濫用を防止し、「軽易な事項」に限定するため、どれだけ明確に規定するか、法制執務担当者の腕の見せどころである。
主なものを列挙しておく。
cf.2青森県八戸市の「市長が専決処分できる軽易な事項の指定について( 昭和41年12月19日議決)」
5 次に掲げる事項に係る条例の改正をすること。
ア 法令の改正又は廃止に伴う当該法令の題名、条項又は用語を引用する規定の整理(法令の改正又は廃止に伴い、必然的に改正を要し、独自の判断をする余地がない場合に限る。)
イ アに掲げるもののほか、条例の主旨を変更しない範囲内の字句の修正
cf.3香川県土庄町の「土庄町地方自治法第180条第1項の規定による町長専決処分指定事項 (昭和47年9月28日)」
6 法令の改正に伴い、義務的に町の条例を改正すること。
cf.4大阪府四條畷市の「市長の専決処分事項の指定について (平成4年9月17日 議決)」
(4) 法令の改正に伴い、条例中に引用する当該法令の題名、条項又は字句を改正すること。ただし、市の裁量の余地のないものに限る。
cf.5高知県土佐清水市の「市長の専決処分事項の指定について( 平成5年9月21日議決)」
(4) 既設条例の趣旨に変更を及ぼさない程度において,引用法令の改廃に伴う当該法令の題名,条項若しくは用語に係る規定の改正又は字句の修正をすること
cf.6千葉県長生村の「村長の専決処分事項の指定について (平成18年3月9日 議決)」
4 会計年度末における日切れ扱いの地方税法(昭和25年法律第226号)等の法令の改正に伴う当然必要な条例の改正を行うこと。
cf.7神奈川県綾瀬市の「市長の専決事項の指定について( 平成18年12月19日 議決)」
2 法令の改正又は廃止に伴い、条例中の当該法令の題名、条項を引用する規定を整理する場合又は法令の改正若しくは廃止に伴う文言整理の場合で、必然的に改正を要し、独自の判断をする余地がないときに限り、当該条例の改正を行うこと。
cf.8鳥取県鳥取市の「市長の専決処分事項指定の件 (平成25年3月19日 指定)」
(1) 法令の改正又は廃止に伴い、当該法令の条項又は用語を引用する規定を整理するため、条例を改正すること。