完璧な腕枕 と 人魚猛獣説 - 穂村 弘さん
こんにちは、Siren's Mail 編集長のアキラです。
みなさんは 穂村 弘 (ほむら ひろし) さんをご存知でしょうか?
歌人であり、エッセイスト、ショートストーリーも書けば、絵本の翻訳もこなす、広いフィールドでマルチに活躍する文壇?の人気者でいらっしゃいます。そして、大のスターバックス ファン!
そんな穂村さんに直接お話をうかがうことができました。
お題は“完璧な腕枕”について(笑)!
なんで、そんなお題になったのかって?
・・・それは、もう少し読み進んで、探してみてください!
穂村 弘 さん
穂村:仲睦まじい夫婦や恋人なら、誰でも腕枕しますよね。ボクは真面目だから、腕枕の理想の姿について真剣に考えてしまうんですよ。
アキラ:う、腕枕ですか。。。
穂村:そうです、腕枕です。それも“完璧な腕枕”です。
アキラ:はぁ。
穂村:ベッドの中で男性が腕を伸ばし、腕から肩のあたりに女性が顔をうずめて、ふたりは口に微笑を浮かべながら眠りにつくのです。
アキラ:いいですね。ふたりだけの美しい時間。。
穂村:そうです。だけど、現実はその通りにいかない。時間が経つと男性の腕はしびれ、女性も首筋が痛くなってくる。そして・・・朝目覚めると、ふたりはお互いに背中合わせに違う方向を向いていたりする。
アキラ:・・・
穂村:それでいいのでしょうか? ふたりの愛はその程度なのでしょうか?
アキラ:そう言われましても・・・
穂村:それが“完璧な腕枕”であるならば、朝になってもふたりは見つめ合い、微笑を交わしながら目覚めるべきではないでしょうか。
アキラ:確かにそれは理想的ですね。
穂村:ふたりが本当に愛し合っているならば、腕枕のひとつくらい、きちんとできてもいいじゃないですか。できたことで、ふたりの愛を確かめ合えますし。
しかし、私も含め、世界中の誰一人して“完璧な腕枕”に成功した人はいないのではないかと思うんです。
アキラ:う~む。描いている理想像はみんな同じなのに、なかなか思い通りにはいかないと・・・
穂村:そうなんですよ。普通なら「そんなもんでしょ」って自分に折り合いをつけていくんだと思うんですが、ボクは、どうしても“理想”に執着してしまう。
そして、そんな“理想と現実のギャップ”にこそ、さまざまな人間模様の原点があると思うんです。
アキラ:と言いますと・・・
穂村:例えば、忙しくて恋人に電話をしそこねた男性がいたとして、翌日、彼は彼女に猛烈に怒られるわけです。女性は、「彼ならどんなに忙しくても私のことを忘れたりはしない」と信じていたからこそ、悲しみも大きいわけです。彼は、それを裏切ってしまった。
アキラ:なるほど。
穂村:先程の腕枕の話も、男性が先に目覚めて、ふたりの携帯電話が接着剤でくっついているのを発見する・・・というオチをつけてみたらどうでしょう。
腕枕は無理でも、それ以外は全部一緒よ、っていう女性の“怨念”とも言える想いがそこには込められている。
アキラ:そうなると完全にホラーですね。
穂村:そうですね。でも、ボクは、そういうところに創作のヒントがあると思うし、「理想」と「現実」のギャップにおもしろみ感じるんです。
アキラ:つまりそこが穂村さんの作品の原点にもなっている。・・・ところで、そんな穂村さんが、なんでスターバックスに興味を持っていただけたのでしょう?
穂村:スターバックスでも、「理想」と「現実」に直面したからですよ(笑)
アキラ:またまた、そんな謎かけみたいな・・・
穂村:スターバックスは、コーヒーも美味しいけど、独自の文化がある。颯爽とお店に入ってスマートに注文したいと思うけど、なかなかうまくいかない。ちょっと上手にできるようになっても、自分よりも断然にかっこいいサラリーマンが、自分以上にスマートにコーヒーを楽しんでいたりする(笑)
アキラ:ハハハ・・・ちょっと分かるような気がします(笑)
穂村:美味しいコーヒーがあって、接客も行き届いているのに、自分は、そこの場にふさわしい振る舞いができない。なんとも歯痒いじゃないですか。
もともとカフェが好きで、本も好きで、美味しいコーヒーと本があれば何時間でも過ごせるんです。その時間は、いつだって「完全」だと思うんです。
やっぱり、そこに至るまでの自分も「完全」でありたいと思うじゃないですか。
アキラ:なるほど、なるほど。ようやくつながりました(笑)!
“スターバックスに行く自分”は“完璧な腕枕”を達成する自分と同じなんですね。
穂村:そういうことですね。
アキラ:ありがたいことではありますが、大変だなぁ。
つまり、スターバックスは、誰もが目指す“完璧な腕枕”のような存在であり続けないといけないということですよね。じゃないと、人間模様から、思い出に残るよな場所から遠ざかってしまう・・・
がんばらないといけないなぁ。
今日はいい勉強になりました。ありがとうございます。
さてさて・・・
実は、穂村さんには、昨年のクリスマスに「スターバックス三十一文字(みそひともじ)解析」と題して、ホームページでスターバックスにまつわるエッセイの執筆をお願いしました。そこで描かれているのは、スターバックスにまつわる「理想」と「現実」。スターバックスでコーヒーを楽しむ「理想的な自分」と格闘するさまざまな人間模様が描かれています。
あれから一年。
「スターバックス三十一文字(みそひともじ)解析」が『人魚猛獣説 スターバックスと私 (発行:かまくら春秋社)』と名前を変えて、書籍として発売されることになりました。
一般書店での発売は12月1日からになりますが、11月4日からスターバックス コーヒー店舗で先行発売 (一部の店舗のみ) されます。
11月4日には、銀座マロニエ通り店で発売イベント&サイン会も実施します。
詳細は、10月28日にホームページでご案内しますので、ご興味のある方は、是非、ご覧ください。
人魚猛獣説 スターバックスと私 (発行:かまくら春秋社)
『人魚猛獣説 スターバックスと私』
著者:穂村弘
発行:株式会社 かまくら春秋社
発売日:2009年11月4日 (一般書店での発売日:2009年12月1日)
価格:1,365円 (税込) (本体:1,300円)
取り扱い店舗:日本国内のスターバックス コーヒー一部店舗
・スターバックス コーヒー店舗で販売するものには、限定オリジナルタンブラー台紙が付いています。
・12月1日より一般書店にて販売する同書籍の表紙とタンブラー台紙は、デザインが異なります。