前田式部さんが見つけた謎の星
「10/29にTNSに報告された明るい新星候補天体」の画像に、謎の星があると、前田式部さんから連絡がありました。下画像の黄色の矢印の星です。
「小惑星かどうか、調べてほしい」ということだったので、小惑星センターの既知小惑星の検索サイト「MPChecker」で調べてみました。しかし、該当する小惑星はありませんでした。そこで、今度は「ステラナビゲーター Ver.10」を使って、星図で調べましたが、確かに該当する星はありません。そのことを前田さんに伝え、この件は一旦、終了しました。
その後、家に帰ってからじっくりと調べてみました。すると、実はその右下にある少し明るめの星の位置がおかしいと気づきました。そこで、ステラナビゲーターの星表の表示を「ガイドスターカタログ GSC」から「USNO A1.0」に変えてみると、その星の位置が下画像の黄色の位置からピンクの位置に大きく変わりました!
「もしや、この星は固有運動が大きいのでは?」と思い、「ViZieR(ヴィージエ)」で検索をしてみました。最新の天文衛星「ガイア Gaia」のデータと並べてみると
Gaia 18h40m17.69s -10゜28'03.8" 光度10.64等 ※青い矢印の位置
GSC 18h40m17.98s -10゜27'47.8" 11.52等 ※黄色い矢印の位置
USNO 18h40m18.29s -10゜27'28.5" 11.39等 ※ピンクの矢印の位置
となりました。『DSS Digitized Sky Survey』で調べると、GSCの元になったデータは1986年8月に撮影された写真乾板だとわかりました。USNOはおそらく1950~60年代の写真乾板だと思われます。そして、ガイアは2014年以降の観測ですから、それぞれ30年程度の時間差があるわけです。ガイアのデータから、この星は1年に赤経方向に-0.1秒、赤緯方向に-0.6秒動くことがわかりました。
星表のデータから赤い星だとわかっていたので、「もしかしたら、未知の赤色矮星かも!」と、固有運動の大きな星について調べてみると、トップ10の星の10分の1程度の動きで、それほど固有運動は大きくないのかなと思って、ちらりとVizieRの画面を見ると「Wolf 1466」(High Proper Motion Star)と書いてあるではありませんか!! この星はウォルフが1924年に「固有運動の大きな星」として報告しているものでした!
ということで、今回の謎の星は一件落着となりました。しかしながら、前田式部さんの観察力には毎回、脱帽させられます。これまでも、50mmレンズで撮影された画像から、たくさんの変光星を見つけたり、小惑星を見つけたりされています。いつの日か、本当の発見になるといいなぁ~と思います。(Ori)