ラモーンズ【F's GARDEN -Handle With Care- Vol.39】 by 野中なのか
ラモーンズに学ぶマンガの描き方
『Ramones / ラモーンズの激情』
<F's GARDEN -Handle With Care- 第39回:野中なのか>
もしも自分が今の時代に田舎の中学生として生きていたら、ラモーンズを聴いたらどんな風に感じたのだろうか。
最初は驚いて「なんだこりゃ」って思ったかも知れない。
真面目で純粋なボクは「ヒドい歌だな〜」と思ったかも知れない。
でも、こうも思ったかも知れない。「なんだか楽しそう。これなら自分にも出来るかも。友達を集めよう。」と。
RAMONES- Blitzkrieg Bop Live (BEST QUALITY)
ラモーンズの事はずっと誤解していた。
というか、よく分からなかった。
パンクロックというジャンルを作ったと言われる事が頻繁にあるけれど、「え?パンクってもっと攻撃的な音楽の事じゃないの?」と思ったりもした。
政治的なメッセージ、過激なファッション。性急なビート。ノーフューチャー。
同時代のピストルズやクラッシュに比べて分かりやすい攻撃性もあまり感じなかったし、ハードコアパンク全盛期に青春を過ごした一人としてはどこかコミカルに聴こえた部分もあったかも知れない。
しかも2メートル近く身長があるボーカルがずっとサングラスをしてるんで、全く感情の動きが分からない。髪型も伸ばしっぱなしのマッシュルームカットでとにかくB級感が凄かった。
「パンクとは何ぞや?」
これはよく語られるテーマですが、生前、このバンドのボーカリストのジョーイ・ラモーンは「パンクは怒りではなく情熱と魂」と語っていたそうです。
あー、そうか。なるほど、そう思えば合点がいきます。
改めて今、このラモーンズのデビューアルバムを聴くと、メロディは古き良きキャッチーな60年代のロックやポップソング。
そこにスピーディーで不器用なディストーションサウンドが重なります。
気分はビートルズがアメリカに渡る前にやっていたようなシンプルなロックンロールバンドのようです。
とにかくバンドで演奏するのが楽しくて、子供の頃から聴いていたビートルズやビーチボーイズを真似て自分達で演奏したらテクニックがあまりに無さすぎて、結果「パンクになっちゃった」って感じなのかも知れません。
他人の曲のコピーでテクニックを磨くよりもまずドンドンとオリジナル曲を作っちゃう。出来ない事は省いて、先に進む。
「ギターソロなんて弾けないからカット。ドラムもこのリズムしか叩けないし、ベースもエイトビートが弾ければそれで良いじゃん。」
ラモーンズはそんな感じでスタイルを確立していったのです。
歌詞の書き方なんて誰も教えてくれないからヒドいもんです。
ほとんどの曲が1番と2番の歌詞が一緒。2行で終わる曲もあります。
3曲目の「Judy Is A Punk」なんて2番に入る前に「歌詞は一番と同じっす〜♪」メロディ付きで歌ってます。こんなのアリか!
歌ってる内容も「近所のガキがうるさいからバットでぶん殴れ!」とか「シンナーがやりたい!とにかく嗅ぎたい!」とか、好きなホラー映画の内容をそのまんま書いたり、もうメチャクチャ。
かと思えば4曲目の「I Wanna Be Your Boyfriend」で「ボクを愛してくれるかい?」という中学生レベルの英語を何度も繰り返す少女漫画的な世界に突入して度肝を抜かれます。
でもそこに思春期の若者特有のフラストレーションが加わると、いつの時代も変わらない普遍的なメッセージとして響くようになるのが不思議です。
「やりたいようにやって、好きなことを歌う」というこのアルバムのスタンスは発売から43年経った今でも変わらずに輝いています。
もう一度、冒頭のジョーイ・ラモーンの「パンクは怒りではなく情熱と魂」という言葉を思い出します。解散までの22年間、ラモーンズはそのスタンスを貫き通しました。
悲しいことにバンドのオリジナルメンバーはすでに全員亡くなってしまいましたが、そのスピリッツは元メンバーのC・J・ラモーンや他のバンドによって受け継がれています。
(今のC・J・ラモーンのルックスが「あの感じ」では無いのが残念です。。)
「マンガを描くのにデッサン力(テクニック)は必要ない。君のやりたい事を文章で箇条書きに並べて、それに絵をつければもうそれはマンガだよ。そしてそれが人々の共感を得るんだよ。」
漫画の神様、手塚治虫は著書「マンガの描き方」にこんな内容の事を書いています。
音楽もそれと同じです。
ラモーンズのファーストアルバムはその事を教えてくれました。
野中 なのか
コンサート業界勤務です。
誰か友達になってください。