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ファンクショナルトレーニングラボ クエスト

なぜ僕が運動初心者にHIITを勧めないのか?

2019.11.04 08:28

最近、一般のダイエット希望者に対して、脂肪燃焼効果があると言われて、トレーナーも勧めることの多いHIIT(高強度インターバルトレーニング)

これまでも何度かこのブログでも書いていますが、私岩沢はダイエットしたいからといって全てのクライアントにHIITを勧める訳ではありません。

特に日常的に有酸素運動をしていない方には、HIITはお勧めできません。

それにはいくつかの理由があります。


まず日常的に有酸素運動をしていない方は代謝能力=全身持久力=最大酸素摂取量が低下しています。

例えば一般の方が健康増進のためには以下の内容で運動処方するのが原則です。

強度=最大運動強度の65%以上

時間=1日当たり30分

頻度=週に5回以上

これはWHOが定める健康のために必要な運動量に合致しています。


しかし普段上記の強度と量よりも運動していない、座業生活中心の低体力者に対して、いきなり上記の運動からスタートすることはありません。

その場合の強度は最大運動強度の40〜60%で処方します。

それは低体力者にとって40〜60%がLT=乳酸性作業閾値だからです。

LTについて大雑把に説明すると「運動強度を徐々に上げていった時、その運動が完全な有酸素運動から無酸素の要素が含まれる強度に変わるポイント」を意味します。

低体力者に対する初期の運動処方では、このLTレベルを超えないように強度調整をする事がポイントなのです。


それには2つの理由があります。

1.安全性を担保するため

普段運動していない低体力者に対して、運動する事でどんな状態になるのか?それはある意味やってみないとわからないのです。

少なくともLTレベル以下であれば、予想外のリスクはある程度避ける事ができると考えられます。


2.精神的な負担を減らすため

低体力者低体力者ほど実際の運動強度とその人が感じている運動のキツさ(自覚的運動強度)には差があると言われています。

運動経験がない人ほどその運動がLTレベルを超えた時「苦しい」「キツい」「辞めたい」「続かない」という風に「恐怖」や「不快感」を感じると言われています。

この感覚をトレーニングによって克服する事が脳に対してBDNF(脳由来神経栄養因子)などの増加に繋がるため、高強度の運動の方が脳の能力を高めるのですが、しかし低体力者にとって「恐怖」や「不快感」は運動を脱落する最大の要因でもあります。

少なくとも運動開始時はLTレベル以下でスタートし、上記のWHO基準で数ヶ月運動を続け、習慣化してからでないと高強度の運動は続けられません。


通常HIITとはLTレベルよりもさらに強度を上げ、無酸素の領域を増やすことで代謝能力=全身持久力を高めるために行うトレーニング法なのです。

本来HIITは低体力者に処方するものではなく、アスリートやスポーツ愛好家がさらなる体力レベルの向上のために取り入れるものなのです。

それなのに「忙しい現代人にとって30分の有酸素運動より短時間で脂肪が燃焼するHIITの方が効率的」という文脈でダイエットしたいけど運動したくない低体力者にHIITを勧めるのは、全く論理的ではありません。


そもそもHIITの方が有酸素運動よりも本当に多くの脂肪を燃やすのでしょうか?

例えば上記のリンクはHIITと有酸素運動について研究された31の実験結果を集めて分析されたいわゆる「メタ解析」について書かれています。

簡単に結論からいうと「HIITの方が有酸素運動と比べてより多くの脂肪を燃焼するとは言えない」という事なのです。


また別のメタ解析の結果を見ても「運動後に使われる余剰のカロリーは運動中の消費カロリーの6〜15%」であり、「数分運動しただけで24時間脂肪が燃え続ける」ことはありません。


しかしHIITのような高強度の運動は、ある程度日常的に運動している人にはぜひ取り入れていただきたい運動形態なのです。

それは先ほど書いたように脳の状態を高めるためには低強度の運動だけでなく高強度の運動を取り入れた方が効果が高い事が科学的に実証されているからです。


結論です。

単にダイエットのために低体力者にHIITを処方するのはお勧めできない。

それはリスクを伴い、運動に対してネガティブな感情になりやすく、しかも脂肪が多く燃やせるわけではない。

しかし体力レベルを高めるためにも脳の健康のためにもHIITは有効。

そのためにはトレーニングの原則である「漸進性」と「過負荷」に基づいて、その人の体力レベルに合わせて少しずつ強度を上げる事が重要。


以上、ご理解いただけましたでしょうか?


いやぁ、そりゃね「短時間で脂肪が7倍燃える!」「忙しい現代人にピッタリ!」なんて言った方が短期的な商売はできるのかもしれませんが。

岩沢は本物を追求して、出来るだけ多くの方のために、持続可能な運動をお伝えしたいのです。