マインドフルネス瞑想と自己制御
Semenov, A. D., & Zelazo, P. D. (2019). Mindful Family Routines and the Cultivation of Executive Function Skills in Childhood. Human Development, 63(2), 112-131.
マインドフルネス瞑想が実行機能の介入法の1つとして着目され始めたのは、ここ10年くらいで実証研究も少しずつ蓄積されている (Zelazo et al, 2018)。私自身もこの動向を全て追えているわけではないが、面白そうなレビュー論文を見つけたので、かいつまんで紹介したい。
マインドフルネスとは, 今この瞬間に意図的に注意を向け, ありのままを受け入れて観ることを指す(Kabat-Zinn, 1990)。つまり, 注意を向けているのは心的事象である (具体的には呼吸の仕方など身体状態の把握を方法としているのだが)。マインドフルネスの主要目標として, 自分自身の注意をより研ぎすまされた状態にすること, そして妨害的な事象や事物を認識しているものの囚われない状態にすることが挙げられる。Zelazoらは, 自身の理論に引きつけて, 内省状態を作り出すことと瞑想との関連を見出している。つまり, 瞑想を行うことで, ①焦点的に注意を絞ることができている, ②妨害的な事象には囚われない, という2つの内省状態が作りあげられ, 自己をコントロールすることができるようになると想定している。本文中では, 特に情動の制御と自己意識への効用について触れている。ただ, 子どもを対象に瞑想を実践する場合には難しさもある。瞑想をするためには, 長時間じっと座っていないといけないが, それ自体にある程度自己制御が必要となってくる。つまり, 本当に自己制御を向上させるべき対象の子どもは, 瞑想自体に取り組めないのではという問題がつきまとってしまう。
そこで, この論文では保護者を対象とした瞑想実践の重要性を指摘している。保護者を対象とした瞑想実践は, 大きく分けて2つの経路で子どもに影響を与える。1つは, 親自身の情動の制御がうまくなることで, 生活でのストレスが軽減され子どもへの関わり方がよりサポーティブになり, 間接的に子どもの自己制御の支援を後押しするというもの。もう1つは, 親がモデルとなって内省状態へ至る方法を身をもって実践することで, 子どもにも実際に同じような方法で内省状態へ至るよう導くというもの。ただし, やはり親自身が瞑想をするような生活の余裕がなかったり, そもそもじっとしているのが難しい場合もある。
そこで, 瞑想実践を家庭内のルーティンに組み込むことを提案している。そもそも子どもの日常生活のルーティンは, 自己制御能力に大きな影響を及ぼすことはいくつかの研究で示されている (Barker et al., 2014; Diamond & Ling, in press)。安定したルーティンのある生活を送ることは, 単に認知面に直接影響を与えるだけでなく, 睡眠や食事を安定して十分に取ることにもつながり, これらの要素が認知面にも間接的に影響を与えている可能性がある。こうした重要な生活ルーティンの中に瞑想実践を組み込むことで, より活動が継続し, 日常生活という文脈内で自己制御を育むことができると筆者たちは考えている。すでに動き始めているプロジェクトのようで (Ready4Routines: Semenov, Levine, Henderson, & Zelazo, in progress), 8週間のペアレントトレーニング期間があるそうである。その期間で, 複数グループで瞑想の仕方などを学び, 家庭内で決まった時間に実践するというものらしい。結果が楽しみであると同時に, やはりこのように親子で何かしらのルーティンを作ることが両者に与える影響がそもそも計り知れないという可能性もある。この点は, 統制群を設けるだろうが, 瞑想でなくとも何かしらポジティブな効果がありそうな気がする。
また原文を読んでみたいが, 瞑想の神経基盤について検討した研究が, 瞑想の熟達度によってU字型のパターンを示すことを報告している。簡単にいうと, 初心者は心的状態に気づくけど制御できない, 中級者は心的状態に気づき意図的な制御を行える状態, 熟達者は心的状態に気づき自動的に制御を行う状態へと移行することを示しているらしい (Tang, Hölzel, & Posner, 2015; Roeser, 2016)。このあたりは興味があるので, ぜひ読んでみたい。