Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

KOO

血柘榴 11

2020.02.22 21:00

頬がパンパンに張るほど口いっぱいに詰め込みまだ微かに暖かい血肉を体に取り込む。

噛み切り歯で磨り潰しのみこんで、隠していくジュワリと汁が拡がって甘い菓子を思わせるような甘みが広がった。

こんなことをしてるのに俺は今満たされているのだ。

あまりにも人離れている思考ではそう考えられるのに手は止まらず身体は黙々と取り込み消化をしている。

目からは何故か止まらずボロボロと目から黒い液体が零れ落ちる。

はたはたと落ちて混ざる度にナオンの赤色と混ざって、酷い紫色になった。

それはまるでナオンを汚してるような気がして、酷く胸が痛む、目をそらすことしか出来ない自分が憎い。

溶けそうなほど甘くて甘くて、砂糖の塊に齧り付いてるかのような錯覚すら覚えた。

今まで口にしていた物が全部生ゴミだと思えるくらい『ナオンだったもの』は甘美で食べる勢いが止まらない。

気が付いたら指しか残ってなかった。

理性はあるのに身体が言うことを利かない。

 「…大切に隠さなきゃ、僕の宝物だから」

スボンのポケットから淡いピンクのハンカチを取りだして、そっと包んだ。

ぐぅ、とお腹が音を立てる。

 「まだ足りない」

誰もいない部屋でぽそ、と声に出して言う。

そうする事で全てが赦されてしまう気がした。

がり、ゴリ、がじゅっぶちぷち、ミチっずるずると音を立てて落ちていた肉を無心になって口へ運んだ。

母様によく似た容姿の肉もあった。

骨張り粉っぽくてあまり美味しくないが、その血肉は今まで口にしてきた食べ物の中では比べ物にならない程甘かった。

髪の色と相まって、俺は真っ赤になってしまってるだろう、良かった。

こんな姿ナオンには見せられない、見せてはいけない。

ナオンは俺によく、神様が見守ってくれてるよと大丈夫。神は私達を愛して下さってると 何かある度に笑って言った。

…居るわけないじゃないか。

居たなら何故神とやらはお前に慈悲をかけてくれなかった? これが神の試練だと言うならクソ喰らえだ! 神なんて居ない、運命なんてない。

僕はただただそこにある現実を受け入れていくしかないのだ。

神などいない救いの無い戦争で荒れゆく世界で死ぬまで息を吸って吐かねばいけないのだ。

この容姿を疎まれ続けなければいけない、神はどうして普通に作って下さらなかったのか。


服がドロドロになって気持ち悪い。

すごく鉄臭くてべたべたと皮膚に張り付いてる。

さっきまであれほど甘くて美味しかったのに指に着いたそれは舐め取ると酷く生々しい鉄の味だった。

現実に引き戻されてしまう嫌な感覚がした。

黒い液体がボロボロと止まることなく目からこぼれ落ちて床を紫色にしていった。

 「…どうしてこんなことに」

俺がなにかしたのだろうか。

なにか罰を受けるようなことをしたのだろうか。家族を皆殺しにされるようなことをしたのだろうか? これもナオンの言う、神の与えたもうた試練なのだろうか?  そもそも俺が男に生まれた時点で大きな間違いを起こしていたのかもしれないがそれは今に始まったことでは無いだろう。

自分の生まれ育った屋敷を歩き回り1人残らず平らげたにも関わらず空腹は収まらない。

むしろ食べれば食べる程に腹が空いてたまらない。

この屋敷はもうダメだろうな…直に火の海になってしまうだろう。

鼻を突くような火薬の匂いが近くまで来ているのを感じてここから離れなければ、と感じる。

下町に行くのは危険かもしれない。

けれど遠くに行くには山を越えるか町を突っ切るのどちらかだ。

たぶん、俺はこの森をぬけてしまえば自分の知らない世界へ行けるのだと思う。

町は、ナオンから教えてもらった話しか知らない他人は怖い。

俺はこの家の人間と使用人の人達しか知らない。俺は動物たちと植物のことしか知らない。

ならば町ではなく、森へ行こう。

森なら静かに逃げられそうだ。

いつの間にか肩の痛みも取れたし、町に行けばすぐ捕まってしまうだろうから

一応ナタとフードを持っていこうか、空模様も怪しいし、そろそろ雨が降るのかもしれない。

ふと、広い庭の端の方で紫色の小さな花が固まった様な形の花を見つけた。

 「ホルテンズィー…? あぁ、そっか、もう梅雨か」

確かリオさんが教えてくれた。なんだっけな、にーほん? だっけな、にーほんの言葉であの花はアジサイって言うんだっけ、葉には毒があるとかないとか、ナオンとふたりで話したなぁ…懐かしい…

ぼんやりと花を見つめて思い出に浸っていたがぱらぱらと雨が降ってきてハッとした。

早く此処を離れなければいけないんだった。

ぼーっとしてる暇はない、大丈夫、家には血溜まりしか残ってない、死体はちゃんと俺が隠したから、それに、そのうちこの屋敷も火の海に飲まれてしまうだろう。

 「…ぬるい雨だなぁ…火薬臭い」