PARP阻害薬が卵巣がんの新しい標準治療になることを期待
BRCA遺伝子変異の有無を問わず、進行卵巣がんの新しい治療として、PARP阻害薬による維持療法および化学療法との併用療法への期待が高まっていると、Leslie M.Randall医師が第37回Annual CFS®の聴衆に語った。
PARP阻害薬の感受性は、ほとんどが生殖細胞系、または体細胞系のBRCA遺伝子変異、または相同組み換え修復異常(HRD)をもたらすその他の突然変異に対してのものである。カリフォルニア大学アーバイン校婦人科腫瘍学准教授、医学教育部長であるRandall氏は、プラチナ製剤に対する感受性は、PARP阻害薬使用に際しての有効なマーカーとしても役立つ可能性があると述べた。(注1)
高悪性度漿液性上皮性卵巣癌、卵管癌又は原発性腹膜癌など、PARP阻害薬はあらゆる状況で有効であると思われる。とRandall氏は述べている。
卵巣がんにおけるPARP阻害薬の現在の適応には、再発患者に対する二次維持療法、BRCA遺伝子突然変異を有する患者への三次治療もしくはそれ以降の治療、および化学療法後の四次治療または相同組み換え修復(HRD)異常陽性患者が含まれる。
Randall氏は、オラパリブ(リムパーザ)、ルカパリブ(ルブラカ)、ニラパリブ(ゼジュラ)の承認に至った試験における無増悪生存期間(PFS)のハザード比を見ると、これらの薬剤がBRCA遺伝子の状態に関係なく、ほとんどの患者で有意な有効性を有することは明らかであると述べた。「BRCA遺伝子変異を有しない患者の分析結果を見れば、BRCA遺伝子変異を有する患者ほどではないものの、有効であることがわかる。」
臨床試験
PARP阻害薬に関する問題は、再発症例に対しては確立されているが、初回治療における維持治療においても有効であるかどうかであった。第3相SOLO-1試験では、無増悪生存期間(PFS)中央値の有意な延長がプラセボ投与群と比較してオラパリブ投与群で確認され、生殖細胞系列または体細胞BRCA遺伝子変異を有する進行性卵巣がん患者において、プラチナ製剤を含む化学療法後の維持療法としてオラパリブが承認された根拠となった。 (未達成13.8ヶ月、HR、0.30、95% CI 0.23-0.41、 P <.0001)
米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会のポスター発表のデータによると、SOLO-1でのオラパリブ使用は、先行手術(HR 0.31,HR 95%,CI 0.21-0.46)インターバル手術(HR 0.37,HR 95%,CI 0.24-0.58)手術後の残存病変(HR 0.44,HR 95%,CI 0.25-0.77)化学療法後の臨床的完全奏効(HR 0.34,HR 95%,CI 0.24-0.47)または部分奏効(HR 0.31,HR 95%,CI 0.18-0.52)を認めた患者を含む予後グループ間で同様の有効性を示した。
現在、新しいがんの治療としてPARP阻害薬に期待が寄せられている。PARP阻害薬の研究は既にプラチナ感受性の再発性維持療法の分野にまで到達しており、さまざまな状況における複数の薬剤に対する有効性を示している。とRandall氏は述べている。
PRIMA第3相試験で最近発表されたデータによると、新たに診断された患者でプラチナ製剤を含む化学療法が奏効した場合には、プラセボと比較してニラパリブによる無増悪生存期間(PFS)中央値の延長(13.8ヶ月対8.2ヶ月 HR 0.62 HR 95% CI 0.50-0.76 P<001)が認められ、相同組換え修復異常(HRD)陽性患者ではさらに有意な反応が確認された。(21.9対10.4 ヶ月 HR 0.43 95% CI 0.31-0.59 P<.001)
また、PARP阻害薬ベリパリブにおいても、高悪性度漿液性卵巣がん患者に対し、カルボプラチンおよびパクリタキセルと併用し、その後、ベリパリブ維持療法を実施すると、有望な反応を示すことが確認されている。無増悪生存期間(PFS)中央値は、ベリパリブ投与群で23.5ヵ月であったのに対し、プラセボ群では17.3ヵ月であった。(HR 0.68 HR 95% CI 0.56-0.83 P<.001)他のPARP阻害薬による維持療法と同様に、BRCA遺伝子変異を有する患者では、有益性がより有意であった。 (HR 0.44 95% CI 0.28-0.68 P<.001)
第3相試験であるPAOLA-1/ENGOT-ov25試験では、アバスチン維持療法へのオラパリブ追加で無増悪生存期間を有意に延長し、プラチナ製剤を含む化学療法+アバスチンを併用した臨床的完全奏効または部分奏効の患者における無増悪生存期間(PFS)中央値はプラセボおよびアバスチン投与群の16.6ヵ月に対して22.1ヵ月であった。(HR 0.59 95% CI 0.49-0.72 P <.0001)
PARP阻害薬の毒性管理
PARP阻害薬は一般に忍容性が高く、有害事象(AE)として血液学的事象、悪心、嘔吐、疲労が最も一般的である。
「血小板数が15万ml未満であったり、体重が70kg未満であるなど、一部の患者においては開始用量を低くした方が良好な成績が得られることを示す証拠がある。これらの有害事象のほとんどは最初の1ヶ月以内に発生し、投与の延期または減量によって管理されることが多い。最初の1ヶ月以内に患者を安定状態にすることができれば、これらの有害事象は一般に安定し、時間とともに正常化する」とRandall氏は述べた。
初期の1群試験から得られた証拠に基づき、承認された3剤のPARP阻害薬に対しては、骨髄異形成症候群または急性骨髄性白血病のブラックボックス警告(医薬品添付文書で最も注意を喚起するレベルの副作用情報)があり、確認された1%から2%の発生率は経時的に一貫してみられている。しかしながら、プラセボ対照試験では実験群と対照群との間にほとんど差がみられず、これらの事象はPARP阻害薬によるものではないことが示唆される。
Randall氏は、PARP阻害薬併用試験における相同組換え修復異常(HRD)陰性患者の最適な治療と、プラチナ製剤耐性とほぼ同じ問題であるPARP阻害薬耐性の克服に焦点を当てたPARP阻害薬使用の将来に注目して、プレゼンテーションを締めくくった。
(注1)
プラチナ製剤に感受性を示している卵巣がんでは、相同組み換え修復(HRD)異常がある場合が多いため。
翻訳:そら
原文:Targeted oncology