『ボヘミアン・ラプソディ』公開1周年に想う。
人生を重ねていくうちに、記念日とか忘れられない日付というのは増えていくもの。昨年まで11月9日というのは自分のなかで特に意味のない日だったが、これから先はこの日が訪れるたびに2018年11月9日に何があったかを思い出すことになるのだろう。
それは、言うまでもなく映画『ボヘミアン・ラプソディ』が劇場公開を迎えた日。早いもので、あれからもう1年が経過しているのだ。特に音楽絡みの映画の場合、ずっと公開を待ち焦がれていた作品が単館レイトショー扱いでしかも2週間で打ち切り、みたいなことが少なくないというのに、この映画やQUEENの音楽に対する世の熱は少しも冷めていないどころか、むしろいっそうの高まりをみせているともいえるほど。奇跡という言葉はあまり使いたくないが、こんなことが起こり得るなんて本当に思ってもみなかった。
中学生の頃から大好きで聴き続けてきたバンドの物語が映画になり、その字幕監修を自分が手掛けることになり、映画と音楽についてたくさんの記事を書き、さらに映画公開以降は彼らの魅力などについて壇上で語らせていただく機会などにも恵まれた。こうして好きなアーティストや音楽について書たり喋ったりすることが仕事になっているという現実は、十代の頃の自分にとっては単なる夢でしかなかった。どうすればそんな仕事に就けるのかもわからなかったし、母親には「そういうのはお金持ちが道楽でやる仕事。目を覚ましなさい」みたいなことを言われたものだ。
もちろんこの仕事、楽しいばかりではなく辛いことも多いし、コレだけで生きていくのはなかなか難しいことでもある。正直、あとどれくらい今のようなペースでモノを書いたりライヴ通いを続けられるのかもわからない。ただ、フレディではないけども、僕も僕でこの道を自分で選んだのだから、この先も自分とは何か、自分のすべきことは何かを問いながら、努力を続けていきたいと思う。
11月9日は、単なる映画の公開日でしかない。だけども今後は、こうして自分の人生について考えさせられる日になっていくのかもしれない。そうした意味においても『ボヘミアン・ラプソディ』はとんでもない映画になったものだ。改めてこの映画とのめぐり会いに感謝するとともに、来年も再来年もさらにその先も、元気でこの日を迎えられるようでありたいと思う。
写真は2018年11月8日、都内で行なわれた記者会見の際に筆者が撮影したもの。ジョン・ディーコン役を務めたジョー・マッゼロのお茶目さが際立っていた。インタビュー中、曇った眼鏡をカーディガンの裾で拭くという普通っぽさも、なんだか微笑ましかったな。