踊る銭湯PJ、皆藤千香子、ブッシュマン、Lee Dang Ha、中村蓉「ダンスブリッジ2019 ③インターナショナル劇場」神楽坂セッションハウス
コンテンポラリーダンスを踊る人と見る人をつなぐ「ダンスブリッジ」シリーズ公演の第3弾は、日本、ドイツ、韓国からの振付家・ダンサーが作品を披露した。東京にあるダンススタジオとホールを兼ねるスペース、神楽坂セッションハウスにて。
上演された5作品の「キャッチコピー」を、観客に付箋に書いてもらって、作品ごとにボードに貼り付け、振付家・ダンサー(出演者)が参加するアフタートークで、各作品の「ベスト・キャッチコピー賞」を決め、賞品を渡す、という試みも面白かった。
■踊る銭湯PJ(プロジェクト)『nigh/ナイ』
出演:HEIDI、柴田菜々子、根本紳平、則竹美空、堀川千夏
太鼓:高倉龍和、諸見里聖
写真(インスタレーション):アベトモユキ、渡部孝弘
振付:HEIDI
演出構成:宇山あゆみ
暗めの照明の中、踊るダンサーたちを「カシャッ」と、舞台の真ん中に陣取った写真家がカメラで捉えていく。その写真が、直後に、壁に大きく映し出される。リアルタイムで動くダンサーたちと、彼らの一瞬前の、過去の姿を写した静止画像とを、観客は同時に目撃する。
生の和太鼓演奏(音)とカメラのフラッシュ(光)とで、緊張感が生み出され、確かなテクニックのダンスに高揚感を覚える。
冒頭で、巨大な黒の網タイツのようなものの中にダンサーたちが入り、少し獅子舞のような感じで一緒に踊るのと、後半でダンサーが1人ずつ中央に立ち、顔を客席に向けて、キメ顔&キメポーズをするのが、特に楽しかった。
普段は銭湯で踊っているとのことだが、銭湯のタイル張りの風呂場で踊っているのか?走ったり飛んだりしていたが、滑らないのだろうか?と勝手に心配。
和太鼓は、鋭い音を狙って出していたのかもしれないが、会場の音の響き方のせいもあるのか、耳にきつい音だと思った。和太鼓はもっと柔らかい音の方が個人的には好み。
■皆藤千香子『Age of curse』
コンセプト・振付:皆藤千香子
ダンス:ヤシャ・フィーシュテート、ハナ・クレブス、カール・ルンメル
ビデオ:ファビアン・ハイツハウゼン
ドラマトゥルグ:アントニオ・ステラ
タイトルは「呪いの時代」の意味。振付の皆藤千香子氏は、ドイツの大学でダンス科の振付家コースを卒業し、ドイツのデュッセルドルフを拠点に活動している。
インターネットのやりとりをきっかけに人が死んだり、インターネット上には死が存在しなかったりすることをテーマとしているらしい。
壁に映し出されるのは、テーブルに着いて会議中のビジネスパーソン3人の、CG画像のようなビデオアートか。1人が骸骨で、1人はスーツだけの透明人間のようだったりと、西洋中世の「死の舞踊」を思わせる。
舞台手前に座って、顔を客席の方に向けては首を向こう側に回し、を繰り返すダンサー。ジョギング姿で走るダンサー。四つん這いで出てきて、おじぎをしたりするダンサー。みんなAIロボットのようにぎこちない動きだ。
この3人(3体?)が、滑らかに動いていたと思ったら、誤作動を起こしたかのように動きが乱れ、そして、互いの体を歯で噛もうとしてレスリングのように一体となって転げ回る。
大変興味深い。賢い、よく考えられたコンセプトに基づく作品だが、ダンサーの身体と動きをただ見ていることだけからの喜びも得られる。
元は1時間の作品を、今回の公演のために20分バージョンにしたそうだ。1時間のフルバージョンも見てみたい。
■ブッシュマン『肌束の尾』
出演:金子佑紀・河内優太郎・黒須育海・江口力斗・手塚バウシュ・中村駿
※11月3日(日)14:00の回は黒須育海は不在
黒パンのダンサーたちが、動物が密林を駆け抜けるように動く。「ブッシュマン」(複数形の「メン」ではなく単数形の「マン」だが)というグループ名から、男性ダンサーのみと予想していたら、女性ダンサーが1人いた。
グループ名と衣装から「野生人」を思い浮かべていたが、その通りのダンスに見えた。そのことしか感じられなくなってしまい、何か展開があるかと期待したのだが、そのまま終わりまで行ってしまったように思う。これらの動きだけで引っ張るのにはやや無理があり、飽きてしまった。
■Lee Dang Ha『Guernica Again』
振付・出演:Lee Dang Ha
イー・ドンハ氏は韓国からの参加。スペイン内戦の悲惨さを描いたピカソの絵画『ゲルニカ』から着想を得て創作したという。
空気の壁をたたいて脱出したい気持ちを表現したり、口から見えない何かを引き出したり、壁や床にチョークで描いた人形(ひとがた)に磔(はりつけ)にされたようになったりと、苦悩を踊る。
特殊な動きが取り入れられているわけではないが、引き込まれ、最後まで目が離せなかった。
アフタートークでは、通訳を介して、作品コンセプトを語ってくれたが、言葉で明確に表現していた。韓国の世宗大学でモダンダンスの教員資格を取得したらしいが、コンセプトから作品を作るというカリキュラムが組まれているのだろうか。
■中村蓉『ジゼル 短編』
振付・出演:中村蓉
「歌謡曲スイッチ」と題した、日本の主に昭和の歌謡曲の登場人物になりきって踊るダンスワークショップを行っていることでも知られる中村蓉氏が、バレエの古典『ジゼル』を題材に選んだソロ。
前半は現代の音楽でベールをかぶって踊り、中盤でせりふを語り、後半ではバレエ『ジゼル』の曲で踊った。前半が村娘ジゼル、真ん中で彼女が死んで、後半では結婚せずに亡くなった娘たちがなるという精霊ウィリーとしてのジゼルの踊り(たぶん)。
せりふでは、『ジゼル』の粗筋を語り、「昭和に生まれて、平成を結婚しないまま過ごし、令和まで飛び越えてきてしまった人を、『平成ジャンプ』と呼ぶ」というジョーク(?)を言い、ジゼルは恋人に裏切られたのに、ウィリーとなってからなぜ彼を助けたのか、という疑問を叫ぶ。
もしせりふがなかったとしても、踊りだけを見ても、なぜか「イタイ」。
観客が書いたキャッチコピーの中から中村氏が気に入って読み上げたもののうち、少なくとも2つには、中村氏のフルネームが入っていた。自作自演のソロのためかもしれないが、見る方も踊る方も、ダンサー個人がどうなのか、ということを求めているような印象を受けた。
作品というよりダンサー自身にフォーカスがあるようで、「イタイ」と見えてしまうのか?
動きも、好みによると思うのだが、広がりや伸びやかさはあまりなく、カクカクとした動きで、豊かな感じがあまりしなかった。
ユーモアも、作品によっては面白いこともあるので、今回の作品は、今回見た体験としては、合わなかっただけかもしれない。
11月2日(土)19:00
11月3日(日)14:00/18:00
神楽坂セッションハウス
前売一般3,300円 前売学生2,500円
前売こども1,500円 4回券10,000円 当日+500円
セッションハウス研究室:
中野優子(東京大学大学院 教育学研究科教育学研究員)
木場裕紀(大同大学教養部講師)
※11/3(日)14:00の回で分析発表
助成:芸術文化振興基金芸術文化振興基金
主催:セッションハウス企画室