土壌はワインの品質に影響を与えるか?②
前回のブログで紹介した通り、本研究において土壌組成と品質の関連性について示されました。では土壌は1年間を通じてどのように変化するのでしょうか?今回同研究が土壌を層別に解析した結果を基に3つのSFU(soil functional units:地質機能分類)が月日によってどのように推移したのか一緒に見ていきましょう。
土壌の専門家による土壌の調査、並びに地下水のモニタリング、土壌の層別分析によって土壌パターンを3つのSFU(soil functional units:地質機能分類)に評価しました。またワインメーカーによって行われた区画ごとのワインをA-Cに評価し、SFUとワイン評価の相関を分析しました。
3つのSFU(soil functional units:地質機能分類)とワイン評価の関連については前回のブログで紹介しましたが、A品質はSFU-3、B品質はSFU-2、C品質はSFU-1という結果でした。地下水の動態と土壌構成がブドウの根に大きな影響を与え、ワインの品質にも影響したことが考えられます。では各々の推移を見ていきましょう。
季節(縦)および地下水面(水色部分)の変動に応じた、F1(SF1)〜F3(SF3)でのブドウの発根システムの概念図:飽和範囲(SZ)および部分飽和範囲(PSZ)の影響を受けている。
1月(t1)の地下水位は最低水位(初冬)から最高水位(4月)に変化します。土壌と大気中の温度(10 ℃未満)を考慮すると、ブドウの樹は休眠状態で、ブドウの根の成長は活発ではなく、土壌中の微生物の活動は全体的に低下していきます。この期間中は頻繁な降雨によって補充された水分が表土から供給され、CEC(陽イオン交換容量)の飽和に関連して土壌中からの栄養素が供給されます。そしてSFU-2とSFU-3は水と栄養素の両方を得ることが出来まる状態にあります。
4月(t2)は地下水面は最高レベル(土壌表面と地下水面の距離が最も近くなる)になりました。ブドウ樹は萌芽し、バイオマス(生物資源エネルギー)生産が始まります。この時期の土壌の湿度と温度条件は、微生物に適しており活動を始めます。この期間中のブドウの水吸収量は根の構造に関係していますが、地下水面によって制限されています。SFU-1およびSFU-2におけるブドウ根は常に水に浸っているため根の発達は限界にあり、根が壊死する可能性があります。SFU-3の場合は根が壊死することなく、部分的に地下水面に触れているブドウ根によって効率的に水を吸水していました。ブドウ樹に必要な無機物の吸収は、微生物による有機物の無機物化、アンモニアの硝酸化によって得ることが出来ます。ただし、SFU-3は水分過剰になることがないので土壌中の栄養素の吸収も十分に行えていました。
8月(t3)は地下水位のレベルは最大時から最小(初冬)に推移します。バイオマスの生産はほぼ完了し、ブドウ根と新芽の成長は減少、ブドウの果実は完熟し、熟成が始まります。降雨がないこの期間中は根は給水を行います。SFU-1のブドウ樹の根はt2期間に水過剰状態になりますが、SFU-2とSFU-3のブドウ根は、水分ストレスはあるものの降雨による影響はほぼありません。SFU-1、SFU-2と比べるとSFU-3は粘土質の土壌構成と年間変動性が低いことにより、結果的に好ましい水ストレスが長く保たれます。
地下水の動態と土壌構成はブドウの根の発育に大きな影響を与えることが示されました。ワインの品質は、ブドウの収穫期における土壌中の水と根の相互作用からの影響を受けることが示唆されています。上質なワインに最適な土壌は、十分な水分ストレスがかかること、そして制限がないほどの豊富な栄養素があることが必要な条件であると考えられます。
(私見)
土壌がワインの品質にどのような影響を与えるのか?、そのメカニズムが理解しやすい研究でした。特にソムリエ、一般愛好家の中で誤解が広がっている、土壌中のミネラル(無機物)がワインにどのように影響するのか?関係ないのではないか?といった問いに対して、ワインの品質に好影響を及ぼしている可能性が見いだせたことは大きかったように思っています。また地下水位がブドウ根の伸長に影響を及ぼすことは明らかなようですので、雨の多い地域では水はけのよい土壌、地下水位が上昇しない場所でないと高品質のブドウ栽培が出来ないことが想定出来ました。
次回は2019年日本ブドウ・ワイン学会を聴講しましたので、その報告をいたします。
Reference: Identification of environmental factors controlling wine quality: A case study in Saint-Emilion Grand Cru appellation, France.
Science of The Total Environment Volume 694, 1 December 2019, 133718
Fayolle E, Follain S, Marchal P, Chéry P, Colin F