フリーDLはOK。インターネットレーベル「OMAKE CLUB」の実態とは
インターネットレーベル『OMAKE CLUB』は“ミュージシャンの、ミュージシャンによる、ミュージシャンのための、著作権フリーのインターネット踏み台レーベル"と自ら掲げるネット・レーベルだ。
しかも所属するアーティストの楽曲は無料でダウンロードが可能。一昔前では考えられないような宣伝方法をとっている。
前回の記事で『OMAKE CLUB』所属アーティストであるTOKYO HEALTH CLUBが、レーベルをマンハッタンレコードに移籍するということで、メンバー全員のインタビューを試みた。
今回はその続編として、TOKYO HEALTH CLUBのメンバーであり、レーベルの首謀者でもあるTSUBAME氏を中心に、レーベルを運営することに至った経緯や『OMAKE CLUB』で実現したいことなどについての展望を伺ってみた。
TSUBAME氏は前回のインタビューのなかでも「あくまで音源自体はプロモーションの一環としか思っていない」と語っていたが、それではどのように所属するアーティストたちに利益を還元しようと考えているのか。インディーシーンでレーベルを運営をするとはどのようなものだろうか。
僕らを踏み台にしてくれてOK。明確なスタンスを打ち出せた理由
そもそも“ミュージシャンの、ミュージシャンによる、ミュージシャンのための、著作権フリーのインターネット踏み台レーベル"というい文句をつけた理由は何だろうか。
「TOKYO HEALTH CLUBは2010年に活動を開始したんですけど、活動するうえで、自分たちがCDを出せるレーベルが欲しかったので立ち上げたのがはじまりなんですよ。世の中的な機運として『CDが売れない』というのがあって。世界的に見てもインターネット上でフリーで配信するレーベルとかも増えてきていて。インターネットレーベルサイト始めるのにお金はかからないし、単純に『その流れに乗っかるか』くらいのスタンスで始めました。インターネットに曲を乗っけて、レーベルという建前を作ってしまえば、音源を広めやすくなるじゃないですか。そういうノリで始めたという感じですね。
踏み台レーベルと謳ったのは、『OMAKE CLUB』をきっかけとして、所属するアーティストがもっとメジャーなレーベルに行ったり、ステップアップするうえでの踏み台的な役割になればいいなって思ったからですね。だから『ステージが上のレーベルとかから声がかかったら、どうぞ契約しちゃってください』っていうスタンスを最初から表明しているんです。『それまでの間はうちが全力でサポートします』というシンプルなスタンスを取るレーベルって意外と世の中にないなって思ったのではじめました」
自らアーティストとして活動していく上で感じるレーベルのしがらみからアーティストを解放したいという気持ちがあったのだろうか。
「まあそれも多少ありますね。所属アーティスト的にも、レーベルに入る上で結構安心感はあるみたいですね。最初から謳うことで割と自由度の高さとか風通しの良さが伝わるし、変に構えられることが少ないですね。
自分たち自身がいいと思ったアーティストに声をかける上でシンプルなシステムは理解されやすいようだ。今所属しているアーティストには自ら声をかけているという。
「たとえばZOMBIE-CHANGなんかは、ライブを見て一目惚れしたんです。『なんでこんなに才能がある子が世の中にもっと出ていかないんだろう』みたいに思っていたので。『うちで自由にやってみない?』と声をかけたという形ですね」
中小企業は大学の友達ですが、ただ近しい人とやりたいという気持ちではなく、タイミングや何かしらのきっかけがあったアーティストに声をかけている感じですかね」
それでは自らのレーベルの強みをどこに感じているのだろうか。
「音源のフリーでのアップもそうですが、僕らの周りは大きなデザイン仕事やMVの仕事をしているような友達が多いので、ビジュアルの見せ方にしろMVにしろ、一緒にやれるという部分が『OMAKE CLUB』の強みかなと思っています」
自らコアな音楽リスナーであるからこそ、買い手の気持ちがわかる
自身がアーティストであり『OMAKE CLUB』がアーティストを支えるクリエイターのチームである自覚があるのだろう。だからこそ、リスナーにとってもキャッチーなレーベルとしての見せ方を意識している部分もあるように思える。
フリーダウンロードOKという踏み込んだやり方を選択したのも、自らがヘヴィな音楽ファンとして今の時代における音楽に対してのお金の使い方に考えがあってのことのようだ。
「ぶっちゃけた話、CDって結構高いじゃないですか。海外の著名アーティストたちが自らダウンロードフリーとかで曲をリリースしているのに、名も知れないインディーアーティストにわざわざ2,000円以上の金を払えんのかって僕は思うんですよね。
実際僕も知らないインディーズの子のCDをいきなり買うより、スチャダラパーさんのCD買いたいし、みたいな。だったら最初は音源フリーで曲をリリースして、次はアルバムとして500円くらいで販売してみる。それが完売すれば、次は価格を上げて999円にするみたいな形をとっていくほうが健全なんじゃないかなって思うんですよね」
TOKYO HEALTH CLUBが『OMAKE CLUB』のロールモデルでありたい
実際TOKYO HEALTH CLUBは2013年5月に「TOKYOGAS」含むアルバム『プレイ』を500枚限定で販売し、即完売。1つひとつステップを踏んでいき、4月16日からは名門マンハッタンレコードにも所属することになった。TOKYO HEALTH CLUB自らOMAKE CLUBから出世したモデルケースになろうとしているということだ。
ここでメンバーのSIKK-Oさんが口を挟む。
「僕たちが6月に出す次のアルバムが今回2,500円でリリースするんですけど、それってそれだけ関わる大人の数が増えているという証なんですよね。
レコーディングの環境が変わって、音は当然良くなってくるし。流通に関してもプロフェッショナルの人たちが関わってくる。そうなると1,000円で発売していた頃より高いクオリティのものを出していかないといけないのは当然のはずだし。
今の時代にインディーズで音楽をやっていくなら、まずは自分たちだけからはじめて、フェーズを1つずつ上げていくというのが、無理がなくて自然なんじゃないかなって思いますけどね。だから価格帯については、すごく意識して活動してきたなとは思いますね」
TSUBAME氏が再び言葉を続ける。
「SIKK-Oが今話したように、僕はTOKYO HEALTH CLUBがレーベルに所属しているメンバーにとって、一つのロールモデルとなっていけたらいいなって思いますけどね。
今はアーティストがセルフプロモーションをしていくのが当たり前の時代で、単純に曲だけを作っていれば評価されるわけではない。
だったら自分たちでいかに自由に使える資金源を増やして、楽しみながらいいものが作れるサイクルを作っていくかという部分で『OMAKE CLUB』の所属アーティストにプレゼンテーションしている部分もあります。
これからはTHCが有名な大企業とタイアップするような施策を打っていくかもしれない。一見インディーズのレーベルがやる仕事じゃないような大きな規模のこともやって、成功事例を一つ一つ増やしていくことが、『OMAKE CLUB』的に大事なんじゃないかなって思いますね」
一つ上の世代がクールにビジネスをやったように、僕らも風穴を開けたい
つまりは『CDは売れない』『ミュージシャンは食えない』と閉塞していると思われがちな、インディーシーンに風穴を開けたいということになるのだろうか。
「そうですね。僕たちに限らず今の若手レーベルの人たちはみんなそういう野心を持っていると思いますよ。
HIFANAさんが所属する『GROUNDRIDDIM』なんてまさにそういう事例ですよね。自分のスタンスを崩さないままでNIKEやライゾマティクスともコラボレーションしたし。ああいうのが1つの目標です。
僕らより10歳以上年上の大人たちが、シーンに風穴を開けているのに、それに続かないでどうするんだっていう気持ちはあります。『日本の音楽カルチャーは面白いし、まだまだ捨てたもんじゃないぞ』というところを体現できている先輩たちがいるので、自分たちもそれに追随できるようになると、きっとテンションがあがりますよね(笑)」
TOKYO HEALTH CLUBがステージを上がっていくこと自体が『OMAKE CLUB』としての成功でもある。アーティスト活動とレーベルオーナーの視点というのは共存しうるのだ。
これからどんな形で音楽業界に風穴を開けてくれるのか。今から動向が楽しみで仕方がない。
photographer:宇佐 巴史 / Tomofumi Usa