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ドンドロ浜商店繁盛記 1/小坂ひとみ

2016.06.23 11:15

2014年のはじめ、私は豊島であたらしい住まい探しをしていた。

それまでの2年間は豊島美術館で働いていて、ずっと寮生活だった。美術館をやめて、次の仕事は見つかっていたけれど、家がしばらく決まらず友達の家に間借りさせてもらっていた。

そのころ私は豊島暮らし3年目。島の中で家探しの相談ができるような知り合いも少し増えていたので、ぽつりぽつりと空き家情報が入ってきた。

最初に見せてもらった家は山際の静かな場所にあって、間取りも広すぎず狭すぎずで好印象。けれど、部屋に入ってまず、床にムカデが大量に死んでいるのが目に飛び込んできて、いやな予感がした。夏場は相当ムカデ問題に悩まされそうだ。次の家はとても状態のよいきれいな家で、港に近く外出にも便利だったが、家賃が私の収入ではキツめの金額だった。結局その2軒は断念した。そして「借りられるかどうかはわからないけれど」という前置き付きで、甲生地区の浜辺にある小さな家を見学に行くことになった。

甲生の海には何度か泳ぎに行っていた。大きな国際線も通る本線航路に面し、豊島の海岸ではめずらしく波の音がよく聞こえる。日照時間が長くて夕日がきれいに見えるのも気に入っていた。夜は男木島の灯台の明かりが浜辺に届き、夏は夜光虫が水辺で青く光ることもある。

この日の見学は家の外観だけで家の中に入ることはできなかったのだが、部屋は2つあるという。こぢんまりとしているけれど、手入れがしやすくて丁度よいかもしれない。なによりお気に入りの浜辺が自分の庭のような距離にあるのが魅力的すぎる。案内してくれていた甲生地区の住民の植松さんに、借りれそうになったらぜひ教えてほしいと興奮気味に伝えた。

それから1年後、植松さんから「例の家、脈あり。」と連絡が来て、瞬く間に入居が決まった。そのさらに1年後の2016年3月には、住居だったその浜辺の家で同居人のあいちゃんと「ドンドロ浜商店」という名前の変な店をはじめてしまいました。

ちなみに「どんどろ浜」というのは、店の前の浜辺の昔ながらの呼び名だそうな。「どんどろ」は豊島の方言で雷さまのことで、かつて海岸に植えられていた松の木に雷が落ちたことが由来であると、地区の人が教えてくれた。



小坂ひとみ
1986年生まれ。2012年に東京から瀬戸内海の豊島に移住。
現在は小豆島在住。夫と猫とともに暮らしている。