過去と他人は変えられない、でも
以前の会社の上司に言われたことがあります。
過去と他人は変えられない。
でも、
自分と未来は変えられる。
それから、
僕の中にずっとある大切な言葉でもあります。
本日は、その言葉を物語るようなエピソードをご紹介。
「レジ打ちの女性」というお話です。
どうぞ。
その女性は何をしても続かない人でした。
田舎から東京の大学に来て、部活やサークルに入るのは良いのですが、
すぐイヤになって、次々と辞めてしまうのです。もちろん就職をしてもそれは一緒。
履歴書には入社と退社の経歴がズラリと並ぶばかり。
親は「早く帰ってこい」と言ってくれます。
しかし、負け犬のようで帰りたくはありません。
ある日のことです。
例によって「自分には合わない」などと言って派遣先をやめてしまった彼女に、
新しい仕事先の紹介が届きました。
スーパーでレジ(古いタイプでタイピングの訓練が必要なもの)を打つ仕事でした。
ところが勤めて1週間もするうち、彼女はレジ打ちにあきてきました。
とはいえ、今までさんざん転職を繰り返し、
我慢の続かない自分が彼女自身も嫌いになっていました。
するとそこへお母さんから電話がかかってきました。「帰っておいでよ」
これで迷いが吹っ切れました。
彼女はアパートを引き払ったらその足で辞表を出し、
田舎に戻るつもりで部屋を片付け始めたのです。
長い東京生活で、荷物の量はかなりのものです。
あれこれ段ボールに詰めていると、
机の引き出しの奥から1冊のノートが出てきました。
小さい頃に書きつづった大切な日記でした。パラパラとめくっているうち、
彼女は「私はピアニストになりたい」と書かれているページを発見したのです。
そう。彼女の高校時代の夢です。
「そうだ。あの頃、私はピアニストになりたくて練習をがんばっていたんだ」
彼女は思い出しました。なぜかピアノの稽古だけは長く続いていたのです。
しかし、いつの間にかピアニストになる夢はあきらめていました。
彼女は心から夢を追いかけていた自分を思い出し、
日記を見つめたまま、本当に情けなくなりました。
そして彼女は日記を閉じ、泣きながらお母さんにこう電話したのです
「お母さん。私 もう少しここでがんばる。」
彼女は昔を思い出し、心に決めたのです。
「そうだ。私は私流にレジ打ちを極めてみよう」と。
彼女はピアノを弾くような気持ちでレジを打ち始めました。
そして数日のうちに、ものすごいスピードでレジが打てるようになったのです。
すると不思議なことに、お客さんの様子がよくわかるようになりました。
「この人は安売りのものを中心に買う」とか
「この人はいつも店が閉まる間際に来る」とか
「この人は高いものしか買わない」とかがわかるのです。
そんなある日、いつも期限切れ間近の安い物ばかり買うおばあちゃんが、
5000円もするお頭付きの立派なタイをカゴに入れてレジへ持ってきたのです。
彼女はビックリして、思わずおばあちゃんに話しかけました。
「今日は何かいいことがあったんですか?」
おばあちゃんは彼女ににっこりと顔を向けて言いました。
「孫がね、水泳の賞を取ったんだよ」「おめでとうございます!」
嬉しくなった彼女の口から、自然に祝福の言葉が飛び出しました。
お客さんとコミュニケーションをとることが楽しくなったのは、これがきっかけでした。
いつしか彼女はレジに来るお客さんの顔をすっかり覚えてしまい、
名前まで一致するようになりました。
「○○さん、今日はこのチョコレートですか。
でも今日はあちらにもっと安いチョコレートが出てますよ」
「今日はマグロよりカツオのほうがいいわよ」などと言ってあげるようになったのです。
レジに並んでいたお客さんも応えます。
「いいこと言ってくれたわ。今から換えてくるわ」
そう言ってコミュニケーションをとり始めたのです。
彼女は、だんだんこの仕事が楽しくなってきました。
そんなある日のことでした。
「今日はすごく忙しい」と思いながら、
彼女はいつものようにお客さんとの会話を楽しみつつレジを打っていました。
すると、店内放送が響きました。
「本日は大変混み合いまして大変申し訳ございません。
どうぞ空いているレジにお回りください」
ところが、わずかな間をおいて、また放送が入ります。
「本日は混み合いまして大変申し訳ありません。
重ねて申し上げますが、どうぞ空いているレジのほうへお回りください」
そして3回目。
同じ放送が聞こえてきた時に、初めて彼女はおかしいと気づき、
周りを見渡して驚きました。
どうしたことか5つのレジが全部空いているのに、
お客さんは自分のレジにしか並んでいなかったのです。
店長があわてて駆け寄ってきます。
そしてお客さんに「どうぞ空いているあちらのレジへお回りください」と言った、
その時です。
お客さんは店長に言いました。
「放っておいてちょうだい。私はここへ買い物に来てるんじゃない。
あの人としゃべりに来てるんだ。だからこのレジじゃないとイヤなんだ」
その瞬間、レジ打ちの女性はワッと泣き崩れました。
お客さんが店長に言いました。
「そうそう。私たちはこの人と話をするのが楽しみで来てるんだ。
今日の特売はほかのスーパーでもやってるよ。
だけど私は、このおねえさんと話をするためにここへ来ているんだ。
だからこのレジに並ばせておくれよ。」
彼女はポロポロと泣き崩れたまま、レジを打つことができませんでした。
仕事というのはこれほど素晴らしいものなのだと初めて気づきました。
すでに彼女は昔の自分ではなくなっていたのです。
それから、彼女はレジの主任になって、新人教育に携わりました。
彼女から教えられたスタッフは、仕事の素晴らしさを感じながら、
お客さんと楽しく会話していることでしょう。
人はいつでも、
いつからでも変わることが出来る。
先日の月9でも、主人公の女の子が勇気を振り絞ることから、
周りが感化され、物語が進んでいきました。
人は、変わることが出来る。
それが人間の強さだと思います。
改めて、記しておきましょう。
過去と他人は変えられない。
でも、
自分と未来は変えられる。
今日も変化の一日を。