アジャセ王の改悟・続(令和元年11月法話)
ギバの話を聞いたアジャセ王ですが、
自分には仏様に会う資格がないと言います。
その時、空中に不思議な声がしました。
「この上ない仏の教えは、今まさに衰え病んで、仏法の非常に深い大河も枯れようとしている。
善き友は去ろうとし、恐ろしいことが起きようとしている。
仏法に飢えた人々が救われる時も過ぎ、煩悩の疫病がまさに流行しようとしている。
大闇の時至り、仏法の渇く時に至り、魔王はこれを喜び、くつろいでいる。
仏の光はまさに大涅槃の山に没し、暗闇にならむとしている。
大王よ、仏がもし世を去ってしまったならば、王の重悪はさらに治す者はなくなるでしょう。
大王よ、願わくば速やかに仏の許に行かれることを求める。
仏世尊を除いて他によく救う者はない。
われ今、あなたを憐れむが故に、あえて励ましお勧めする」
アジャセ王は、この天の声を聞いて、恐れおののき、わずかにうめくように反問した。
「天の声は誰なのか。姿を現してはくれまいか」と。
「大王よ、私はお前の父のビンビサ-ラ王だ。
お前は何のためらいもなく、ギバの説に従うがよい。
間違った他の大臣の言葉などに耳を貸してはいけない」
父だと言われて大王は、大地に悶え気絶してしまった。
この時、お釈迦様は遥かにご覧になって、
アジャセ王のために、お釈迦様は「月愛三昧」に入られた。
この三昧は、月光の涼味愛すべく、もって人の苦悩を除くように、
仏がこの三昧に入れば清涼の浄光を放って、世の多くの人々の貪や瞋の苦悩を除き得るから、月愛三昧というのである。
仏はやがて大光明を放たれた。
その光は涼味にあふれ、アジャセ王の身辺を照らしたかと思うと、王の出来物は即座に癒えて、毒も消え失せた。
王は気がついて見ると出来物は自然に治っていて、全身にすがすがしい涼味さえ感じた。
「ギバよ、私の身を照らして出来物の苦悩を除き去り、かくまでに安楽にしたこの光は一体どこから来たのであろうか」
「大王よ、この光明は三つの月が並び照らしたのでもなく、火や太陽や星の光ではありません。
この光明はお釈迦様が放たれたものであり、多くの人々を悟りの世界に導くためのものでございます」
「ギバよ、仏は誰を救うために光を放たれたのか」
「それは大王のためでございます。
心身の病を治す者はいないと仰せになられましたので、仏様は先ず光明を放って王の身の病を治されたのです。
そしてこれから、王の心の病の治療に取りかかられることと存じます」
(つづく)
(仏教説話文学全集から)
☆ ☆
「現世利益」と言います。
いくら素晴らしい仏様の教えも、私達凡人はなかなか信じることが出来ません。
教えが信じるに足るもの、と信じることが出来て初めて聞く耳を持ちます。
それ故に「現世利益」を授けて下さることがあります。これは私達にとっては不思議な出来事にほかなりません。
仏様は必要に応じて不思議を現されます。
仏様に目をかけて頂ける人は幸せです。
仏様に目をかけて頂けるように心掛けたいものだと思います。