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「肩書きは自分で名乗る、自分の名前で受注する。動きながら自分の仕事を形作るためのヒント」Fantasy-sta profiles - 安藤優

2019.11.22 03:14

会社の中でも珍しいIT採用として、SuicaやRingo PassなどのITサービスやシステムに関する仕事に従事する安藤さん。2児のパパであり、ロジカルな語り口の中にも時折お茶目な表情を覗かせる朗らかな人柄で、ファンタジスタの中でも着々とマイプロジェクトを進めていくぶれないお兄さん的な存在。

安藤さんの仕事や活動から、自分らしい仕事を形作るためのヒント探ります。

こんなポイントが気になる方は、ぜひ読んでみてくださいね。



ー 安藤さんの「これまで」。安藤さんの活動は多岐に渡り(※ページ最下部参照)、肩書きも複数持っています。もはや、会社の枠を超えた一面も。今の活動の起点となるものは何だったのでしょうか?


一番のきっかけと思えるものは、2016年にチームファンタジスタの村上さんに、「とあるイベントに行くから、一緒に行かない?」と言われたことです。イベントは、Google主催の「Android Experiments OBJECT」というイベントで、Android スマートフォンをもっと便利に、楽しくするようなデバイスのアイディアコンペの表彰式でした。


そこで優勝したのが、のちに自分自身も参画することになる、一般社団法人PLAYERS(脚注参照。以下、PLAYERS)の前身となった「スマートマタニティマーク」のプロジェクト。そのネットワーキングパーティで、プロジェクトリーダーであるタキザワケイタさんを紹介してもらいました。ぜひ、JR東日本とこのプロジェクトを形にしたい!という話になった時、当時の自分が新規事業や新しい取り組みを推進する部署にいて、新ネタを歓迎するような環境だったため、なんとかお手伝いができ、半年後には鉄道博物館においての実証実験が実現することにつながりました。


私は、当時そのプロジェクトを進めながら、自分がいるのは新規事業を推進する部署なのに、どことなく素人のようなスキルしか持っていないことに不安を感じていました。事業計画も書いたことがなく、アイディアをつくるプロセスもよくわからない。これで良いのだろうかと疑問を抱いていました。

一方、実証実験で関わったタキザワさんはメンバーとともにプロジェクトを形にし、実現させている力がある。彼は一体、どんなスキルを持って取り組んでいるのだろうか?と思いました。

聞けばタキザワさんは、メインの活動はワークショップデザイナー・サービスデザイナーとして、企業や社会の課題解決を行っている。そこから自分もワークショップの手法を習得したいと思い立ち、2017年、ワークショップデザインを学ぶ「青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム」に参加しました。



ー ワークショップデザインを学ぶことで、自分の考えや、仕事に変化はありましたか?


学びを通じて、"目から鱗"の視点がたくさんありました。プロジェクトの様々な場面で、アイディアを生み出す、チームの相互理解をつくるなど、“目的を最も達成しやすい場をつくる”ための豊富なノウハウを学び、日々面白い発見と驚きに溢れていました。

ワークショップデザインを学んでから「場づくり」の重要性に気づき、その手法は会社の仕事にもまさに生きるなと感じました。”今いるメンバーが、全力で力を発揮するための関係性をどうつくるか”は、まさに本業でも必要不可欠な事柄だと気づいたんです。


そして、何かワークショップデザインの実戦機会が欲しいなと思っていた時、研修担当の同僚から、研修の相談を受けました。そしてワークショップの学びを存分に生かし、サービス開発のワークショップ形式の研修を会社内で企画・実施することにつなげることができたのです。

研修では、ユーザ観察やアイディエーション、ペーパープロトタイピング(ペンでアプリなどのサービスを紙で簡単に試作品を作り、ユーザーヒアリングなどにより検証すること)や、アジャイル開発(システムの開発手法。小さく細かな単位で設計、開発、運用など繰り返して最適化していくこと)のエッセンスを体験してもらいました。これまでの仕事の進め方と異なる概念で進めるプロジェクトを体感してもらうとともに、研修プログラムの経営層レビューを受ける機会を作ることで、こういった仕事の進め方をアピールする活動を行っていました。


そこから、徐々に会社の仕事が指示される仕事から、相談され提案する仕事に変わっていきました。会社というクライアントから仕事を受注するような感覚です。それも社内での調整業務の知識に加えて、ワークショップデザインという固有のスキルを持ち始めたからこそだと思います。会社にいながらも、自分のやりたい仕事を主体的に進められる状態は面白いと感じました。

ちなみに、青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラムを卒業した後は、会社の名刺にも「ワークショップデザイナー」という肩書きも、しっかりオリジナルで入れています!


ワークショップデザインは、特に「これが必要だから学ぼう」として取り組んだよりも、「今目の前で行われていることはどうやってできているんだろう」「この人はどうやってやっているんだろう」そんなシンプルな理由でやってみたものでした。実は、意外と自分は行き当たりばったりなのかもしれません(笑)。



ー 会社の一員の枠を超えて取り組んだ活動で、印象に残っているものは何ですか?


新たなるプロジェクトとして、PLAYERSと東日本旅客鉄道株式会社の共同企画「mimamo by &HAND」プロジェクトにも取り組みました。

これは、僕自身もPLAYERSに参画して取り組んだプロジェクト。打ち合わせの際は、社内の担当部署の方に「JRさん」と言ってしまうほど(笑)。

視覚障害者の方を駅でどうサポートしていくか、当事者同士で考えていくプロジェクトで、2019年3月には、実際に赤羽駅でも実証実験も実施。

例えば、ecute赤羽のお買い物補助体験では、視覚障害者の方のお買い物補助を実戦してみるという取り組みを行いました。視覚障害者の方は、いつもは“計画したこと”しか外のことができない。いくつかの選択肢を比べて悩む、健常者にとっては当たり前のことが実現できると大きな喜びになるということを知りました。そして駅という生活導線上でそれを実現することの価値も発見することができました。

視覚障害者のサポートという観点では、社内で自分が担当している業務ではないし、その分野の専門家でもありませんが、ノウハウや想いを持っているPLAYERSのメンバーと当社のCS関係を担当している部署の社員の間で通訳として、まるで出向している感覚で動いていました。それが実証実験の実現に貢献した一つの要素だと思っています。


個人的な話ですが、自分の娘も障害があり、2030年までに障害を持つ自分の娘が不自由しない社会を作るという目標を持っています。今振り返るとその目標に向かって実践経験を得ることが出来たわけですが、それを最初から狙って計画したわけではありません。自分の状況を受け入れながらも、その時やるべきと思ったこと、できることを理由は後付けでもいいからやってみる。やりながら、これってこういう位置付けなのかもしれない、とわかることができるんだと思います。



ー 現在の活動と、これからについて教えてください。


現在はほぼすべてのリソースを 本業であるRingo Passの仕事に投入しています。でも、本当は、会社の仕事も、会社外の活動も、常にどちらもやっている状態が良いと思います。少し落ち着いたらまたバランスをそこに戻したい。


何かやってみたいこと、興味があることはやってみる。理由は後付けでいい。気づいた時に、実は自分の生活の価値につながっていたりするもの。

ワークショップの手法や集団心理学を学んだことによって、また違う事柄にそれらが活かせる感触があります。次はチームビルドや組織開発の分野に進出してみたいと思っています。



ー 最後に、安藤さんにとって「チームファンタジスタとは何か」を教えてください。


ファンンタジスタの活動が自分の能力開発のベースになって、本業の仕事に生きている状態だと思います。ファンタジスタの活動といっても、チーム全員で一つのプロジェクトに取り組んでいるわけではないので、チームファンタジスタとしての僕、かもしれません。


JR東日本だからこそこんなことができたらいいな、面白いな、と思うことはたくさんある。利用者が多いJR東日本という会社がやるからこそ、ちょっと助かる人がいるかもしれない。

そんな会社の外で、やりたいことを勝手にやってみる。それを本業に”輸入”してみる。すると気付くと仕事に生きている。やりたいことのチャンスが舞い込んできた時に、準備ができていることが何より大事だと思います。こんな仕事をしたい、というだけでなく、社外ですがこんな活動もうやってます、という人のほうが自分の好きな仕事が選べる可能性が高いですよね。もちろん、なんの支えもなく社外で活動するのは簡単ではありませんが、それを支援してくれるのがファンタジスタという場の良さだと思うんです。



安藤 優(Andoh Yu)

1984年秋田県出身。2009年東日本旅客鉄道(株)入社。駅・機械設備メンテナンス・システム開発の業務を経て、2013年よりICTを活用した新規サービス・ビジネスの企画担当として、列車内でのエンタメ配信やインドアナビゲーション、位置情報と連携した広告配信、などの企画を手掛ける。現在は、鉄道だけでなく複数の交通手段をシームレスに利用できる Ringo Pass というプロダクトの企画開発に従事している。本業の傍ら、社外の団体に所属しワークショップやサービス開発のプロジェクトに参画。実戦経験の獲得を目指して活動中。専門分野は、アジャイル開発(Scrum)、ワークショップデザイン。



<本業の傍ら、主催またはアシスタント等で参画した企画>

2017年

2018年

2019年

その他、社内プロジェクト向けのアイディエーション・チームビルド目的のワークショップを多数実践


◼︎脚注:一般社団法人PLAYERS 

「一緒になってワクワクし世の中の問題に立ち向かう」をビジョンに、社会が抱える様々な問題に対し、リサーチ・コンセプトデザイン・UXデザイン・プロトタイプ開発をアジャイルで実行することを得意とし、大企業とのオープンイノベーションやコミュニケーションデザインなど、あらゆる手段で解決へと導いてくプロボノチーム。チーム全員が本業を持ちながら、自分の想いを社会実装すべく活動している。安藤は2018.6に参画し、mimamo by &Hand プロジェクトを推進している。



取材・文 / 大久保 真衣