Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

番外編 タイから 1/Nemu Kienzle

2017.01.08 01:00

今年の冬休みはスイスから遠く離れたタイにきています。タイは私の両親が6年間住んでいた国で、娘りりの生まれた国でもあります。両親がタイから日本へ帰国した後も何度かタイを訪れたけれど、観光地だけだとうわべだけのタイを見ているだけでなんだかしっくりこないでいました。

せっかくタイへ行くなら何か為になることをしたいと思い、十日間、田舎の小学校でボランティアとして英語を教えました。ボランティアは今回が2回目で、1回目はイサーン地方の貧しい農村で幼稚園から小学校までの子供達に英語を教えました。農村では、義務教育を終えた子供はほとんど進学させてもらえません。農家で働かなくてはいけないからです。でも英語が少しでも話せれば、将来の就職先の選択が広がり、貧しい生活から抜け出せる可能性があります。観光業界でガイドや通訳をしたり、海外から進出してくる企業に就職もできます。

少しでも子供達の選択を広げる助けになれば、という思いから、2回目の今回もイサーン地方の農村でボランティアをすることにしました。イサーン地方は経済発展が著しいタイの中でも一番貧しい地域です。天候に左右されやすい農業だけでは暮らしていけず、山のような借金を抱えている農家が多いのが現状です。貧しい農家では、借金を抱えた父親がほぼ強制的に韓国やドバイの建設現場や工場での長期労働に送られます。タイへ帰って来れるのは7年後。その間、残された母親は一人で畑を維持し、子供を育てなければいけません。今回は、そういう母子家庭にホームステイをさせてもらうことになりました。

ホームステイ先のお母さん、ノームは30代後半で、10歳の息子と8歳の娘がいます。近所にはおじいちゃんおばあちゃんも住んでいます。ノームは日中にタイもち米の畑を耕し、夕方は自宅前にあるジューススタンドでジュースを売ったり、ゴザを編んで日々の収入を得ています。タイの最低賃金は法律で1日300バーツ(¥970)と言われていますが、農村ではそれ以下が当たり前だそうです。私たちをホームステイに迎え、宿泊費と食費を貰って少なからずの収入にしています。ノームは働き者で、朝4時に起床。夜9時に就寝するまで、一時も体を休めることなく働いています。私たちが泊まっている時は、次の田植えの準備をしている所だったので、少し余裕を持って私達と時間を過ごしてくれました。

朝一番にノームがする事は、窓を開けて空気を入れ替え、家中を掃き掃除すること。前夜に水に浸しておいたタイもち米を、朝焼けでほんのり明るくなった台所で一日分炊きます。その後、お風呂場で樽に溜まった雨水を洗面器ですくって水浴び、子供達に朝食を作って、濡れた髪でスクーターに乗って子供達を学校に送ります。ノームの留守中に近所のお寺のお坊さんたちが托鉢に回ってくるので、お供え物を捧げるのは私の役目でした。

道ばたに立膝をついてお坊さんが目の前に来るのを待ちます。お坊さんが来たら、ぱかっと鉢を開けるので、お供え物を中に入れます。女性は絶対にお坊さんに触ってはいけないので、ちょっと緊張します。お供え物は地方によって異なりますが、北イサーン地方では籠に入った炊きたてのタイもち米を手のひらで掴んで直接お坊さんの鉢に入れ、続けてお菓子、ビニール袋に入ったカレーなどを捧げていました。その後、合掌してお坊さんのお祈りが終わるのを待ちます。お坊さんはいつもと違う面子に興味を持って、お祈りが終わると私の隣に座っているご近所さんに「この丸い顔は誰だ」みたいな事を聞いていました。数日後、「丸い顔はまだいるのか」みたいな事をご近所さんに聞いていたので、私はお坊さんが立ち去るまで笑いを堪えるのに必死でした。ご近所さんも可笑しかったらしく、お坊さんが角を曲がって視界から消えると、私と目を合わせた途端プーッと吹き出したので、私もつられて笑ってしまいました。

托鉢が終わり、ノームがスクーターで帰ってくると、入れ替わりに小学校の先生が車で私達を迎えに来てくれます。初日にノームにタイ語で「また後でね!」と手を振ると、口をぽっかり開けて驚いた顔をしていたので、同乗していた研修生に「なんでビックリしてたの?」と聞くと、今の言葉は「さようなら」って意味だったと教えてくれました。そりゃビックリするよね。今来たばかりのゲストがもう帰っちゃうんだもん。

というわけで、タイでは毎日いろいろな発見があり、充実した毎日を送っています。

▲ ホームステイをした村。右手がホストファミリーの家。

▲ 右からホストファミリーの息子さんと娘さん、お母さんのノーム、姪っ子、りり、ノームの妹


▲ お坊さんを待つ間、片言のタイ語と英語でご近所さんとおしゃべり。心が安らぐ朝のひととき。

▲ お経の間は合掌をします。




キンツレねむ
NYで知り合ったドイツ人と結婚してスイスに越してもう10年。職業はインテリアデザイナー。7年前にタイから養子に来たりりは、いつのまにかやんちゃでかっこいい小学校2年生。