【Premier12】大会総括その2~本気/本気じゃない問題~
総括その2です。第2回プレミア12の大会自体について振り返ってみたいと思います。
が、その前に、プレミア12に『メジャーリーガーが参加していないこと』を挙げて、同大会の存在意義を煽り立てるような記事が、今大会は特に目立つような気がします。まずは、それらを訂正するところから始めたいと思います。
まず、気になるのは『メジャーリーガーが不在だから観客が集まらない。』という類の批判です。『メジャーリーガー不在』という状況を評して「真剣勝負じゃない」とか「本腰を入れていない」という言葉を使っている記事がありますが、これは事実に対する捉え方が正しくありません。例えば、今大会の3位決定戦アメリカーメキシコ戦。オリンピックへの出場権がかかった大一番の試合でしたが、プレイしている選手の表情を見て頂ければすぐ分かる通り真剣そのものです。どんな大会であれプレイする選手は、八百長でもない限り基本真剣に臨んでいます。更に今回のプレミア12には、オリンピックの出場権がかかっている訳ですから、選手だけでなく各国の野球連盟/協会といった裏方も”メジャーリーガーが参加できない”という制約の下で、最大限の戦力を集めようとはしていました。(結果チームによっては、それが叶わなかったこともあるかもしれませんが。)
そもそも、メジャーリーガーが参加できない理由は、本気とか本気じゃないとか、そういうレベルの話ではありません。メジャー球団のオーナーだったり、雇われている選手や代理人、選手会など、それぞれの関係者の利害があり”参加できない”という話に繋がっている訳です。「本気」とかいう言葉で片付けられる程、容易い問題ではないのです。
しかし、『観客数の少なさ』は課題だと思います。これは単純に入場者収入という面だけでなく、テレビを見ている視聴者に大会が盛り上がっていないという印象が伝わるため、マイナスプロモーションに繋がるからです。ここで、今大会の観客動員数の問題は2つに分けられます。1つは「日本代表戦の観客動員数」、もう1つは「日本戦以外の国同士の観客動員数」です。
相手が誰か,よりも大会の格
まず、「日本代表戦の観客動員数」について検証してみます。下の表は、2017年以降の侍ジャパンの観客動員数と、球場収容人数に対する平均動員率をまとめたものです。尚、観客動員数は曜日によって、大きく影響を受けるので曜日別にまとめています。
先に結論を言うと、対戦チームのメジャーリーガーの有無は観客動員数にそこまで大きなプラスにはなりません。ニュースなどで取り上げられる機会の多い日本人のメジャーリーガーなら話は別ですが、日本人以外のメジャーリーガーの認知度や集客力は、コアな野球ファンが思っている程高くないだろうと思っています。
まず、WBCを見ていきましょう。WBCは平日にも関わらず毎試合4万人近くの観客が入っています。表中の火曜日38,813人の試合は、WBC第1次ラウンドと第2次ラウンドのキューバ戦の平均数です。ご存知の通り、キューバ代表にはメジャーリーガーは1人もいません。次に、水曜の42,294人は、1次ラウンド豪州戦/2次ラウンドイスラエル戦の平均人数です。こちらもバリバリのメジャーリーガーはいません。つまり、メジャーリーガーがいなくても4万人は集められるのです。
次に、2018年の日米野球で対戦したMLB選抜チーム。ロベルト・アクーニャJrやファン・ソトなど、本当のトップクラスのメジャーリーガーは数える程度でしたが、それでもWBCで対戦したキューバやイスラエル、豪州辺りと比べれば、メジャーリーガーの人数は明らかに多い相手でした。前半の開幕戦から第3戦にかけては、東京ドームで開催され4万人を超える観客が集まっています。ただ、第5戦28,319人/第6戦25,890人と、後半は観客動員数が3万人を下回っています。理由として考えられるのは、開催地(名古屋)の立地や野球熱の高さなども影響も関係しているのかもしれませんが、日米野球は全部で6戦あるシリーズでしたから、終盤戦はテレビでも選手に見慣れてきたため新鮮味が無くなってきたのも影響したかもしれません。もし、トップ中のトップのメジャーリーガーが来日していたら、状況が変わっていたかもしれませんが、ライトなファン層へのトップメジャーリーガーの知名度がどこまで浸透しているかを考えると、決して名前だけで球場が満帆出来きたか?というと必ずしも言い切れないのではないかと思います。(少なくとも、今後もトップクラスのメジャーリーガーが来日する可能性は限りなく低い訳で、その時点で答えがでない議論にはなります。)尚、広島のマツダZoomZoomスタジアムで行われた日米野球第4戦30,751人(赤色箇所)は、前田健太投手の凱旋試合の色が濃く、球場を超満員に出来たのは日本人メジャーリーガーによる影響と見られます。
そして、今大会のプレミア12では、火曜のアメリカ戦27,827人(東京D)/水曜のメキシコ戦31,776人(東京D)は3万人程度の入りでした。そして、よく取り上げられるのが月曜の豪州戦17,819人(千葉マリン)で、2万人すら下回りました。理由としては、冬場の屋外であったことや、開催地が千葉マリンスタジアムであったことで通勤帰りのサラリーマン中心の集客になったものと思われます。それでも、週末に行われた韓国戦2連戦(東京D)はどちらも4,4000人を超える観客動員数を記録しており、WBCや日米野球の前半3試合と遜色ない観客が集まりました。豪州戦の空席が目立ったので、視る側への強い印象を与えたのだと思います。ただ、報道によるとテレビの視聴率はまずまずだったらしく、侍ジャパンへの関心が明らかに低下しているとも言い切れないようです。
因みに、表中左から3番目の「他」の部分には、強化試合とか年齢制限のあるアジアプロ野球チャンピオンシップの結果が載っています。ここのデータから推測するに侍ジャパンには試合をすれば基本2~3万人程をベースとする集客力を持っているのだろうと思われます。更に4万人に達している試合に着目すると、対象は、WBC、日米野球の前半第1~3戦、プレミア12の日韓戦だったりします。つまり、相手が誰なのかよりも試合の格や位置づけの方が、観客数に影響しているように見えます。特に、WBCだけは平日でも4万人の観客を集めており、日本人にとってWBCブランドが如何に大きいかを物語っています。
第3国での集客力
続いて日本戦以外の試合を見ていきましょう。これは野球に限ったことではありませんが、ホスト国ではない国同士の試合では、どの開催地であってもまず客は入りません。サッカーやラグビーのワールド杯、オリンピック辺りがかなり例外なのであって、世界的なスポーツイベントでない限り、大きな会場の席を埋めるのは至難の業です。
WBCの観客動員数記録を見てみますと、日本戦と同日開催の試合はたとえ日本代表以外の試合でも4万人前後ということになっています。でも、実際の試合画像をみると分かりますが、そんな人数は入っていません。そこで、日本代表の試合が無い日の記録を見てみると3,000~5,000人程度で動員率では10%前後になります。これが本当の実力値です。
今回のプレミア12もだいたいその位で3,000~5,000人でした。ただ、週末の試合は5,000~7,000人近く入っており、やはり曜日は重要ということですね。
日本はマシな方
海外ではもっと悲惨です。
台湾で行われた1次ラウンド ベネズエラvsプエルトリコの試合は、僅か618人(動員率3%)でした。韓国では、韓国戦以外の観客動員数は200~300人(動員率1%)ですから酷いものです。尚、台湾における日本戦は開催時間の関係もあってか4,000人前後集客しています。台湾における日本野球の人気の高さが伺えます。
仕方がないことなのかもしれませんが、大きな球場で観客が入っていない絵は分かっていても寂しいものです。
その他プレミア12の課題
少し話題がそれますが、侍ジャパンが優勝を決めた日、TV報道では『10年ぶりの世界一』という言い方がされていました。これは2009年のWBC優勝と今回のプレミア12優勝が10年離れていることを指している訳ですが、私はどうもこの表現に違和感を感じずにはいられません。WBCとプレミア12は、主催者も違えば参加可能な選手も異なるので、両大会をリンクさせて語るのはどうも気持ち悪いのです。例えば、サッカーである年に開催されたオリンピックで金メダルととったとして、その数年後に開催されたワールド杯でも優勝したとします。それらを紐付けて『〇年振りの世界1だ』という語り方はしないと思います。あくまでプレミア12王者であって、『プレミア12初優勝』というなら話は分かります。この歪な形はWBCとプレミア12という2つの世界大会があることに端を発しているのと思います。
一方で、WBSCのフラッカリ会長は、プレミア12の参加国を+8カ国増やし、プレミア20への拡大案の可能性を示唆しました。参加国拡大の是非は色々と意見があると思います。参加チーム数を増やせば、それだけ試合数が増えるのだと思いますが、日本のプロ野球ファンからはシーズンを終えた選手の負担増を懸念する声も出てくるでしょう。ただ、野球の国際化のことを考えれば普及拡大に向けて必要な試みだと見る見方もあります。WBCの参加国は本戦が16カ国ですから、プレミアが20カ国ならばWBCに出られないような中堅国にも注目されるチャンスが広がってきます。
心配なのは第3回大会以降です。今大会はオリンピックの出場権が関係していたので、各国の野球協会/連盟も選手のリクルーティングがしやすかったのではないかと思いますが、次回大会でそれが無くなったときに、大会自体の権威だけでどれだけ選手が集められるのか?非常に気になっています。
プレミア12再考案
課題をまとめるとこのようになります。
①WBCとの違いが分かり難い
②第3国同士の試合に客が入らない
③オリンピックが無くなるので選手編成に一抹の不安あり
④野球の国際化を推進するため、参加国を増やしていきたい
そこで考えたのが、プレミア12の『コンフェデレーションズカップ化』です。着想はサッカーのコンフェデレーションズ杯ですが、これは各大陸の王者同士が集い対戦する国際大会で、ワールドカップ開催地で予行演習的に行われる大会でした。”でした”と過去形なのは、2017年大会を持って同大会は終了となっているからです。開催時期が欧州主要リーグの開催時期と重なり、一流選手が参加を見送ることでスポンサーやファンの支持が得られにくくなったことが原因ですが、前身の大会から数えると10大会25年に渡り開催され続けました。
現行のプレミア12は、WBSCのランキング上位12カ国に参加権が与えられますが、この選出方法ですと参加国の面子が固定化される恐れもあります。事実、今大会も参加国の入れ替えは、イタリアが抜けて豪州が入っただけでした。ここで、WBSCランキングから参加国を選ぶのではなく、大陸別の王者だけに参加国を限定します。参加国数は4チーム程度(アジア/オセアニア、アメリカ大陸、欧州/アフリカ、ワイルドカード(開催国とか))です。参加国をここまで少なくしている理由は、②の第3国同士の対戦を少なくするためです。一見すると大会規模の縮小に見えますが、この4カ国に絞るための各大陸別の大会をリンクさせること工夫することにこの再考案の狙いがあります。
例えばアジアの場合、主要な国際大会はアジア野球選手権、アジア競技大会、アジアプロ野球チャンピオンシップの3つがあります。この内、アジア野球選手権とアジア競技大会は、シーズン中の開催のため、社会人選手が参加していますが、アジアプロ野球チャンピオンシップは11月開催です。これの参加国を、中国、オーストラリア、フィリピンなどに拡大させてプレミア12の出場予選に繋げます。更にこの大会に、WBC予選への出場国の査定も絡ませてしまうおうと。オリンピックが無くなることが既に見えている訳ですから、この際WBCをとことん利用しようという考えです。ただ、弱小国と強豪国との対戦が増えると試合数も増えますし試合のレベルも下がりますので、強豪国はシードさせてラウンドを分けていきます。ポイントは、国際大会と国際大会同士をリンクさせ、1大会辺りの参加国を絞ることにあります。その代わり、WBCと繋げたり、次の国際大会に繋がるようなストーリーを作ることで大会の格を作り上げていきます。高校野球で、春の選抜より夏の甲子園の方が注目を集めるのは、明確な予選があり流れが繋がっていることが大会の格に繋がっているのだと思いますが、それと同じ理屈です。
更にWBCとの差別化をより明確にするために、コンフェデ版プレミア12に年齢制限を設けてもいいかもしれません。プレミア12では、ベテランか若手有望株の参加が比較的多い傾向にあります。ただ、ベテランが出場するとどうしても往年の頃の話題に話が及ぶので、見ている方は興醒めしがちです。まだ、将来性のある若手選手の方がポジティブな空気が作れるでしょうから、年齢制限にしてしまうのはアリだと思います。
如何でしょうか?前回大会よりも今大会の方が、大会のレベルや集客も改善されたと思いますが、次回第3回に向けてはただ参加国を拡大すればいいという簡単な話でもないと思いますので、色々とアイディアが出てくる良いなと思います。
以上、今回も当サイトをご覧頂きありがとうございました。