聖智にあらざれば、間を用いること能わず【孫子・第6回】
「孫子は、将軍が思い込みや偏見を排除して、常に冷静に情報を扱い、それをもとに判断できる資質を要求した。『聖智にあらざれば、間を用いること能わず』(深い思慮や洞察力がないものは諜報を扱うことはできない)とね」
「しかし、将軍やリーダーはどのようにすれば、あるいはどうあればそのような資質を養うことができるのでしょうか?『孫子』はそれについてはどのような示唆や言及をしているのですか?」
「とても良い質問だ。それを読み解くには、『情報』という視点にくわえ、『リーダーシップ』という視点のフラッグを頭脳に立てて読んでいく必要があるね」
「頭のなかにふたつのキーワードをいれて読みながら整理をしていくということでしょうか・・・少しむつかしいですね」
「いやいや、そんなに複雑に考えなくてもよろしい。『情報』も『リーダーシップ』も人間が扱うもので、それぞれが互いの領域をオーバーラップ、いわば越境しあうものだくらいに考えておくことでいいよ。同じ山に、どの登山道からアプローチするか、要は切り口の問題だからね」
「なかなかきれいには整理できないものですね」
「そうだね。いまの時代はパワーポイントでなんでも整理して表示できてしまうようにおもえるけども、整理しチャート化して、理論の概要を知ることで、分かった気になるほうが実際危険だと思う。戦略は生き物であって、実践するにあたっては即興性も求められる。サイエンスというよりは、アートに近いかな」
「サイエンスよりもアートですか」
「もちろん二者択一ということではなく、戦略を扱う上で、どちらの考え方も大切なのはいうまでもない。サイエンスを合理的思考とすれば、アートは直観的思考とでも定義しておこうか。この後者が意外と大切なんだよ」
「直観ですか・・・直観で何かを決めるということに、なんといいますか、どこかヤマ勘というか、いい加減さを感じてしまいますが・・・」
「いや、直観とヤマ勘はもちろん違う。このあたりのことは、たとえば優れた禅僧にかたってもらうと良いのだが・・・このテーマについては、またあらためて論じることにしよう。Y君の質問は、将軍やリーダーが、どんな風に情報・インテリジェンスを扱う資質を高めうるかだったね」
「そうでした。孫子は具体的にどのような言及をしているのでしょうか」
「一人の人間がどれほど優秀であっても、情報、指揮、リーダーシップにおいて万能になることはできない。孫子はその辺については人間を見限っている部分がある。だから、将軍やリーダーは情報・インテリジェンスに通じるために、それを提供してくれる人間をもっとも手厚く遇して、扱いなさいと喝破しているのだ」
(第7回につづく)
※この対談はフィクションです。
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筆者:西田陽一
1976年生まれ。(株)陽雄代表取締役社長。作家。「御宙塾」代表。