地元人に定番と呼ばれるそば茶屋。 vol.2
2019.10.01 10:20
峠なべの幸せ
夏でも注文客が多い「峠なべ」。餅が2個(地元でよく食べられるヨモギ餅と白餅)も入っていて元気が出る。麺はうどんかそばが選べる。
そば茶屋はメニューも豊富だ。
大看板ともいえる「板そば」をはじめ、
種物の「海老天」「黒豚」「かも南蛮」や季節の「変わりそば」、
ほの甘いだしの効いた「玉子焼き」などサイドメニューもいろいろあって、
こうして思い出すだけで食欲が高ぶってくる。
ある昼下がり、大勢の客に混ざり「峠なべ」をたのんだ。
この峠なべは、寒い冬には三人に一人が注文するという、
そば茶屋の定番中の定番だ。
運ばれてきた土鍋のふたに手をかける。
ふっと息を詰め、一気に開ける。
ふわあっと立ち上る真っ白な熱い湯気。
カツオだしと素材のうま味をたっぷり含んだ香りが鼻先をくぐると、胃袋が騒ぎ出す。
琥珀色のだしに、灰黒色のそばが泳ぐ。
ゆっくり啜る。
喉もとをするっとそばが通り、腹の底へ流れ落ちる。
とろりと煮くずれた餅を、そばと交互に味わえば、おいしさも倍増。
複雑な味わいになったつゆは、一滴残らず飲み干したくなる。
ひと鍋をお腹におさめて、背中じゅうがぽかぽか。
多くの人の「定番」となる味とはこのことか、としみじみ思う。
左下:通にも好まれる「板そば」は、400グラムのボリューム。山芋入りの伝統的な薩摩そばで、喉ごしがよく、味がある。
右真ん中:吹上庵の隠れた〝定番〟「大根の一夜漬け」。好きなだけお食べください、というようにテーブルに置かれる。
右下:そばとよく合う焼酎も飲める。小皿のそばが各種有り、〆にはぴったりだ。天ぷらなどのつまみ類も豊富で楽しい。
そば茶屋の花番さん
花番さんの笑顔
午後の、客足がゆっくりとなる時間帯。
お昼を食べ損なったと見えるOLさんがホッとした顔つきで入ってきた。
勘定を済ませた老夫婦が、ご案内係の花番さんに声をかける。
花番さんはパッと花開くような笑顔で何か答えた。
いい付き合いがあるようだ。
そば茶屋の味は、器の中だけにあるわけではないのだな、と温かい気持ちになった。