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地元人に定番と呼ばれるそば茶屋。 vol.3

2019.10.01 10:15

舞台をつくる人々。

味をつくる人がそば茶屋の看板役者だとすれば、
その舞台裏にはたくさんの裏方役を担う人たちがいる。
今回、店の常連でもほとんど顔を知らないという
庭師さんや花屋さんなどとお会いできた。

心を潤す庭

「普通は駐車場にしてしまうような敷地も、

庭を造れ、庭を造れとオーナーにいわれるんですよ」と

日焼け顔に笑みを浮かべるのは、庭師の林さん。

木を切る、石を組む、木を植える。

そして水、コケ、あらゆる自然要素を使って庭を作り出すのが林さんの仕事だ。

「店が映えるような庭、元からそこにあったような自然な庭を作りたいんです」と林さん。

枝と葉の間から、すかしてみせる景色、枝葉をほこらせて閉じる景色。

その濃淡を生み出す技をさらりと話される。


林さんにとって「よい庭」とは「人の心を潤す庭」だという。

「ただ〝きれい〟だけではダメだと思うんですよ。

見た人がこころの底から潤いが湧き上がるような庭。

そのためには、作ったような庭にしないで、

あるがままの自然を生かすことを大事にしています」。 

改めて眺めるとそこには植物本来の彩りを感じさせる艶やかな庭があった。

花が咲き誇る春も、緑が濃い夏も、紅葉が鮮やかな秋にも訪れたいと思う庭だ。

その庭の手入れを受け継ぐ二代目も育ったという。

 富永弘恵さんと坂下博秀さん。四季折々の生け込みを楽しみに、店に足を運ぶ人も少なくないという。


四季を吹き込む

「毎日毎日、ああでもない、こうでもないと、

おばちゃんとあんちゃんで生けているのよ」と

手を動かしながら快活に笑う富永弘恵さんは

創業以来40年、そば茶屋の生け込みを手がける。

仕事仲間の坂下博秀さんが加わって18年になるという。

自然の四季を吹き込むようにテンポよく生け込みができ上がっていくと、

あっという間に店内の風景に馴染んでしまった。

美しい、でも主張しすぎない。

そこがまたすごい。


「花より草や木が好きなんです」という富永さんは、

一つ一つの植物の表情を見て

「あら、あなた可愛い顔をしているわね」

「こっちを向いていてね」と話しかけながら生ける。

「店に入ってきたお客さんが一回立ち止まってくれたり、

注文している間にホッと眺めたくなる。

そんな生け込みを追求しています」。


よく見ると、細い枝や小さな実や花が、支えあうようにして生け込まれている。

派手ではないけれど、可憐というか伸びやかというか、

どこか優雅だ。

生け込みに顔を近づけて匂いをかいだとき、

ああ、草花っていいものだな、ありがたいな、と感じた。



親子二代ですべての店舗の電気工事を担う、上松隆さん(右)と息子の隆二さん(左)。


誇らしげな気配

そば屋の味の土台をがっしり支える醤油屋さん、

理想的な水まわりを追う厨房屋さん、

傘電球の温かい光で店じゅうを満たす電気屋さん、

1000人のスタッフの白衣を一手に整えるクリーニング屋さんなどなど、

巨大な水車に注ぐ水粒のように、

ちからを合わせてそば茶屋という水車を回す人々がいる。

そして、そのほとんどが創業期から40年近いつきあいだというのだから驚く。


そば茶屋の店内で感じる、すこやかな空気。

それは、舞台づくりを自分の仕事として誇りに感じる人々の気配なのかも知れない。

左:専属の庭師、林さん。そば茶屋とは創業当時からの付き合い。夏は炎天下で、冬は極寒の環境下で作業する。

右:地元ではサクラカネヨの名で親しまれる吉村醸造の上質な薄口醤油を使用。吉村醸造初代からの付き合いで、三代目がそば茶屋の醤油を受け継ぐ。