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地元人に定番と呼ばれるそば茶屋。vol.6

2019.10.01 10:00

物語をつなぐ思い。

伝統を大切にするから、
その先にも進める。


600年以上伝わる日置市吹上町の伊作太鼓踊り。太鼓、衣装あわせて18キロを身に付け2日間、力を振り絞って踊る。(株)フェニックスは、この伝統行事を物心両面からバックアップしている。2018年撮影。


伝統を生かすこと

全国のそば屋でも、そば茶屋のように大型店での多店舗展開は例がないといわれる。

その希有なビジネスモデルをつくりあげてきたのが創業者の堂下会長だ。


そば茶屋のメニュー70〜80種のすべてにかかわるという堂下会長は、

目元に笑みを浮かべてこう語る。

「全国各地を旅して、帰りは飛行機の中を走りだしたくなるんですよ。

感動するようなアイディアやヒントをつかんだら、早く現場に生かしたくてね」。

 仕事が楽しくて仕方がない、そんな気持ちがひしひし伝わってくる。


そばという食文化と同じように、地域文化の継承にも力を注ぐ。

たとえば、600年以上伝わる伊作太鼓踊りヘの支援。

踊りを伝承するという大きな目標に向かって、地域のたくさんの人と力を一つにする。

「伝統を大切にするから、その先にも進めるんです」と堂下会長。

そういえば、専属庭師の林さんのこんな言葉を思い出す。

「会長は、木を切るな、木を切るな、といいいます。

切れば一瞬。何十年、何百年と経た時がなくなってしまう。木は生かすことが大事だと」。


左上:吹上、川辺、平川、隼人のそば茶屋は、昔ながらの茅葺き屋根。 
左上、右上:そば茶屋の顔ともいえる大水車。わずかな水でも5メートル2トンの大水車が見事に回る。 
右下:京都伏見稲荷大社の流れをくむ「稲荷神社」をそば茶屋・吹上庵本店に建立(令和元年5月)。40年前の創業時に堂下会長が稲荷大社をお参りしたことがご縁だ。


物語は進化する

多店舗を展開する堂下さんの経営はときに大胆。

そして、ときに驚くほど細心だ。

たとえば 席に座ったお客さんが、ちゃんと絵になっているか、

全ての座席を一席一席、確かめて、

絵になるように飾るという。


「そういうことには、気づかない人が大半ですが、それは関係ない。

誰に気づかれなくてもやる。

それが〝粋〟というものでしょう」。


そば茶屋という店に足を運ぶと、そこにしかない「物語」に出合えることに気づく。

食、自然、伝統、文化、人々の営みなども含めた、地域のすべて。

その「物語」が、多くの人を惹き付けるのだ。


「どこにでもある店ではなくて、価値のある店をやりたいのです。

いろんな文化を感じてもらえるような」。

新しい物語をつくり続ける人の手で、そば茶屋はまだまだ進化していく。



取材を終わって

「そばの花 雪より白き 白さかな」どの店舗にも、

さりげなく飾られたその書は、

そばの花のように凛とした清らかさを持つ店でありたい、というメッセージにも感じた。


そばは実がなっても、まだ花が咲き続ける生命力に満ちた作物だという。

そば茶屋は、その力強いそばの姿そのものだ。


今日も、そば茶屋の前にきてホッとする。

暖簾の奥には、どこか幸せそうなお客さんたちの顔が見える。

店の中をたくさんの傘電球が、明るく温かく照らしている。

さあ、食べよう。

ここは、自分だけの「定番」がある店だから。


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