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【学術集会報告】棒高跳選手における腰部の骨や軟骨の変化に関する調査

2019.11.27 01:30

こんにちは。 中京大学大学院の榎将太です。  

今回の記事の内容は、「腰椎分離症と腰椎椎間板変性」についてです。 


漢字ばかり続いて難しそうですが、要は腰の骨や軟骨の変化です。 

できるだけ分かりやすく説明できればと思うのでお付き合いください。  


下記の内容は2019年臨床スポーツ医学会学術集会で発表しました。

 

【棒高跳における腰部への傷害】 

棒高跳において腰部の傷害が多いことは以前の記事でお話しました。

皆さんの中にも腰への負荷や痛みを感じたことがある方も多いと思います。  

先行研究では、以下の点が腰部の傷害と関連しているのではないかと指摘しています。 

1.踏切時の腰の伸展 :適切な踏切位置よりも近い位置での踏切(足が入っている踏切)をした場合に腰の伸展が引き起こされます。 

2.空中動作中の脊柱可動範囲の広さ 空中動作(踏切時に体が最大伸展してからロックバック時に最大屈曲する)中に脊柱可動範囲が広い動作が求められます。  


【棒高跳における腰部組織の変化】 

そんな棒高跳では、選手の腰の骨(腰椎)や軟骨(椎間板:骨と骨の間の緩衝材)に負荷がかかり、変化が起きているのではないかと思い、男性棒高跳選手20名においてレントゲンとMRIを撮影させてもらいました。  


対象者:男性棒高跳選手20名 (大学生13名、社会人7名) 

対象者を選ぶ際に、腰痛の有無は事前に確認を行いませんでした。  


腰が伸展(反る)・回旋(捻じる)することで発生しやすいと言われている腰椎の骨折である腰椎分離症と椎間板に負荷がかかって黒くなって安定性が悪くなっている腰椎椎間板変性を調査しました。  

・ 腰椎分離症:腰椎の骨折。進行すると骨が前に出てしまい「すべり症」となります。 

・ 腰椎椎間板変性:腰椎の間にある椎間板に負荷がかかり、安定性が悪くなっている状態(MRIでは黒く映ります)。進行すると後ろにある神経を圧迫する「腰椎椎間板ヘルニア」となります。 


 【棒高跳と腰椎分離症】 

まずは腰椎分離症についてです。 

今回の調査では、20名中6名(30%)に6件の腰椎分離症が見られました。  


日本人を対象に各スポーツの腰椎分離症を調査した研究をまとめた論文(1)では、一般男性は7.9%の有病率であり、ラグビーやアメリカンフットボール選手における20.5%が総合的な有病率として最も高いと報告しています。 

この研究と比較すると棒高跳の有病率(30%)は高いことが考えられます。  

典型的な写真を載せますが、分かりにくいですかね(笑) 

矢印の部分の骨が割れているのが見られます。 


 腰椎分離症があった選手の中でも腰痛がある選手は2名でした。 

つまり、腰椎分離症があっても腰の痛みを感じてない人の方が多いのです。  


【棒高跳と腰椎椎間板変性】 

続いて腰椎椎間板変性です。 

今回の調査では、20名中7名(35%)に8件の腰椎椎間板変性が見られました。  


日本人大学生の腰椎椎間板変性を調査した先行研究(2)では、非アスリートである学生の有病率は31.4%であると報告しています。

この結果と比較すると、棒高跳は腰椎椎間板変性への大きなリスクとなっていないことが考えられます。  

こちらも典型的な写真を載せています。 

椎間板が黒くなって幅が狭くなっているのがわかります。 


また、腰椎椎間板変性があった7名中3名に4件の腰椎椎間板ヘルニアがありました。 

つまり確認された腰椎椎間板変性のうち約半分は進行しヘルニアとなっていました。

その中でも腰痛がある選手は2名でした。 

こちらも腰への痛みを感じていない選手の方が多かったです。 

その他に、椎間板が上下の骨に飛び出してしまう「Schmorl結節」が2名に4件、腰椎の下にある仙骨が分離し腰椎のように動いてしまう「仙骨の腰椎化」が3名に確認できました。 


【まとめ】 

今回の調査から、棒高跳は腰椎分離症を引き起こすリスクとなっている可能性があります。 

しかし腰痛の有無を調査してみると、腰痛がある選手は一部でした。 


万が一、今読んでいるあなたが腰椎分離症や腰椎椎間板ヘルニアと診断されて落ち込んでいるのならば、そんな必要はありません。 

治療をすれば痛みがなくなる選手は多いです。 

また、腰椎分離症は硬いコルセットを正しく使用すると骨がくっつく場合もあります。 

しかし、腰部が不安定なのは事実です。 

きちんと正しい体幹トレーニングを行って、強化しましょう!! 


*今回の調査によって棒高跳と腰部の骨や軟骨の変化について、全てを理解できたわけではありません。腰椎分離症の確定診断には通常CTスキャンを用いますが、被ばく量が高いことから撮影を行いませんでした。そのため、見落としがあり、さらに高い有病率である可能性も考えられます。

加えて、大学生以上の選手を対象にしているので、大学生までに怪我で引退している選手を含んでいないことも挙げられます。  


棒高跳と腰部への傷害の実態を理解するためには、引き続き調査を行うことが必要です。 


【参考文献】

(1) Sakai T, Sairyo K, Suzue N, Kosaka H, Yasui N. Incidence and etiology of lumbar spondylolysis: review of the literature. J Orthop Sci. 2010;15:281-288. 

(2) Hangai M et al. Lumbar intervertebral disk degeneration in athletes. Am J Sports Med. 2009 Jan;37(1):149-55.