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モータースLIVE

さきぽん

2019.12.03 15:00


ダーダダダーダダーダダダダンッ!



始まる始まる、私の時間。



私の名前はさきぽん。

プロダクション人力舎に所属する、芸歴3年目のピン芸人。

芸歴1年目の頃からモータースLIVEに出演している。

ダーダダダーダダーダダダダンッ!

この曲は、映画「セッション」の「Whiplash」。

モータースLIVEの出囃子でお馴染みとなっている。

出囃子とは、芸人が舞台上に登場する際に流れる音楽のことである。

つまり、自分たちの時間の始まる合図。

この曲を聴くと、これから始まる3分間に全神経が集中し、緊張と高揚で気が引き締まる・・・はずだった。

以前は。


私さきぽんは、先日相方と解散した。

現在、人生で初めてのピン活動をしている。初めてのピン活動に右も左も分からずフラフラしている私は、この出囃子に重圧を感じてしまっているのだ。

「あーあ、ピンネタってどうすればいいんだろう」

モータースLIVEの帰り、溜息と共に吐いた大きな独り言は、夜の空へとすぐに消えた。

独り言さえも私を置いて行ってしまうのか。そんな憎しみの気持ちを込めて夜空を睨んでみたが、すぐに馬鹿馬鹿しくなって足元に視線を落とした。

「…あれっ?」

落とした視線の先には一輪の花があった。

名前も分からない赤色の花。

私は、一輪だけで咲くその花に自分の姿を重ねた。

「お前、私に似てるね」

花と目線を合わせるようにしゃがみ込み、無意識にその花を手に取った。

「・・・コント、漫談、フリップ、コント、漫談、……」

ぷち、ぷち、ぷち。

昔よくやっていた花占いに乗せて、自分が何をやっていくべきかを占う。

こんなものに頼っても仕方ないとは分かっていても、今の私はこんな一輪の花にでさえも縋り付きたいのだ。

「おいおい、何やってんねん」

ふと後ろから声がかかる。

振り返り見上げると、そこに立っていたのは

「ヤマザキモータースさん?!」

彼、ヤマザキモータースさんは、モータースLIVEの主催者であり、私が1年目のときにモータースLIVEに誘ってくださった大先輩である。

「花が泣いてるで」

そう言われて手元の花を見る。

確かに先ほどより萎れて元気がない。

なんだか花に八つ当たりしたような気持ちになり、恥ずかしさと申し訳なさから、私はその赤い花をそっと咲いていた場所に優しく置いた。

「本当ですね…ごめんね、お花さん…」

「そっちやない」

「え…?」

「俺が泣いてると思った花は、こっちや」

そう言ってヤマザキさんの手の平が優しく私の頭に乗せられる。

瞬間、タガが外れたように涙が溢れ出した。

「わ、私っ…花なんかじゃありません…!ピンになるって決めたくせに、こんなっ、自信も持てなくて…っ!」

「そうやな。花やなかったな」

そう言いながらヤマザキさんは私の目の前にしゃがみ込み、私が置いた赤い花を手に取ると、私の髪の毛にそっと通した。

「さきぽん、お前は花やなくて、華や。この赤い花な、ブーゲンビリアって言って、"魅力に満ちている"っていう意味があるんや。お前にぴったりやと思わんか?」

ヤマザキさんの真っ直ぐな視線、真っ直ぐな言葉から目が離せない。

いつもより近い距離に心臓が高鳴るのを感じる。

感動なのか恥ずかしさなのか、理由の分からない涙が再び溢れそうになったが、視界からヤマザキさんを消したくなかった私はぐっと堪えた。

そんな私の頭を撫でながら

「ぶさいくやなあ」

と笑うヤマザキさんは帰路につこうと立ち上がった。

「あ、あの!勇気づけてくれてありがとうございました!私、もっともっと頑張ろうと思います!気を遣わせてしまってすいません!!」

ヤマザキさんの体温が遠くなったことに寂しさを感じつつも、私は精一杯元気な声で感謝を述べた。

ヤマザキさんはびっくりしたように目を開いた後、少し拗ねたように頬を膨らませた。

「気ぃ遣ったわけやない」

「え?」

「ブーゲンビリア、もうひとつの花言葉知ってるか?!」

「い、いえ知りません!すいません!」

ヤマザキさんは目の前の民家の屋根に飛び乗ると、振り向いて私を見下ろした。

そして意地悪な笑みを浮かべ私に向かって指を指し、いつもの会場中に響き渡っている声を私だけにぶつける。

「"あなたしか見えない"………やで!」

そのまま屋根から屋根へと飛び移り、ヤマザキモータースさんは夜の空へと消えていった。

ひとり夜空の下にぽつんと取り残された私は、先ほどのブーゲンビリアのよう。

でももう独りを恐れることはない。

私の顔色までもブーゲンビリアのようにした彼のおかげで。

私の頭の中で、あの曲が鳴り響く。



ダーダダダーダダーダダダダンッ!



始まる始まる、私の、彼との時間。








【あとがき】

フィクションです。

ブーゲンビリアは道端に咲きません。