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真山隼人 独演会振り返り&今後の公演に向けて 2019年11月号より

2019.12.01 02:43

目次

1.10月独演会振り返り(演目や澤孝子師匠の話)

2.12月公演「大忠臣蔵」見どころなど

インタビューは国立文楽劇場での独演会後にいたしました。独演会の裏話や今後の公演の見どころをたっぷりお聞きしています。小・中学時代の思い出などここだけのディープな話もあります。

1.10月独演会振り返り(演目や澤孝子師匠の話)

―まず10月4日に開催された独演会の話から聞かせてください。一席目は「西村権四郎」でしたね。

隼:あれは華井新の台本を内田八夢が脚色したんです。蒲生氏郷が西村が帰ってくるまで酒を我慢する台本も大好きなんですけど、ぼくは登場人物に我慢させたくないんですよ。酒を我慢するのも良いんですけど、ぼくは「西村帰ってこうへんかったらアンタどうするんや」って思ってしまうんですよ。だから、ぼくがやるには性格上リアリティーがないんです。「やっぱり酒は飲みたい!」これがあるんですよ。西村が帰ってきたら、また酒飲み始めて酔っ払い同士で絡み合うっていうのも、社畜とか色々あるので、今時あの話どうなんやって言う人もいます。けど、ぼくはやっぱり心底好き同士の主君と家来の関係があるのでこれは良いなぁと思いますね。二人ともやっぱり変わり者なんですよ。この主にして、この家来。

※内田八夢は真山隼人のペンネーム

―お互いが本気でぶつかり合える主従関係は良いですよね。独演会で観て、よりその関係性の魅力が伝わってきました。サラリーマンとしても魅力的を感じるところです。

隼:そうですか。あのネタはこれからも詰めてやっていこうかなと思いますね。

―では、今回の目玉の一つだった「ぬれ手拭い」の話を聞かせてください。セリフが標準語で今までの隼人さんのネタとは違う印象を受けました。標準語を使うことに違和感はなかったですか。

隼:これに関しては生まれが三重で良かったなと思うところで、関西圏と関東圏の境目なんで、友だちの中には標準語圏の喋り方する人もいたんですよ。「~じゃね」「~だよ」「もう内田くんやめてよ」そういう喋り方する子がいたんですよ。そういうのも聞いていたことと、あとやっぱり円生師匠が好きやったのもあるんでしょうね。だから、江戸弁に抵抗がないんですよ。

あと小円嬢師匠が言ってたんですけど、浪曲の中での関西弁はやっぱり素の関西弁ではない。これは浪曲の関西弁。普段喋ってる言葉とはちょっと違うんですよ。だから、浪曲の大阪弁、関西弁というのも自分で聴き覚えて仕込んだものですし、江戸弁というのも自分で聴き覚えて仕込んだものなんで。意識して喋れば何とかいけますね。

―隼人さん自身は元々関西弁のイントネーションだったんですよね。

隼:そうですね、関西弁、伊勢訛りなんです。だから、「亀甲縞」なんかやったらホンマに土地の言葉で全部できますからね。あと、小学校の時から言語を研究してたんですよ。一時期、中国訛りの日本語にすごく興味持ちだした時期があって、「そんなことしてたら罰当たるアルヨ!」みたいな感じで一週間くらい喋ってたんですよ。さすがにこれが学校で大問題になったりして。

―大問題に!

隼:「そんなこと言うもんじゃない、昔の中国の古い諺に良いことあるよ、善は急げよ、はよ行くアルヨ!」みたいなこと言ってたら、さすがに先生に「内田くんやめなさい」って叱られました。

―それは先生も止めるしかないですね。

隼:中学校入ってからは円生師匠好きになったわけですよ。好き過ぎて、あの喋り方を真似してたり。「(円生師匠の口調で)それは違うんじゃござぁせんかね。わたしゃ両家が悪いと思いますがね」とか。(林家)彦六師匠の真似したら、先生の中に彦六師匠ファンがいたりして注目されたり。こんな風に訛りで遊んでたんで、なんとかうまい感じでイントネーションを残しつつできたかなと思いますね。ちゃんとした人が聴いたら、あんなのはアカンって言うかもしれないですけど。

―なるほど。江戸弁に元々馴染みもあったのですね。

隼:「お前さん」の言い方一つでも違いがあって、やっぱり江戸弁は押し出さないですね。他にも、「い」と「し」 には気をつけろとか。「冷えの薬」が「しえの薬」になっていたりとか。楽しいですね。言葉で遊ぶっていう。

―さて、「ぬれ手拭い」の内容に関してですが、お稽古でも相当の体力を使うと言っていた妙念を殺す場面は静かながらも気迫や緊張感がよく伝わってきました。

隼:スタッフさんとも相談して照明を落として、ピンでスポットライトを当ててもらったら集中して入り込めたんですよ。舞台効果の力であんだけ集中できることが実感できましたね。

―集中しているというと、隼人さんは登場人物の役柄に入り込んでいるのでしょうか。それとも俯瞰している隼人さんもいるのですか。

隼:ぼくが浪曲に対して思ってるのは、浪曲をやってる間に浪曲師自身が入り込み過ぎてヒートアップしちゃうんですけど、それはいけない。やっぱりどっかから俯瞰してみないといけないんですね。ただ、このネタに関しては俯瞰しなくてもいけるなと思ったのはあまりにもシーンとした場面で声を潜めたり、マイクの力を頼らないといけない。そこまで自分もヒートアップしない。なので、そこまで俯瞰してみなくてもこれは入り込んでやってもいけるって思いましたね。

―熱くなり過ぎず、入り込んでいる感じでしょうか。

隼:そうですね、だから、殺すところは自分がいかにも殺してる感じで、憎らしくやろうと。その代わりヒートアップはしない。静かに殺す。

―あの場面は迫力や臨場感がありましたね。体力使うという意味がわかりました。あと気になったのは国友先生と隼人さんの違いです。隼人さんがアレンジしたり脚色した部分はありますか?

隼:節ですね。国友先生は関東節で、ぼくは関西節なので、そこは違います。豊子師匠に言われたんは「節は自分の節を使いなさい、その代わり啖呵は呼吸から何から何まで一言一句変えるな。テープを聴いて全部覚えてこの場で勉強しろ。」と。

―へぇー!

隼:「この場でやってくれ。これが勉強だ。」って言われました。だから、国友先生のテープばっかり聴いてやりましたよ。そうなってくると、普段ぼくがやってる浪曲の節は明るくバッーンとやるようにするんですけど、ああいう淋しげなネタに合わして使う節もやっぱ変わってくるんです。ちょっと落ち着いたシトーンとした節になったり。途中の攻めの節は国友先生のままやろうとか。だから、関西節なんですけど、間で関東節っぽいのもを入れたりっていう工夫もしましたね。

―なるほど、豊子師匠の言葉やそういう節の工夫もあり、国友先生の雰囲気や世界観を壊さずにできたのでしょうか。

隼:なんとか、できたと思います。本当に大変でした。過去に小円嬢師匠から稲荷丸をいただいた時も大変だったんですけど、そのおかげで、今では他のネタやってても「これ小円嬢師匠の間やな、型やな」って思えることがあります。なので、国友先生のリアリティのある間や語りを勉強することによって、いずれ自分の浪曲が変わるのかなと思いますね。

―他の浪曲にも活きてくるんですね。独演会終わりで、澤師匠から徂徠豆腐をもらったとツイッターに上がっていました。「徂徠豆腐」をもらうのは、どういった経緯だったのでしょうか。

隼:澤師匠に打ち上げの場で言っていただきまして。

(澤師匠が)「今日はあなたの会に来て、あなたの浪曲に対する意気込みに感動しました。これは今日の浪曲への情熱に対するご祝儀でありご褒美です。あなたにこれをあげたら師匠菊春も絶対に喜んでくれます。」

「いいんですか!」ってなりました。まさか師匠からそんなことを言ってもらえると思ってなかったので、びっくりしましたね。

―澤師匠にそう言ってもらえると感動的ですね。これを覚えることでまた隼人さんの浪曲も進化しそうですね。

隼:これから徂徠豆腐を自分の物にしていけたらと思います。中には「お前は誰のネタでもやるから、その人のネタやったらその人のキャラになる」っていう人がいますけど、ぼくは案外ネタには気を使ってて、その人にもらったからその人のキャラになるんですけど、やっぱ自分のカラーもあるんで、それを精一杯出したところにその人の匂いが仄かに感じられたら良いかなと思ってて。ただ、器用貧乏にただ真似をするっていうのは違うと思ってますね。

―さて、澤師匠ですが、舞台でも隼人さんを褒めてはったり、あの会を楽しまれている印象を受けました。

隼:すごい楽しんではりました。

―澤師匠と共演して思ったことや学んだこと、発見になったことはありますか。

隼:やっぱり浪曲に対する想いですよ。売れてる売れてないとか関係なく、浪曲というものに対する情熱や愛を持ってて良かった。浪曲に対する情熱はいつまでも持ち続けないといけない。これは思いましたね。浪曲は神々し過ぎて…。あと、澤師匠が来て下さったことで、楽屋も舞台袖のスタッフさんもパァッと明るくなりましたね。

―存在感でしょうか。

隼:緊張感はあるんですけど、いい緊張感の中に良い明るさを持たせてくれるという。

―舞台でも澤師匠が立つと空気が変わる気がしました。

隼:音リハで師匠がマイクチェックした時に一発目の節で音響さんがピシッとしてましたね。「隼人、お前今日大丈夫か?ちょっと頑張らなアカンぞ」みたいな感じで脅されました(笑)。

―澤師匠は節の一発で空気変わるくらいのインパクトありますもんね。

隼:口上は声大きくないのに、本編になったらなんで大きくなるんでしょうね。

―本編の中でも強弱の付け方が本当に心地よくて、節に包まれてる感じでした。

隼:澤師匠がやってる時、客席覗いてたんですけど、皆さん本当に喜んではりましたね。

2.12月公演「大忠臣蔵」見どころなど

―最後に12月にシアターセブンで開催される大忠臣蔵のことを聞かせてください。開催しようと思ったきっかけはなんでしょうか。

隼:ぼくの前の師匠・真山広若(現:二代目真山一郎)が忠臣蔵300周年の時に大忠臣蔵っていうのをやったんですよ。それは初代真山一郎の忠臣蔵のネタから抜粋して、間を舞踊で繋いで一時間半の舞台ですよ。そのビデオを見てて、ぼくも自分なりにこれをやりたいってずっと思ってたんです。それと、三波春夫先生の大忠臣蔵っていう忠臣蔵の最初から最後まで入ってるレコードがあるんですよ。それも聴いて、これだと思いました。だから、ぼくは真山広若、三波春夫この二人の大忠臣蔵を見てこれをやりたいってなったんですよ。

―隼人さんなりの部分は具体的にどういったことになるのでしょうか。

隼:ぼくはうちの先代の忠臣蔵で良いと思う部分もありますが、言葉遣いとか違うんじゃないかと思う部分もあります。今の人にも聴いてもらうために言葉遣いを口語で作ったのが初代真山一郎の忠臣蔵なんですよ。これは当時としてはすごい画期的なことやと思うんです。でも、ぼくはそうではない。ある程度古典という形を守った浪曲で忠臣蔵をしていきたい想いがあります。

―なるほど。それは大きな違いですね。演目は時系列に選んでいるのでしょうか。

隼:そうですね。時系列であったり、なかったり。途中で外伝を挟んだり。でも、南部坂はやらないんです。それは10周年の記念公演でやるんで。

―敢えて10周年の演目に選ぶのはまた違う思い入れがあるのですね。どういったところでしょうか。

隼:綺麗なネタなんですよ。

―それも初代真山一郎先生とは違った型でしょうか。

隼:先代の真山一郎先生の大師匠にあたる京山華千代師匠の南部坂。これをやってるんです。

―違いがあるんですか。

隼:本当の本寸法の浪曲です。雲右衛門と奈良丸の南部坂をミックスして作ってはるんで、良いとこ取りなんですけど一席きれいにまとまってる。あのネタは力も技も兼ね備えてないとできないネタです。ぼくみたいな若いのがやるネタではないですし、まだ自分ではできないのは重々承知なんです。それでも浪曲少年として、あれをやりたいんですね。無理だとわかっていても、それをやりたい。しかも大きなところでぶつけて早く自分のものにしたい。それが10周年なんですよ。

―すごい!意気込みが伝わってきます。シアターセブンの大忠臣蔵も10周年の国立文楽も必見ですね。