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やわい屋

11月 巡り巡る。

2019.12.02 07:06

随分前から、我が家の洗面所の壁に貼られている一枚の写真があった。

写真といっても原板ではなく印刷の切り取りだ。

諏訪のマスヤゲストハウスに泊まった時に貰った、写真展のDMの切り抜き。

波紋と光がきらめく写真は

気がつけば僕らの日常の景色になっていた。

切り抜いてしまったから、誰が撮影したか分からなかくなった写真。

時折、話が出た。写真を撮ってもらうならあの人がいいね。

佳子はその度、僕に告げた。


きっと物語がある写真を撮る人だと思うんだよね。



つい先日、友人が紹介してくれた一人の写真家さんがいた。

共通の友人も多く、なんてことない話から大いに盛り上がった。

感じていることにも、活動の理念にも心から共感を感じた。


よかったら、今度東京で個展をするのでDMを置かせてください。

そう言って彼女が差し出した印刷された写真を見て、佳子はこう言った。


もしかして・・違うかもしれないけど、家にずっと貼ってある写真があって・・見てもらえませんか?


その場にいたみんなが驚いたことに、それは、間違いなく彼女が数年前に行った展示会のDMだった。

何気ない風景の写真だ。特徴なんてまるでない。それでも佳子には分かった。

紙の質感、写真の表情から、それが彼女の写真だと。

長く壁に貼られて色あせた写真を、彼女は大切そうにカメラに収めた。



僕らの生活は毎日平凡だけど

時折こういう出逢いがやってくることを知っている。

だから、やるせない毎日も

不安で押しつぶされそうな時も

それはそのままでいいのだと。


そう思える。