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KANGE's log

映画「カツベン!」

2019.12.03 13:09

filmarksさんの試写会に当選しました。銀座になる東映試写室は、ふつうのオフィスの中にあります。社員さんも仕事しづらいだろうなぁと思いつつ、試写室に向かいます。  

活動弁士という題材、そしてタイトルに「!」がついてしまう感じから、三谷幸喜感がありますが、周防正行監督作品です。 今年の夏に、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」の特集「弁士のお仕事とは? 実演を交えて解説してもらおう by 澤登 翆」で、活動弁士の仕事の面白さを知ったばかりでしたので、大変興味深く見ることができました。その時に知った「活弁士はそれぞれの映画館所属」「活弁士は会いに行けるアイドル」という話が、そのまま映画の中にも織り込まれていました。

幼い頃から活弁士に憧れていた主人公・俊太郎は、ニセ活弁士をやらされていた窃盗団から逃げ出し、転げ込むように、青木館という映画館の住み込み職員とになる。ライバル映画館の攻勢で苦境に立たされている青木館だが、活弁士として登壇するチャンスをつかんだ俊太郎が人気者になり、幼馴染の梅子とも再会し…というお話。

まあ、ドタバタのコメディです。ちょっとしつこいぐらいの体をはったアクション&ギャグのシーンもありますが、このあたりは、当時のチャップリンやバスター・キートンなどの活動写真のドタバタを意識しているのでしょうね。活動写真と活弁士の映画だから、活動写真風に撮るということでしょう。

その劇中で上映される活動写真ですが、最初は、当時のものを流しているのだと思っていました。しかし、よく見ると出演しているのは、どうも見たことのある顔。また、実在の人物も出てきます。池松壮亮が演じる二川という監督は、二川文太郎のことで、彼が撮ろうとしていた「無頼漢」という映画は、後に改題され「雄呂血」となって、無声映画の傑作と呼ばれるようになります。そういうところが、さらっと出てくるのも、ニヤリとさせてくれます。

まあ、出てくる人物はみんな、曲者揃いというか、個性が強い。竹中直人演じる青木館の主人は、相変わらず「これ、絶対アドリブだよね」という独特の間と動きとセリフで笑わせてくれます。女性ファンが集まる人気活弁士・茂木役の高良健吾、窃盗団のリーダーの音尾琢真、ニセ弁士を追い続ける活動写真好きの警察・竹野内豊、ライバル館を運営するヤクザ親子の小日向文世・井上真央、みんなハマりまくっています。 

特に良かったのが、成河が演じる青木館の映写技師・浜本。フィルムを切り貼りする技術、そして休憩しながら映写機を回す神業(笑)など、いろいろ見せてくれます。ある意味、一番活動写真愛が強いキャラクターかもしれません。当時の映写機は手回しなんですよね。観客の反応を見ながら弁士が解説の調子を変えていく、その弁士の調子にあわせて映写技師が上映のスピードを変えていく。当時の活動写真は、完全に「ライブ」だということがよく分かります。 

ヒロインの黒島結菜は、俊太郎の幼馴染で新人女優。さらりと描かれていますが、貧しく、家庭環境には恵まれていません。清純でかわいらしいだけのヒロインではありません。俊太郎と再会するまでは人気弁士・茂木の女となって映画出演の機会を得ていたわけで、華やかな世界へ這い上がってやろうという気持ちの強さも感じます。

ライバル映画館が、以前は見世物小屋だったということが、舞台裏の看板などから想像できます。そもそも経営しているのはヤクザです。その子分は、地方で上映会を開くことで、その隙に窃盗を繰り返していました。日本映画黎明期の映画人の思いと勢い、そして、ある種の「いかがわしさ」を周防監督独特の品の良さでさらりと織り交ぜ、娯楽活劇に仕立て上げたという感じでした。

そして、永瀬正敏演じる青木館所属の弁士・山岡秋声は、かつては俊太郎も憧れた人気弁士でしたが、現在は呑んだくれてほぼ使い物になっていません。彼は、弁士でありながら、弁士という役割に疑問を感じているんですね。活動写真単体でも十分面白いと思っている。彼には、見世物興行とは異なる、活動写真の未来が見えていたのかもしれません。

ネタバレを避けつつ、ふんわりと書きますが、物語後半、青木座は存亡の危機を迎えます。というより、壊滅的な状況に陥ります。でも、復活の希望が出てくるのが、フィルム缶からというのも、いい演出だと思いました。

ちょっとひっかかったのは、主人公が、これまで憧れの弁士の模倣だったものから、自分らしさを打ち出すようになるくだり。これは、偽者から本物になる瞬間であり、大きなターニングポイントなのですが、案外あっさりと実現してしまうという点。ここはもっと、壁を乗り越えるようなドラマティックな展開があってもよかったような気がしました。