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のらくらり。

どこにキスする?

2019.12.03 13:26

ルイス限定キス魔なウィリアム。


いつの間にか冷めてしまった紅茶を飲みきると、タイミング良く追加の紅茶が注がれる。

たちまち周囲に漂う格式高い香りに思わず頬が綻んだ。

間違いなく風味豊かに淹れられたそれは、是非とも冷めないうちに味わうべきだろう。

そう考えたウィリアムはルイスからカップを受け取って、丁度適温であるその紅茶を一口飲んで微笑んだ。


「うん、美味しい。ありがとうルイス」


姿勢よく立っているため、ソファに腰掛けている自分よりも幾分か目線の高いルイスに礼を言う。

それに言葉は返さず瞳を細めることで返事をする弟を見てから、彼を呼び寄せるため軽く手招きをした。

何の用かを問うこともなく、その場から一歩こちらに足を進めるルイスの手を取る。

そのまま手を引いて隣に座るよう促せば、抵抗なく体を隣に預けてくれた。

ルイスの重みでわずかに沈んだソファの弾力に逆らうことなく、彼の体に身を寄せる。


「兄さん、町の皆さんからジャムを頂きました。紅茶に入れてみても良いですか?」

「いいね、お願いしようかな」


細い腰を抱いてその髪の毛に頬を寄せる。

先ほどまで庭の手入れをしていたのか、普段よりも温かく陽だまりのような匂いがした。

ふわふわと頬を擽る感触が楽しくて、想いのままに唇を寄せてキスをする。

そういえば、学術的に髪へのキスは思慕を表すとどこかの雑誌で読んだ気がする。

くだらない俗説だな、と気にも留めなかったが、あながち間違ってはいないのかもしれない。

ほとんど無意識ではあったが、確かに恋い慕う気持ちゆえに髪へのキスをしたのだから。

唇を離しても頭を離すのは惜しく、すり寄せるように頬を押し付けて、愛しい気持ちを隠さずに細身の身体を抱きしめた。

するとウィリアムの腕の中で抵抗するようにルイスの身体が動き出す。


「少し離していただけますか?ジャムを入れられません」

「…ならジャムはなくてもいいよ」

「兄さん」


横目で見れば、確かにジャムを入れた小瓶はテーブルの向こう側に置かれており、手を伸ばすためには腰をあげなければならないだろう。

だがせっかく抱きしめた身体を離すくらいなら、ジャムを入れなくても構わない。

ルイスが丁寧に淹れた紅茶なら、ジャムなど入れずとも十分に風味豊かで美味しいのだから。

それよりも今は存分にルイスを堪能したい気分だ。

自然と抱きしめる腕に力が入ると、ウィリアムの考えを察したのか腕の中の抵抗がやんだ。


「ですが兄さん。焼き菓子にも手を付けていませんし、糖分は取っておいた方が良いですよ」

「後で食べるよ」


今は思う存分、ルイスにキスしたい気分なんだ。

そう囁いてから耳元にリップ音を立ててキスをしてみせれば、ぴくりと肩が跳ねた。

笑いを堪えてその顔を覗いてみれば、予想した通り目元を赤らめてじっと真正面を見つめているルイスがいた。

いつまで経ってもスキンシップに初々しい仕草を返す弟が、ウィリアムは可愛くて仕方がない。

今度こそ堪えきれずに軽く笑って、ルイスの眼鏡を外してから赤くなった目尻の色を吸い取るように唇を寄せる。

透けるように白い肌が淡く染まった薔薇のように色付くのは、何度見ようと愛しさが増していく。

震える睫毛にもキスを落としてから、目の悪いルイスにも見えるように至近距離で顔を合わせる。

やっと目が合った褐色の瞳に映る自分の姿に満足感を味わう。


「ねぇルイス。キスをする場所によって意味が変わるって知っているかい?」

「意味、ですか?」

「あぁ。くだらない俗説かと思ってたけど、案外間違ってもいないと思ってね」

「はぁ…兄さん、キスがすきですしね」


言われてみれば、確かにそうだった。

ウィリアムにとってルイスにキスをするのは昔からの癖のようなものだったし、もはや習慣になってしまっている。

ルイスも嫌がることなく受け入れているし、羞恥は残るがむしろ喜んでいる方だ。

ついついキスに拍車がかかるのも無理はない。

あまり意識はしていなかったけど、僕は結構キス魔だったんだな。

そんな事実に気付きつつ、ウィリアムは形の良い眉と眉の間にキスをした。

初々しい反応ばかりするというのに、時折何も気にせず大胆なことを言うのだから目が離せなくなる弟に、最大級の愛を込めてキスをする。


「それで、どんな意味があるんですか?」

「そうだね…例えば」


ふわふわとした髪を一房手に取り、今度はルイスに見せつけるようにもう一度唇で触れた。


「髪へのキスは思慕」


次は丸く形の良い額にふわりと触れる。


「額へのキスは愛しさ」


額から先、そのまま滑るように唇で瞼に触れる。


「瞼へのキスは憧憬」


両方の瞼にキスをしてから、続けてツンと上を向いた鼻にもキスをする。


「鼻へのキスは愛玩」


鼻先から唇を離した後で、左の頬に唇を寄せる。


「頬へのキスは親愛」


左頬にキスをした後は右頬の傷跡にもキスを落とす。

びく、と震えた身体を宥めるように抱きしめて、傷痕全体を慈しむように上から下へと唇でなぞっていく。

時折響くリップ音に気を良くするのはウィリアムもルイスも同じだった。

兄のための傷跡に誇りを持ってはいるが、見られるのも触れられるのもあまり良くは思っていないらしい弟を、ウィリアムはずっと気にかけている。

だがそんなものは杞憂だと、それが唇から伝わる熱で伝わればいいのにと、そんな願いを込めて何度もバードキスを繰り返した。

愛しさを込めたキスに絆されたのか、ふわりと口角の上がる唇を見たウィリアムは心の中でほくそ笑む。

そうして、自分のものよりふっくらとした唇に自分のそれを重ね合わせた。


「…唇へのキスは、愛情」


軽く合わせた唇を離し、吐息のかかる距離でそう教え込む。

愛情、と震える唇で繰り返すのを聞いてから、ウィリアムは再びルイスにキスをした。

薄いだろう唇は見た目よりも弾力がある。

触れていて気持ちが良いのは昔からずっと変わらないが、記憶の中よりもずっとふっくらしてきたように思う。

滑らかな感触を楽しみつつ、何度となくリップ音を鳴らしながら軽く合わせるだけのキスを繰り返す。

どこか甘いそれは、十分すぎるほどに糖分の補給に繋がるような錯覚すら起こさせた。


「…色々な意味が、あるんですね」

「そうみたいだね。他の場所にも色々意味があるみたいだけど、肝心の雑誌をどこかにやってしまったからなぁ」

「そうですか」


ウィリアムの背に静かに回されたルイスの腕に気を良くし、照れて俯いている弟の顔を覗き込む。

戸惑いつつ視線を移ろわせながらも上目にウィリアムを見たルイスの瞳は、どこか期待に満ちていた。


「兄さんはどこにキスするのがすきですか?」

「悩むね。ルイス相手ならどこにでもキスしたいから、これといって拘りはないんだけど」


そう返しながら唇を落とすのは、先ほどのキスのおかげで血色の良くなった口元だった。

合わさる隙間から漏れてくる吐息が擽ったいけれど、とても愛おしいと思う。


「意味と合わせて選ぶなら、唇が一番だろうね」


ちゅう、と吸い付いてから顔を離せば、歓喜をそのまま表す瞳と目が合った。

僕はキスをするたびにルイスを愛しく想う気持ちが増していくが、きっとそれはルイスも同じなんだろう。

視線を合わせてそう考えていると、ゆっくりとルイスとの距離が近づいて、温かいそれで唇を覆われた。


「僕も唇にするキスが一番すきですよ」


誰より兄さんの愛情を感じたいし、僕の愛情も感じてほしいです。


そう言いながら至近距離で嬉しそうに微笑むルイスを見て、僕が彼の唇へのキスを止められなかったのは、どう考えてもルイスのせいだろう。



(…唇がひりひりします)

(大丈夫かい?キスのしすぎかな)

(そうだと思います…あ、兄さんは何ともありませんか?)

(僕は別に大丈夫だよ)

(それは良かった。…あれ、では何故僕だけが?)

(ルイスは唇の皮が薄いからね。特別荒れやすいんだと思うよ)

(え、そうなんですか?)

(うん。触った感覚で何となく分かるから。でも保湿しておけば大丈夫だよ)

(分かりました、気を付けます)

(蜂蜜を塗るのが良いらしいから、今度試してみようか)

(蜂蜜、ですか?)

(届いたら僕が塗ってあげるよ。それまで我慢できるかい?)

(大丈夫です。兄さんとのキスが原因ならいくらでも耐えられます)

(ふふ、そうか)