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のらくらり。

【R18】熱に染まる肌

2019.12.03 23:36

子ども時代のウィルイスえろ。

ルイスが悩んでアルバート兄様に助言を受けてる。


患っていた病の名残もあってか、生まれついてから病が完治した今に至るまでルイスの体は冷えている。

頬の血色が悪いということはないし、唇は仄かに淡く色付いてはいる。

だがその体に触れるとまるで人形のように体温を感じさせないのだ。

整った顔立ちと併せて表情を崩さないルイスの性質は、良く出来た西洋人形のように生気を感じさせないこともままあった。

それでも幼少期と比較すれば格段に良くなっており、体温の維持に尽力することもなくなった。

すぐに冷え切ってしまう弟の体をウィリアムとアルバートが熱心に抱きしめて温めていたのもいい思い出だ。

今ではルイス本人も気にせず日常生活で動いているし、目に見えてトラブルがあるわけでもないため、過保護な兄らも特別気にかけることはない。

強いて弊害があるとすれば、決して温かくはない体を抱いて果たして心地よいのだろうか、というルイスの疑念だけだった。


「んっ、兄さん…」


ウィリアムは横たわったルイスの首筋に顔を埋め、外したボタンの下から露わになった白い肌を覗き込む。

髪越しではあるが、ルイスの耳に触れるのはおそらくウィリアムの額だろう。

届く吐息に感じ入っていると、首筋に添えるように柔らかく唇が落とされる。

じんわりと熱が移っていくのが自覚できる程、その身は優しく体温が保たれていた。

ルイスとは違い、ウィリアムの体はとても温かい。

その温かさに触れることがルイスは昔からすきだったし、安心出来たし、愛されている実感を得ることが出来た。

世の生物は生きている限り本能的に温もりを求めるのだと思う。

だからルイスはウィリアムに抱かれることを望むし、これ以上ないほどに心地よく感じるのだろう。

だがそれと同じものを、ルイスはウィリアムに与えることが出来ているのだろうか。

まだルイスが兄に抱かれたのは数えられる程度だが、触れても冷たい体がウィリアムに快感を与えているとは思えない。

不意に昼間、モランに触れた際に言われた「おまえ、随分手ぇ冷たいな。調子悪いのか?」と驚きながら言われた言葉がルイスの頭をよぎった。

慣れ切っていて忘れていたが、軽く接触しただけのモランがすぐ気付くほどルイスの体は冷えているのだ。

今こうして直にルイスを抱きしめているウィリアムも、さぞひんやりとした温度を体感しているに違いない。

温もりを感じられない自分の体はきっと心地よくないだろうし、そうなると誰よりも愛しい兄に不快な思いを今この瞬間もさせていることになる。

それはルイスにとっては耐えられないことだった。


「っ兄さん、待ってください…!」

「…ルイス?」

「ま、待って、ください…」

「…うん」


思わず自分に被さっていたウィリアムの肩を押して、ルイスは彼と距離を取った。

先ほどまで温かく感じていた首筋が途端にひやりと冷たくなっていく。

ふと乱れたウィリアムのシャツの中に自分の指が入り込んでいることに気付き、それもまた不快だろうとすぐに手をずらした。

そんなルイスの様子に思い当たることがあったのか、ウィリアムは僅かに眉を顰めたがルイスは気付かない。

ルイスにとってウィリアムに抱かれることは嫌ではないけれど、自分の体でウィリアムに不快な思いをさせることは嫌なのだ。

自分よりも体温の高いウィリアムに抱かれていれば次第に温かくなるとはいえ、それではウィリアムの体温を奪うようで気持ち良くはないだろう。

線の細い体を懸命に駆使して、ルイスはウィリアムを押しのけ自分も起き上がってはベッドの中央に座り込んだ。


「に、兄さん、明日は街に行って新しい本を探す予定でしたよね?」

「うん、そうだね」

「僕も付き添います。兄さんのことだからきっとたくさん買い付けますよね?大荷物になるでしょうから、今日は早めに休みましょう」

「…ルイス?」

「明日に備えて今日はゆっくり休むべきです。僕は自分の部屋で休むので、兄さんは十分に手足を伸ばしてお休みください」


ウィリアムによって外されたボタンを片手で隠すようにして口早に言い切ったルイスは、すぐさま部屋を出て行った。

首筋に押し当てられた唇の感触と温もりが頬を火照らせてはいるが、指先はそれほど温かくはない。

火照りをなくすように両手で頬を覆い、ルイスは初めてウィリアムの誘いを拒否したことを悔いていた。

本音を言えば抱いてほしかった。

その温もりを感じたかったし、存分に愛してほしかった。

だが、抱いて幻滅されるのは嫌だ。

自分がウィリアムの温もりを感じて安心できるように、ウィリアムにも自分の体に温もりを感じてほしい。

常人であれば簡単に叶えられる願いだというのに、ルイスには叶えられないことが悔しかった。

顔の火照りは引いたのに指先は温かくならない自分の体質が心底憎い。

ルイスは悔しそうに唇を引き締めてとぼとぼと自室のベッドに入り、冷たい掛布をかけて悪い想像を振り払うように頭を振って目を閉じた。

一方のウィリアムはそんなルイスの心情など露知らず、最近にしては珍しくはっきりとした不満を表情に乗せて自室のベッドに座っていた。




それからしばらくの間、ルイスは体の冷えを改善するために色々試しては挫折していた。

温かいスープも衣服も入浴も、しばらくの間は確かに効果があるのだ。

だが長時間の効果はないし、自分ではよく分からないから隙を見てモランに触れては「冷たい」という感想を渡されては独り沈んでいた。

十分に温まってからウィリアムの部屋を尋ねればいいのだろうが、ルイスがウィリアムの誘いを拒否して以降、誘われることもなくなった。

自分から拒否しておいて自分から強請るような真似は出来ないし、そもそもそんな発想がルイスにはない。

昼間は優しい兄だし、眠る前には深く口付けられるから嫌われてはいないのだろう。

だがルイスがはっきりとした快感を得る前にはキスが終わるし、そのままの流れで部屋まで送られても「おやすみ」と言われてそれでおしまいだ。

やはり自分が拒否してしまったせいで、もう抱く気がなくなってしまったのだろうか。

ルイスは先ほどまで受けていたキスで火照った頬を冷えた手で覆い、じわりと潤んだ瞳から何も溢さないよう目を閉じてベッドに潜りこんだ。


「兄様、兄様。相談があるのですが、今よろしいですか?」

「ルイス。もちろん構わないよ、こちらへおいで」

「ありがとうございます、兄様」


一人で悩んでいても得るものはないと早々に気付いたルイスは、長兄であるアルバートを頼ることにした。

ウィリアムが留守にしている時間を見つけて声をかけ、ルイスはリビングで寛ぐアルバートの隣に腰を下ろす。

生来の貴族であり幾つか年が離れているアルバートはルイスにとって随分と大人びて見える。

ルイスは実兄であるウィリアムとは別の意味でこの兄を信頼しているし、とても愛しく思っていた。


「ルイスの相談に乗るのは久しぶりだね。どうかしたのかい?」

「…実は」

「もしかして、ウィルとのことかな?」

「!な、何で知って…」

「おまえ達ほどではないが、僕も同じ屋敷で生活して一緒にいるからね。気付かない方がどうかしている」

「…兄様」


普段は表情を露わにしない末弟の困りきったような顔を見て、アルバートはここ数年で培われた兄としての矜持が擽られた。

ウィリアムは滅多に悩まないし、悩んだとしても自分で解決してみせる。

だがルイスは必要とあらば素直に兄に頼ることも多いのだ。

可愛い弟に頼りにされることはアルバートにとっても気分が良い。

ましてやここ最近の二人はやや違和感が散見して見える。

変わらず仲が良いのは勿論のこと、おそらくはその関係も変わっていったのではないかとアルバートは推察していた。


「…兄様は、僕の体温が低いことはご存知ですよね?」

「あぁ。昔ほどではないが、今もまだ僕たちほどは温かくないんだろう?」

「はい…だから、あまり不用意に触れると不快な思いをさせるんじゃないかと思って…」

「…そうかな?おいで、ルイス」


アルバートに手を差し伸べられて、ルイスは昔のように何も考えずにその手を取って良いものかと思案する。

昔は低体温ゆえに動きが鈍くなることも多く、温めてくれるのならば幸いとばかりに甘えていた。

今はそれほど酷いわけでもないし、何よりこの年で幼子のように扱われるのは抵抗がある。

だがルイスがアルバートを見ると、からかうでもなく心からの善意だということが分かった。

ならば抵抗しなくてもいいだろうと、少しでも温めるために指を軽く動かしてからおずおずと兄の手を取れば、アルバートはひんやりとした手を引いて細身の体ごとルイスを抱きしめた。

年齢にしては長身のアルバートが抱きしめれば、小柄なルイスなどすっぽりと覆われてしまう。

最初はシャツとベストに邪魔されて分かりづらかったが、次第に布越しの低い体温がアルバートに移ってきた。


「ふむ、昔よりは大分良いじゃないか。これなら気にすることはないんじゃないか?」

「ほ、本当ですか?抱いてても寒くないですか?」

「それほど冷たくはないさ。しばらくすれば温まってくるんだから、そんなに気に病むことはないと思うけどね」

「でも、モランさんは僕が触ると冷たいと言います…」

「大佐は大佐だろう?ルイスは誰を不快にさせたくないんだい?」

「…ウィリアム兄さんです」

「ウィルがルイスを少しでも邪険にしたのかな?」

「…してないです」

「なら、どうして?」

「…兄さんが僕に触れてるとき、少しでも気持ち良く思ってほしいのに、全然温かくないから気持ち良くないのかもって…」

「それはルイスの勝手な想像だろう?ウィルに直接聞いてみないとウィルの本心は分からない。まして、ルイスから逃げていたのでは余計にこじれてしまうよ」

「…はい」


アルバートの腕の中で背中を擦られて、もっともな兄の言い分にルイスは項垂れた。

勝手に思い込んでウィリアムを拒否したのはルイスの都合なのだから、以降触れてもらえないことを残念がる権利などない。

大きくて頼りがいのある胸に縋りついて、ルイスはアルバートの体温をじっくりと感じていた。


「兄様は僕が触れても嫌じゃありませんか?」

「嫌どころか嬉しいくらいだ。ウィルもきっとそうだよ、僕以上にルイスを大事に想っているんだから」

「本当ですか?」

「勿論。それとも何かい、ルイスは僕よりもモラン大佐の言葉を信じるのかい?」


アルバートの言葉に全力で頭を振って否定の意を返す。

ルイスが世界で二番目に信頼しているアルバートがそう言うのであれば、きっとそうなのだろう。

しばらく抱きしめられていたおかげで温かく馴染んだ体温に元気を貰ったルイスは、顔をあげてアルバートに礼を言った。


「ありがとうございました兄様!僕、ウィリアム兄さんと話してみることにします」

「それがいい。二人が気まずい様子などもう見たくはないからね」

「ご心配をおかけしました。そろそろ食事の準備をしてきます」

「あぁ、よろしく頼むよ」


少しだけ名残惜しげにアルバートの胸に顔を押し当ててから、ルイスはリビングを足早に出て行った。

やれやれ、と言った表情でその様子を見守っていたアルバートだが、背後で気配を潜めていた長身の男性に対し振り向かずに声をかける。


「あまりうちの末っ子をからかわないでほしいものですね、モラン大佐」

「…気付いてたのかよ、趣味悪いな」

「当然でしょう。普段ならルイスも気付いていたでしょうが、今は落ち込んでいるから気付いてないでしょうね。全く…せっかく可愛い弟二人が仲睦まじく愛を育んでいるんですから、余計なことはしないでいただきたい」

「わーかってるって。あんな気にするとは思ってなかったんだよ」

「ルイスはあなたと違って繊細なので、扱いには十分配慮してくださいよ」


過保護かよ、というモランの言葉を華麗に無視して、アルバートは今晩にはまた元通り仲の良い二人に戻るだろうと確信してほくそ笑んだ。




普段よりもじっくり湯を浴びて十分に体を温めてきたルイスはほかほかと湯気を立てている。

まだ湿っている髪の毛を乾かしてもらった後、今夜はそのままウィリアムの部屋で休むつもりだ。

いくらアルバートの言葉が信頼できるにしろ、なるべく温かいに越したことはないだろう。

そのためにもなるべく早く髪を乾かしてもらい、話をしなければならない。

ルイスは軽く右手を握って気合いを入れてから、見慣れたウィリアムの部屋の扉をノックした。


「ルイスかい?おいで」

「兄さん、よろしくお願いします」

「あぁ」


扉を開けてすぐさま己が座るソファに向かったルイスを見て、ウィリアムは優しく微笑んだ。

目の前に座る小さな体は湯上りのためか、白い肌がどこもピンクに染まっている。

ちゃんと湯船で温まってきたのを客観的に確認できたウィリアムは機嫌よくその髪を拭いていった。

そのまましばらく優しく拭いていき、元のふわふわした手触りになったのを確認してから顔を上げるよう声をかける。


「ありがとうございました、兄さん」

「どういたしまして」


ウィリアムの足元に座っていたルイスは腰を上げて、兄の隣に腰掛けた。

拭いてもらったばかりの髪を撫でられ、その気持ち良さに思わず目を閉じて堪能しているとふいに肩を抱き寄せられた。

慌てることなく目を開ければ、視界の端にウィリアムの金髪が入っている。

兄の背中にそっと腕を回して軽く指を動かしてみるが、まだそれほど冷えてはいないだろう。

これなら大丈夫だと、ルイスはウィリアムの肩に頬を乗せてその温もりを感じていた。


「ねぇルイス。悩みは解決したのかい?」

「悩み?」

「朝よりもずっとすっきりした表情をしている。それに、僕が触れても怯えてない」

「お、怯えてなんかいません!」

「そうだったかな」

「そうです!」


ウィリアムの言葉にムキになって返すが、なるべく不快な思いをさせないよう無意識に触れないようにしていたのかもしれない。

はっとそんなことが頭をよぎるが、別に怯えていたわけではないのだからきっぱりと否定する。

むくれ顔で自分を見るルイスがあまりにも必死で可愛らしくて、ウィリアムは苦笑しながらその体を優しく撫でた。


「それで、何を悩んでいたんだい?」

「悩み…」


額を合わせて目を覗きこまれ、緋色の瞳にルイスの顔が映りこむ。

アルバートに相談したが、結果としてはウィリアムの考えを聞かない限り解決はしていない。

ルイスはうっすらと温もりが消えてきた手を軽く握りこみ、ウィリアムから目を逸らさずに問いかけた。


「…僕の体、冷たくて不快じゃないですか?」

「不快?どうして」

「抱きしめても温かくないし、気持ち良くないのかもしれないって思って」

「昔から抱きしめてるのに、今更そんなこと思うはずないじゃないか」

「それは、そうですけど」


服を着た状態で触れ合うのは問題がない。

衣服を挟んでいる分、直接冷たさを感じさせることがないから気が楽だ。

だが直に肌を重ねるとなると隔たるものが何もない。

ルイスは温かいウィリアムの体温を分けてもらうから気持ち良いが、ウィリアムは暑くもない時期にルイスを抱くのはただ冷たいだけでむしろ不愉快なのではないか。

そんな内容を細々と話すルイスに、ウィリアムは呆れたような視線をよこした。

それと同時に以前、ウィリアムの肌にルイスの指が触れた後すぐに離れたのはそれが原因だったのかと気が付く。

ウィリアムにとってルイスの体温は昔から感じている馴染んだ体温だ。

多少は冷えているのだろうが今更気にすることでもないし、冷えていた体を抱きしめて段々と温かくなっていくその過程をウィリアムは殊の外気に入っている。

自分の体温がルイスに移っているということは、彼の内側に自分がいるということなのだから。

ウィリアムの温度に染まるルイスはいつだって綺麗だったし、ウィリアムの心を優しく刺激した。

それに何より、冷えた体がウィリアムに触られたときには温かく色付き、抱かれている最中にはむしろ熱いほどに体温が変わる。

必死すぎてほとんど記憶はないだろうが、ルイスが知らないだけでウィリアムに抱かれているときの彼は心地よいほどに温度が上がるのだ。

今日はそれをその体で自覚させておいた方がいいのかもしれない。

ウィリアムはにっこりと口元に綺麗な弧を描き、緋色を隠して目を閉じた。


「ルイス、向こうに行こうか」

「え、はい」


優しく微笑まれて反射的に返事をしたルイスを連れて、窓際に置かれているベッドに足を向ける。

そのまま時間をあけずに細身の体をベッドに倒して、ウィリアムはその上に覆い被さっていった。


「ねぇルイス。僕はね、君の肌に触れるのがすきなんだ」

「冷たいのに、ですか?」

「今まで体温を気にしたことはないかな。もし気にするとしても、冷えた肌が僕の体温で温まっていくその過程がとても愛おしいよ」


シャツのボタンを外して現れた白い肌とまだ生々しい手術痕に触れて、ウィリアムはルイスに囁いた。

確かに体幹である胸に触れても温かみを感じないこの体は、普通であれば触れていても何も得るものがない気味が悪い何かなのだろう。

だがこの体の持ち主はルイスだ。

ウィリアムにとって唯一無二の、大事な存在だ。

気味が悪いなどと思うことはないし、自らの体温を分け与えることが出来るというのは兄としても恋人としても喜ばしいことだと思う。

それに何より、ウィリアムはルイスの肌がすきなのだ。

その精神と同じように真っ白で綺麗なその肌に触れて、ルイスの生を感じることが出来るその肌がすきなのだ。

不快に思うことなど絶対にない。


「僕に染まっていくルイスがすきだよ。可愛い」

「兄さん…」


ウィリアムは自らのシャツのボタンも外し、ルイスの胸と重ね合わせるようにして体重をかけていく。

感じる重みとその温もりに安心感を覚えたのもつかの間、すぐ近くで言われたその言葉に温もり以上の熱さがルイスの心の中に広がった。

触れ合った肌から段々と体が温まり、ウィリアムの言葉を噛みしめていると徐々に顔が火照っていく。

彼曰く、この温もりと火照りはルイスがウィリアムに染められた結果らしい。

自分の体温が上昇していくのを実感したルイスは、既に温かくなり始めている手をウィリアムの背に回して彼を見た。


「兄さんに触れてもらうと、すぐに温かくなる気がします」

「それは良かった」

「温かくて、安心出来て、幸せで、気持ち良くて。僕、兄さんに触れてもらうのがすきです」

「僕もルイスに触れていると幸せになれるよ」


その言葉を聞いて目元を赤く染めたルイスは嬉しそうに顔を緩める。

ウィリアムは背中に回されていた彼の左手を取り、互いに指を絡めてじんわりと温めていく。

もうほとんど差を感じられないくらいに温まったルイスの手を握り、ウィリアムは綺麗な笑みを浮かべて口を開いた。


「僕に抱かれている最中のルイスは冷たさとは無縁だよ。今まで気付いてなかったかもしれないけど、今日は僕がしっかりと教えてあげるね」


ウィリアムは目を丸くしたルイスの返事を聞くことなく、薄く開いていた唇に自分のそれを深く重ね合わせる。

唇を舐めて舌を絡ませるだけで頬がより一層赤く染まるのだから冷えを気にする必要など一切ないと、その身をもって理解してもらおう。

ウィリアムはルイスに気付かれないよう口付けながらそっと口角を上げた。




「ふっ、に、にぃさ、ぁ」

「何?」

「ゃ、そこ、あつい、です…んんっ」

「僕じゃなくて、ルイスが熱くなってるんだよ」


肌蹴たシャツのボタンを全て外し、体温を分け与えるように唇で丁寧になぞっていく。

触れたところから浸透するように熱がこもるのを肌で感じ、ウィリアムは優しく胸を辿ってはキスを落としていった。

吸い付いたり舐めたりするような快感を引き起こす動きではなく、静かに触れるだけでじんわりと高まる熱を堪能しているそれだった。

両手の指を絡めて握っているから、ルイスがもどかしさのあまり手に力が籠るのもよく伝わってくる。

低体温だとは思えないほどに熱がこもり、うっすらと赤みが増した肌をウィリアムは満足気に見ては何度も唇を落としていく。


「に、にぃさん…」

「気持ちいいかな?」

「ん、よくわからな、ぁ」

「そう…じゃあこっちはどうかな?気持ち良いかい?」

「ふぁ、ゃ、ぁん」


赤く染まった目元に相応しく瞳も潤み、蕩け始めた表情を見ればルイスの体が快感を拾っていることは一目瞭然だ。

だが経験が浅く無垢な彼はその快感を表現する言葉を知らない。

幼いその仕草に震えるほどの愛らしさを見たウィリアムは、間違いなく快感だと受け止められるだろう赤く尖った胸の飾りに目を付けた。

ちゅう、と吸い付いてみればルイスの背にぞわりとした感覚が抜けていく。

その反応に気を良くしたウィリアムは、軽く舌先で舐めてから徐々に力を込めていった。

次第に芯を持ったように感触が変わっていくそれを楽しんでいると、ルイスからは吐息が漏れるような微かな声が聞こえてくる。

小さな猫が懸命に主張するようなか細い声は、ウィリアムの耳をより楽しませた。


「ん、んんゃ、やぁ」

「この前よりも反応が良くなったね…気持ち良いかい?」

「ふぁ、ん…これが、きもちいぃ、です、かぁ…?ん、ぅ」

「そうだよ。今のルイスはとても気持ちが良さそうだ」


尖りからは唇を離さず目だけでルイスの反応を伺えば、目を閉じて小さく喘ぐルイスがいた。

最後に抱いたときはまだ明確に快感を拾うというより、くすぐったさと恥ずかしさで照れたように笑っていたはずだ。

それが今ははっきりと快感らしい快感を得ている。

時間を置いていたのが良かったのだろうかとウィリアムが考えながら舌を動かすと、自分の舌よりもよほど熱を持った尖りが瑞々しく反応を返してくれた。

ウィリアムはルイスを抱く上で、たとえ一瞬でも痛い思いはさせないことを決めている。

痛みが気持ち良さを倍増させるなどという意見も知ってはいるが、所詮痛みは痛みだろう。

快感に繋がろうとどうだろうと、ルイスに痛みを与えるなどあってはならないことなのだ。

ただひたすらに甘やかすように優しく抱いて、自分が愛されていることを実感してくれればそれでいい。

芯を持った胸の尖りを噛んでみればさぞ弾力があって愉しいのだろう。

だが今のルイスでは快感よりも痛みが先立つだろうし、それでは何も意味がない。

ウィリアムはそこから口を離し、先ほどよりも赤みが増して艶を持った尖りを見る。

白い肌に映える赤と痛々しい手術痕が綺麗だと思う。

一人頷いたウィリアムは可愛らしく喘いでいたルイスにキスをして、目を開けるように声をかけた。


「ここもそうだけど、僕が触れたところは全て温かく熱がこもってる。分かるかい?」

「は、はぃ…熱いです、兄さん…」

「そうだろう?体が冷えていても、僕の手でルイスを温かく出来るなら僕は嬉しい。僕が触れることでルイスが気持ち良くなってくれれば、僕も十分気持ち良くなれる」

「本当、に?」

「うん。言っただろう?僕はルイスに触るのがすきなんだ」


頬を擦り合わせてその火照りを分けてもらいながら、絡めていた手を解いて先ほどの尖りに持っていく。

ゆっくりと押しつぶすように触れば、目の前の体がぴくりと跳ねて耳元には声にならない吐息が届いた。


「僕の手でルイスが熱くなって、気持ち良くなってくれるなら僕は嬉しい」


ウィリアムはルイスの胸元で遊んでいた手をゆっくりと下に持っていき、柔らかい布越しに彼の中心を撫でていった。

まだ未発達な性器だが、全体が少しだけ膨らんでいるのがよく分かる。

その動作に慌ててウィリアムを見るルイスの顔は随分と真っ赤で、まだ慣れていない行為に羞恥を感じているのが見て取れる。

とはいえウィリアムも慣れているわけではないし、ただでさえしばらくの間触れていなかった体だ。

触れたことによりこれだけ可愛らしく反応されては今更止めるのも難しい。

ウィリアムは小さく息をついてから、その手で直接ルイスの性器に触れていった。

きっと今のルイスの体の中で一番熱を持っているだろうそこは、ウィリアムの温かい手でも熱いと感じさせている。

冷えを気にするルイスがこれだけ熱を持つ要因が自分だということに、ウィリアムはとてつもない優越感を得た。

自分ならばルイスの欠点を簡単に補うことが出来るのだと、愉悦に浸るには十分すぎるほどだ。


「や、兄さんそこは…!」

「ここ、熱いだろう?」

「あ、熱い、ですけど…んっ」


ルイスの言葉を全て聞く前に、ウィリアムはゆっくりと手を動かしていく。

全体を優しく揉みこむように触れていけば、柔らかかった性器が段々と硬くなっていくのを手のひらで感じる。

まだどこをどう弄ればより気持ちが良くなるのか探している最中だが、今の時点では先端を親指で強めに擦るのが一番ルイスに合っている。

性器を握りこんで先端を強く刺激してみれば、思っていたとおり我慢できないというように大きな声が聞こえてきた。


「ふあ、あぁっ、にぃさ、んっ!」

「心配しなくても、僕ならルイスを存分に熱くさせられるよ。ほら、こんなに熱くなってる」

「やっ、そこさわっちゃ、あっぁん」

「可愛いね、ルイス」


頭を振っていやだいやだと抵抗するルイスが可愛くて、ウィリアムは刺激する手を止められない。

しばらくその顔と手のひらから感じる熱を楽しんでいると、揉みこむように動かしていた手に水音が混ざりはじめた。

先端を弄る親指はもう濡れていて、摩擦がなくなって擦りやすくなる。

生々しい音はルイスの耳にも届いていて、その証拠に恐る恐ると言った様子で視線を下に向けていた。

ルイスが自分の状態を見やすいように、という理由で履いていたズボンを下着ごと剥いでしまえば、ウィリアムの手で支えなくても緩く角度を保っている性器が露わになる。

決してウィリアムが視覚的に堪能したかったわけではなく、様子を見ようとしていたルイスの手助けが目的だ。


「ふ、ぇ…に、にぃさ…」

「うん?見たかったんだろう?」

「ち、ちが…」

「可愛く震えてるね、ルイスのここ」

「ぁんっ」


普段目にする自分の性器とは違って見えるそれにルイスが助けを求めるようにウィリアムを見れば、至極愉しそうに微笑んでいる彼と目が合った。

自分のものとは思えないほどいやらしく見えた性器は、淡いピンク色に染まっている。

先端の方に向けて色が濃くなり、全体が濡れているせいかむず痒いような妙な感覚もする。

ふるん、と震えながら勃っているルイスの性器を労わるようにウィリアムが優しく下から上に向かって撫でれば、感じるのは間違いなく快感だ。

そして慣れない快感と同じくらいに感じる羞恥はルイスの頭を混乱させた。

痛くはないし気持ち悪くもない。

顔をあげれば微笑む兄から受け止めきれないほどの愛情も感じられる。

だが、自分のものじゃないような性器が自分の体の延長にあるということが理解出来ない。

蕩けていたルイスの瞳が大きく波打った瞬間、ウィリアムはあやすようにその瞳から溢れる涙を吸った。


「大丈夫だよ、僕がついてる。僕がルイスの体に触れているから、素直な君の体が反応しているだけだ」

「に、にぃさん…」

「何も怖がることはないよ、ルイス」


穏やかに微笑むウィリアムを見て、ルイスはやっと気持ちが落ち着いた。

物心つく前からこうして微笑んでくれたウィリアムが間違っていたことは一度もない。

自分の体の変化に慣れていないから怖いのだと気付いたルイスは、腕を伸ばしてウィリアムの胸に縋りついた。

触れてもさほど温かいと感じないのは、今のルイスとウィリアムの体温に差がないせいだろう。


「兄さん、にぃさん…」

「ごめん、いきなりで驚かせたね」

「大丈夫、です…兄さんなら何をされても、いいんです…僕のこと、すきにしてください…」


そう言ってウィリアムの唇にキスをして、ルイスはもう一度強くその体に抱きついた。

直接触れ合う肌が心地よくて、浮かんでいた涙が引いていくほどに安心する。

この人のためなら何でも出来るし何をされても構わないと、幼い身の上ながら本気でそう思う。

目の前の首筋に擦り寄ったルイスの頭を撫でて、ウィリアムは先ほど見た可愛らしく震える彼の性器を思い浮かべる。

自分のものより幾分か幼いそれが、濡れて勃ちあがる様子は実にアンバランスで刺激的だった。

すきにしてほしい、という随分と情熱的な言葉も貰ったこともウィリアムにとって嬉しい計算外だ。

胸に巣食う溢れんばかりの欲情を抑えながら小出しにして、ウィリアムはそっと手を伸ばす。

伸ばした先は震える小さな性器よりも更に奥だ。


「んっ…」

「少し嫌な感覚があるかもしれないけど、我慢してね」

「へぃきです…ん、んぅ」


ルイスの先走りで濡れていた指で小さな窄まりを撫でるようにしていけば、次第に緊張が解けて柔らかくなるのがよく分かる。

ウィリアムは焦らず丁寧に撫でていき、軽く指の腹を押し当てて穴を広げるように動かしていった。

違和感が強いだろうに嫌な顔一つせずにいるルイスへキスをすれば、ふふ、と笑う顔で癒してくれる。

十分に緊張がなくなったのを確認してからゆっくりと指を中に入れてみれば、体のどこよりも熱いルイスの温度が伝わってきた。

きっと今興奮しているウィリアムの性器よりもよほど熱を持っているだろう。

ごくり、と喉を鳴らしたウィリアムは優しく中を擦り、馴染ませていった。


「んー、ぅ、あ…」

「痛いかい?」

「いたくは、ないです…へんなかんじ…」

「じきに慣れるから、少しだけ辛抱だよ」

「はぃ…」


眉を下げて違和感を表現するルイスが幼く見えて、今までとこれからの行為が似つかわしくない状況に苦笑した。

それでも止めることは出来ない。

ウィリアムは健気に耐えているルイスを励ましながら、段階を追って指の本数を増やしていく。

慣れているわけではないが、相手を思いやりながら体を繋げようとすれば自ずと丁寧に動くものだろう。

持ち前の器用さを持ってしてルイスに快感を与えるため、ウィリアムは本能的に行動している。

激しく動かすことはせず、ゆっくりと粘膜を広げていくような指の動きはルイスに僅かばかりの快感を与えてくれた。

柔らかく指を締め付けるルイスの粘膜は、段々とウィリアムの指を中に引きこもうとするように動いていく。


「ん、んん…ふ、ぁ…ゃ、ん…」

「ルイス、痛みは?」

「ない、です…ん、そこ…ぁん…」

「ここかい?」

「んぅ…そこ少し、ぞくぞくします…ふ、ぁ」


以前したときに反応が良かった場所と同じところを擽れば、気持ち良さそうに蕩けた顔を見せてくれる。

明らかな快感というよりもじんわりと背筋に響くものなのだろう。

ウィリアムが意識してその部分を刺激していくと、触れていなかったルイスの性器から大きな滴が垂れていった。

内側と入り口の部分を十分に解し、指が届く範囲を丹念に撫でて広げていると少しだけ粘膜の色が見えてくる。

綺麗なピンク色をしているそこは、見ているだけでウィリアムの欲を強く揺さぶった。


「ルイス、そろそろ、いいかな…?」

「…?」

「挿れるよ」

「ぁ、はぃ…にぃさん」


指を抜いて背に回されていた腕を一旦弛めるよう促せば、ようやく次に起こることが理解出来たらしい。

ルイスはウィリアムに支えられるまま足を開き、腰の下にはクッションを挟まれた。

以前はなかったそれが何の役目を持つのかは分からないが、ウィリアムの行動に間違いはないのだからそのまま体重を乗せておく。

少し窮屈な体勢だがルイスはあまり気にせず、自分を見下ろす兄を見た。

袖を通しただけのシャツしか身に纏っていないルイスとは違い、ウィリアムはまだズボンをきちんと履いている。

そのズボンと下着をずらすと、ルイスのものよりも一回り大きい性器が露わになった。

形はよく似ているが、自分のものよりも厭らしく見える、とルイスは潤んだ瞳で見つめている。

ルイスの視線に気付いて苦笑したウィリアムはそれでも照れることはなく、その足を持ち上げて自分の性器を先ほど解した場所へ当てていく。

手で少しだけ入り口を広げて、出来た隙間に向かってゆっくりと腰を進めて行けばルイスの表情が苦しそうに歪んでいった。


「ん、んぅ…」

「ごめんね、痛いかい?」

「いたい…?いえ…ぁ、ただ、中にはいってきてる、ん、かんじが、して…ふ、んぁ」


ルイスの言葉通り、その表情は苦痛に歪んでいるというよりも、慣れない感覚に戸惑っているような表情だった。

本来は入れるべき部位ではないところに無理矢理押し入っている圧迫感が原因だろう。

何にせよ痛みがないのならばひとまず良しとして、ウィリアムはなるべくゆっくりと腰を進めていった。

ルイスの表情を見ながら、じっくりと粘膜同士を馴染ませるように時間をかけて挿入する。

ようやくウィリアムの全てがルイスの中に収まった頃には、歪んでいた表情が再び快感で蕩けていた。


「ん、にぃさん…にぃさん、すごくあつい…」

「ふふ…僕じゃなくて、ルイスが熱いんだよ」

「ぼくが…?」

「ルイスの中はとても熱くて、気持ちが良いよ」

「本当、に…?ぼくの体、きもちいいですか…?」

「あぁ、とても」


ウィリアムがそう答えた瞬間、ルイスの表情が甘く溶けていった。

冷たくて温かみのない自分の体では気持ち良くなれないと思い込んでいたが、そんなことはないとようやく実感できた。

自分の中に在るウィリアムはその興奮を正確にルイスに教えてくれている。

ウィリアムに触れてもらって熱を持つ自分の体は彼がいて初めて完成するし、彼がいるからこそ自分は熱を実感できるのだ。

ルイスは懸命に手を伸ばしてウィリアムを呼び寄せ、その首に腕を回して緩んだ口で礼を言った。

清廉な空気を纏っている兄から漂う色香に充てられて、先を強請るような甘えた口調になってしまったのは仕方ないだろう。


「ルイス、動くよ」

「はぃ…兄さん」


温かいその体に身を寄せてルイスは目を閉じた。

火傷しそうなほど熱く感じるウィリアム自身が時間をかけて動いていけば、頭から足先までの全身に強い快感が流れていく。

慣れていない体には過ぎた快感だが、それはお互い様だろう。

体の快感よりも満たされた心による快感の方がよほど気持ちが良いと、ルイスは自分を抱きしめているウィリアムを見て思う。

腕の中で嬉しそうに微笑むルイスに何を思ったのか、ウィリアムは触れるだけのキスを交わしてただひたすらに強くルイスを抱きしめた。



(兄様、おはようございます)

(おはようございます、兄さん)

(おはよう、二人とも。ルイス、ウィルとは仲直り出来たようだね)

(はい!)

(喧嘩をしていたわけではないのですが…でも誤解は解けましたよ)

(ご迷惑おかけしました、兄様)

(いや、可愛い弟たちがすれ違うのは兄としても心苦しいからね。いつものおまえたちに戻って何よりだ)

(ありがとうございます)

(また何か相談事があればいつでもおいで)

(はい、是非!)

(ウィル、おまえのことだから心配はいらないだろうが、ルイスに無理をさせてはいけないよ)

(勿論ですよ、兄さん)