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のらくらり。

美味なる赤

2019.12.04 00:02

ウィルイスの吸血鬼パロ。

出てこないけどアルバート兄様は悪魔の息子で将来は魔王様です。


いくつかのランプを照明代わりにした広間は陽が落ちた時間では心もとないほどに薄暗い。

しかしこの屋敷の住人はそれに構うことなく、怪しく揺らめく瞳を輝かせて歩みを進めている。

カツカツと響く靴音が持ち主の性格を表しているようだった。


「ウィリアム兄さん、モランさんが訪ねておいでです。お会いしますか?」

「モランが?あぁ…飽きないね、彼も」


薄暗い書斎で紅い瞳を美しく煌めかせているウィリアムは読みかけの本から顔を上げ、苦笑した様子で最愛の弟を見る。

兄に続いて呆れたようにため息をつくルイスもまた、突然やってきた同士の目的を理解していた。

うっすらと開いた唇からは真白で鋭い牙が隠れて見える。

モランが訪ねてきた目的は恐らく、美味なる血を持つ女の紹介だろう。

紅い瞳と鋭い牙を持つこの兄弟は、生きるために血を必要とする吸血鬼の一族である。

当主である兄が遠く離れた地で過ごしているため、彼に代わって屋敷の管理をしながら日々を過ごしていた。

ウィリアムとルイスの二人ともが純粋な吸血鬼ではあるが、血液だけで生きているわけではない。

普通の食事に加え赤ワインや生肉を多く摂取することで、日々大量の血液を摂取しなくとも済んでいる。

それでも吸血鬼としての性なのか、三日に一度は新鮮で極上な血を本能が求めてしまうのだ。

甘く芳醇な香りのする綺麗な赤を飲むことで、彼らは生を実感する。

だからこそ狼の末裔でもあるモランは以前助けられた礼として、極上の血を持つ人間を探していた。

古くから吸血鬼は美食家と噂されており、どうしてだか美女の生き血を求める者が多い。

あまり数多くない吸血鬼の知人も美女の血を求めて彷徨っているのだから、美女に流れる血が美味しいというのはきっと間違いない確かな情報なのだろう。

ゆえにモランは忠誠を誓ったウィリアムに、美を追求した女を何人も何人も見繕ってきているのだ。

今夜の用事もその延長にあるに違いない。


「応接室に案内しておきます。切りの良いところになりましたらお越しください」

「ありがとう、ルイス」


恐らく半刻もすれば読みかけの本を読み終えて合流するだろう。

ルイスはホールで待たせたままの同士を応接室に案内するため、ウィリアムとよく似た瞳を伏せてまたも靴音を響かせた。




「この女も不満なのかよ!?いい女じゃねーか、なぁルイス!?」

「…僕に聞かれても困ります」

「まぁまぁモラン、落ち着いて」


応接室でモランが自信たっぷりに見せた写真に写る女性は確かに美しかった。

だが長い指で写真を手に取ったウィリアムは冷めた目で一目見ると、すぐさま何も言わず机に戻してしまう。

それがモランにはご不満だったらしい。

せっかくウィリアムに捧げる女を探しているというのに、今まで彼が頷いてくれたことなど一度もないのだ。


「もっとよく見ろ!顔は申し分ないし、何より良い体してるだろ!」

「そうだね。綺麗な顔をしているとは思うし、肉感的な体は彼女の魅力だと思うよ」

「だろ!?なら…!」

「でも僕の好みではないかな」

「…またそれかよ…」


涼しい顔をして紅い瞳を細めるウィリアムは愉快そうにモランを見て、赤ワインのグラスを優雅に煽った。

自分のためを思って行動してくれるモランの気持ちは有難く受け取っている。

写真に写った女も世間一般から見れば大層な美人だろうし、他の吸血鬼が見ればターゲットに選ぶことは確かだろう。

だが、それだけだ。

世間一般でもなければ他の吸血鬼でもないウィリアムの心には響かない。

一族の中でも特に優秀だと称された吸血鬼であるウィリアムの琴線に触れるものは、この女にはなかった。


「この前も言ったじゃないか。僕は別に美女の血に興味ないって」

「でもおまえらの口には綺麗な女の血が合うんだろ?何で興味ないんだよ」

「だって僕が一番美人だと思っているのはルイスだからね」


写真を指で弾いてモランに突き返したウィリアムは隣に座る実の弟を見やる。

兄弟でよく似ていると評される弟だがウィリアムに言わせれば随分と違うし、ルイスの方がよほど可愛らしく成長していた。

真っ白い肌に映える紅い瞳と、鋭い牙を覗かせながら自分を呼ぶその唇は、他のどんな女よりも如実にウィリアムを誘惑する。

世間一般での美人よりも自らの価値観に則った美人を選ぶならこの弟を選ぶし、事実その血はウィリアムの口によく合った。


「ルイスがいれば他の血は必要ないよ」

「だけど今まで互いの血しか飲んでこなかったんだろ?飽きねぇのか?」

「飽きるはずありません。兄さん以上の血を持つ人間など居るはずがありませんから」

「僕も同じ意見かな」


ルイスにとってのウィリアムも唯一無二であり、他の血を欲したことはただの一度もない。

この兄さえいれば他の何も必要ないと断言できる。

血を分けて与えて、互いのために存在しているような吸血鬼がこの二人だった。

異端呼ばわりされようが何だろうが、互いがいればそれだけで良いのだ。


「だからもう僕のために女を見繕うなんてことをしなくてもいいんだよ、モラン」

「つってもなー…じゃああんときの礼はどうすりゃいいんだよ」

「僕が君を必要としたときに活躍してくれればそれでいい。そのときを待っていてくれないかな」

「…わぁーったよ、ウィリアム」


穏やかに微笑むウィリアムの顔を見て、続けてその隣に座るルイスの顔を見て、モランはようやく納得したように頭を掻いた。

お互いが一番美しいと言って憚らないその堂々たる姿勢には感服するしかない。

そうしてモランは持ってきた女の写真を小さくちぎり、机の上にばらまいた。


「モランさん、誰が片付けると思ってるんですか」

「もう余計なことはしないで待機してりゃいいんだろ。何かあればいつでも俺を呼べ」

「あぁ、ありがとう」


場を散らかす行為を咎める言葉を無視したモランの言葉に、ルイスは紅い瞳を苛立たせて目の前の狼男を見た。

だがそれに構うことなく赤ワインのグラスを飲み干して、追加持って来い、と呑気に言い募るモランに、ルイスは赤ワインを瓶ごと放ることで返事をしてみせる。

むっと表情を歪めるルイスの幼い仕草に、ウィリアムは愛おしげに口元を緩ませては鋭い牙を光らせた。



(ルイス、そろそろいいかな)

(はい、勿論です。今日はどこから飲みますか?)

(この前は手首からだったし、今日はオーソドックスに首からにしようか)

(分かりました。どうぞ)

(ありがとう)

(んっ、…ん、ぅ)

(…)

(…ふ、ん、…ん)

(…ご馳走様)

(いえ…大丈夫です)

(ルイスの血は相変わらず甘くていい香りがするね)

(そうでしょうか。兄さんの血もとても濃厚で美味しいですよ)

(ほとんど毎日同じものを食べて同じように過ごしてるのに、どうしてこんなにも違うんだろうね)

(さぁ…でも、僕の血が兄さん好みの味で嬉しいです)

(僕もだよ、ルイス)

(兄さんの血、飲んでもいいですか?)

(勿論。どうぞ、好きなだけ飲むと良い)

(ありがとうございます)