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のらくらり。

兄様の飲み比べ

2019.12.04 00:16

小説版「アルバートの飲み比べ」で酔いつぶれたルイスのその後。

酔って甘えたになるルイス。


「ん…」

「起きたのかい?ルイス」

「…にぃ、さん…?ぅ…」

「気分はどうだい?」

「んぅ…」


アルバートとモランの飲み比べに途中参戦したルイスが酔い潰れ、モランまでも潰れてしまってから二時間ばかりが経過した。

ウィリアムは机に突っ伏す形で眠っていたルイスを抱え上げ、元々座っていたソファに腰掛けてアルコールの匂いを纏っている彼を自らの体に凭れかけるように座らせる。

酒を飲んだ後は体が急激に冷えていく。

もう問題ないとはいえ、心臓に負担のあるアルコールを短時間に大量摂取してしまった後となると、おそらくは随分と早く体温が低下してしまうだろう。

それを懸念したウィリアムとアルバートは、モランに加勢しようとして逆に酔い潰れてしまった末弟を挟むようにしてソファに腰掛けていた。

ルイスの体は先ほど掛けた毛布でしっかりと覆われている。

ちなみにフレッドはとうに自室へ戻っており、モランは未だ机に突っ伏したままである。


「にぃさん…モランさんはにぃさまに勝てましたか…?」

「いや、残念ながらモランは後ろで寝ているよ。今回も兄さんの勝ちだね」

「そうですか…ふふ、さすがにぃさまです」


徐々に覚醒したルイスが凭れていた先にいるウィリアムに問いかければ、苦笑したように返事をされる。

その内容に少しばかり残念そうに眉を下げたルイスだったが、すぐにふわりと柔らかい笑みを浮かべた。

まだ酔いが醒めていない様子で、むしろ寝入る前よりもぼんやりとしている。

ルイスはそれほど酒に強いわけでもないが、初めて飲んだ頃よりはずっと強くなった。

食事の際に飲む程度ならば素面を保てているし、飲み比べでもない限りはアルバートとウィリアムとともに適量のワインを楽しむこともある。

節制することを苦と思わないルイスだからこそ羽目を外した飲み方をすることもなく、ウィリアム達も安心していたのだが、元来ルイスの酔い方は特殊だった。


「にぃさま、ぼくよりもたくさん飲んでいたというのに、少しもわるよいされていませんでした」


ウィリアムの腕に両手を巻きつけ、ルイスはうっとりとしたように瞳を潤ませて自分を負かしたアルバートを褒め称える。

当然負けるつもりは毛頭なかったが、それでもルイスの方が有利な状況だったにも関わらず、アルバートは圧倒的な量のワインを飲み尽くした。

それでいて尚、まだ味を楽しめると豪語したのだ。

完敗という単語以上の言葉をルイスは知らないし、優雅で余裕を携えたままグラスを傾ける彼にいっそ惚れ惚れするしかない。

酒は勝負に使うものではなく、味を楽しむ嗜好品なのだとアルバートを見て改めて思い知った。


「にぃさま、とても格好よかったです」

「そうだね、さすが兄さんだ」

「モランさんには申しわけないですけど、にぃさまが勝ててうれしいです」

「ルイスがそう思っているなら、兄さんもきっと喜んでくれるだろうね」

「んふふ。ワインを楽しむにぃさまをみてると、ぼくも選びがいがありますね」


ウィリアムの首に頭を埋めながら、見惚れるほど堂々とした姿の長兄を思い浮かべてルイスは機嫌良さそうに話しかける。

まだ少しばかり呂律の怪しいルイスの頭をウィリアムは優しく撫でていく。

ルイスが本来持つ清潔感溢れる香りとは違って、今は濃密なアルコールの匂いが漂っていた。

甘えた様子に似つかわしくない匂いだが、ウィリアムとアルバートにとってはそれすらもどこか愛おしく感じられる。

鼻歌でも歌いそうなほど機嫌良くウィリアムに懐いているルイスはその優しい手を喜び、更に力を込めて彼に抱きついた。


「もっとおいしいワインを探さないといけません。にぃさんの口に合うワインもみつけますからね」

「いつもありがとう、ルイス」

「いいのです、ぼくの仕事ですから!」


勢いづいてウィリアムの顔を覗き込んだルイスは、がんばります!と言いながら拳を握っている。

その健気な様子にウィリアムとアルバートは揃って笑い声をこぼした。

元来、酔ったルイスは飾ることなくひたすらに無垢で純粋なのだ。

特にウィリアムとアルバートには気を許しているせいか、普段の気を張った姿が嘘のようにふわふわと笑うことが多い。

そして酔った人間特有の、目の前のものにしか意識が向かない注意力不足も当てはまる。

きっと今は自分を抱きしめているウィリアムにしか意識が向いていないから、隣にいるアルバートには気付いていないのだろう。

アルバートは酔っていても一途に尽くそうとしてくれる末弟と、その彼をゆったりと抱きしめている次男を微笑ましく見守っていた。


「そういえば、にぃさんは飲みましたか?マデイラ」

「僕は飲んでいないよ。兄さん達がほとんど飲んでしまったからね」

「もう残っていないんですか?」

「そうだね、あと僅かかな」


ルイスが目覚めるまで、アルバートとウィリアムはソファに腰掛けながら他愛もない話をしていた。

その間ウィリアムは何も口にしていないが、アルバートは手酌で一人ワインを飲んでいたのだ。

あれほど飲んだ後だというのにまだ飲む彼の底知れない体にウィリアムも驚くが、見るに体調を崩すどころか酔った気配すらない。

これはもう理由を考えるよりも、彼はそういう体質なのだと割り切った方が早いだろう。

ゆえにウィリアムは特に気にするでもなく、時折もぞもぞと体を動かすルイスを温めるように肩を抱いて時間を潰していたのだ。

ふとアルバートを見れば残り少ないワインボトルを軽く傾けて、肩を竦めるように眉を下げている。


「僕が飲めるほどの量はもうないね」

「そうですか…とても味がよかったから、ぜひにぃさんにも飲んでほしかったのですが…」

「僕の分もルイスや兄さんが楽しんでくれたから、気にしなくてもいいよ」

「むぅ…」


アルバートが味を楽しんでくれたのは勿論嬉しいのだが、せっかくのボトルなのだからウィリアムにも飲んでほしかった。

飲み比べに参戦するほど飲むのは心配だったが、一杯二杯ならば楽しんでほしかったのだ。

ルイスは緩んでいた顔を残念そうに変えて、もう一度同じものを買い付けようかと思案する。

でもそれでは時間がかかってしまうし、同じ銘柄のボトルが手に入るとも限らない。

ないものはないのだから受け入れるしかないとルイスはウィリアムの顔を見たが、そこで一つの案を思いついた。


「そうだ。まだぼくの口にはふうみが残ってます。味見しますか?」

「味見?」

「はい」


あー、と口を開けて、それを指で示しながらルイスは提案した。

酔ってはいるがそれを自覚しているし、頭がぼんやりするからまだアルコールが残っていることは間違いない。

飲み終わってからさほど時間が経っていない今ならまだ風味くらいは残っているだろうと、覚束ない思考でルイスは思い至ったのだ。

ウィリアムに凭れていた体を起こし、ほとんど変わらない高さで兄の顔を覗き込んで提案したのだが、紅い瞳を丸くした彼の顔が目に入る。

どうしたのかと口を閉じて首を傾げてみるが、今のルイスとしては味見などただのお裾分け程度としか認識していない。

たかが味見だというのに、何がそんなにウィリアムを驚かせたのかよく分からなかった。


「にぃさん?どうしました?味見、いやですか?」

「嫌じゃないよ、ルイス。でも味見というと、キスをすることになるけど良いのかな?」

「?はい。いいですよ、もちろん」

「ふふ」


普段はどちらかというと控えめな弟の大胆な提案に、ウィリアムは分かりやすく驚いた。

味が分かるほど深いキスを提案するなど、通常のルイスならば有り得ないことだろう。

だがそれも酔っているがゆえの特権かと、ウィリアムは少しばかり笑いながら言葉を返す。

そんな弟達の様子に吹き出すように声を出したアルバートの様子は、ウィリアムしか気付いていない。

飲んでから二時間は経っており、アルコールの匂いはしてもワインの風味は大して感じられないはずだ。

しかし今それを指摘するのも野暮というもので、可愛い弟のせっかくの好意を無碍にするなど、彼を溺愛するウィリアムもアルバートもするはずがなかった。


「じゃあルイスがそこまで言うなら、味見させてもらおうかな」

「ぜひ!」


驚いていたウィリアムの顔が普段のように余裕を携えた笑みに変わったのを見て、ルイスは表情を輝かせた。

モランのためにくだらない勝負に使ってしまったが、本当に美味しい自慢のワインだったのだ。

アルバートはともかく、モランに大半を持っていかれたままなのは少々悔しい。

ルイスはウィリアムの腕を掴んでいた両手を離し、彼の首に回して引き寄せた。

そうして軽く唇を合わせてから、薄く開けられた隙間に舌を差し込んですぐに離れてしまう。


「ん、…味、わかりました?」

「よく分からなかったな。もう少し奥まで来てくれないと」

「…おく」


うっすらと舌先を合わせただけで味が分かるはずもない。

ましてや、二時間前に飲み合えたワインの風味を感じるためのキスにしては軽すぎるだろう。

そわそわしながら尋ねるルイスを誘惑するように深いそれを要求してみせれば、なるほど、といったように頷いた。

だが普段自分から深いキスをすることのないルイスはどうしようかと、そのままウィリアムの首に頭を埋めて思い悩む。

弟が可愛らしく悩む様子を楽しげに見て背中を撫でるウィリアムと、その様子を肴にするようにグラスを傾けるアルバートは静かに視線を交わした。


「ふっ…ウィルの方からすればいいだろうに」

「冗談でしょう。せっかくの機会なんですから、ここはルイスの方からするべきだ」

「それもそうか」


さほど大きくはない声で会話する兄達の声はルイスにも聞こえているはずだが、ウィリアムが抱いている体からは何の反応もない。

どうやら未だアルバートの存在に気付けていないらしい。

寂しいやら特等席で弟達の様子を見られて嬉しいやらで、アルバートとしては複雑な心境だ。

だがその感情すらもワインの肴になるようで、アルコールに強い長兄は優雅な笑みを携えながら弟二人のやりとりを見守っていた。


「にぃさん、もう少し口をあけてください」

「ん、分かった」


不意に頭を上げてウィリアムの頬に手を添えたルイスは、幼い音を立ててその唇にキスをする。

深くキスをするために自分で唇を開かせるよりも、ウィリアムの力を借りた方が良いと考えたらしい。


「ふぁ、ぅ…ん」


出来ればルイスの方から積極的に来てほしかったのだが、アルコールで思考の溶けたルイスにしては上出来だろう。

ルイスの希望通り自主的に唇を開いたウィリアムは、先ほどより深くまで入ってくる柔らかい舌の感触を楽しんだ。

瞼を開ければ夢中になってキスをしているルイスが目に入り、舌を絡めていることで性的な水音も聞こえてきた。

酔ってしまいそうなほど濃いアルコールの匂いに混ざって、ほんの少しだけ葡萄の風味が感じられる。

けれどねっとりと絡みつく舌に乗ったその味は、アルバートが評価するような優れたワインの味はしなかった。


「ん、ふぅ…こんどは味、わかりましたか?」

「あぁ、良いワインだ。さすがルイスが選んだワインだね」

「ふふ、にぃさまも褒めてくださいました」


味などしなかった、と素直に伝えるには無邪気なルイスの様子が惜しかった。

ウィリアムは健気な弟を思い優しい嘘をつくことにして、ありがとう、と穏やかに微笑んで彼の仕事ぶりを労う。

事実、むせ返るほど濃いアルコールを帯びたキスは十分に満足できるものだった。

酔ったおかげで滅多にないルイスの積極的な一面が見れたことを考えると、貴重なワインの恩恵は受けたと言えるだろう。

当のルイスは自分で選び、アルバートにも認められたワインのお裾分けが出来たと上機嫌だ。

兄二人に褒められたことも上機嫌の要因の一つになっているに違いない。


「随分機嫌がいいな、ルイスは」

「そうですね。きっと兄さんと僕にワインを認められて嬉しいんでしょう」

「…ん…?にぃさま…?」

「ようやく気付いてくれたかな」


ウィリアムに抱きついて笑っていたルイスが、やっと隣に座っていたアルバートの存在に気が付いた。

ゆっくりとアルバートの方を見たルイスはその姿を認めると、瞳を輝かせて彼に向けて手を伸ばす。

可愛い弟を独占していたウィリアムは、長兄の元に行こうとするルイスを惜しむことなくその体を離してあげた。


「にぃさま、さすがお強いですね!」

「ルイスもよく頑張っていたね」

「いえ、ぼくもモランさんもまだまだです。にぃさまにはとてもかないません」


アルバートの腕の中で悔しそうな素振りを見せることなく、ルイスは自分を負かした兄を尊敬の眼差しで見た。

依然として酔っている様子など見せないアルバートにルイスは、さすがです、格好いいです、にぃさま凄いですね、と思うままに褒めている。

気恥ずかしさすら感じられるその言葉に、さしものアルバートも照れたように苦笑してはルイスの体を抱きしめた。


「ぼく、もっとおいしいワインを探しますからね!」

「あぁ、期待しているよ、ルイス」


ルイスのワインを選ぶ目は確かなものだ。

きっとアルバートのため、手間を惜しむことなく美味しいワインを探してくれることだろう。

先にその仕事ぶりを労うようにアルバートは優しくその背中をさする。

しばらくはその温かい手を堪能していたルイスだが、ふと思い出したようにアルバートの顔を見上げて首を傾げた。


「そういえば…にぃさまが勝ったということは、ぼくとモランさんとフレッドに罰があるんですよね?」

「そのことなら心配はいらないよ。主犯は大佐なのだから、大佐にだけ罰を受けてもらうことにした」

「モランさんだけですか?」

「ルイスは巻き込まれただけだからね」


そう言ったアルバートの言葉に、ルイスは安心したようにほっと息をついた。

優しい長兄のことだから無理難題や過酷な罰など命令するはずもないが、やはり罰となるとどうしても緊張してしまう。

モランには申し訳ないけれど、完璧を形にしたようなこの兄に無謀な挑戦をした報いだと考えればまぁ妥当だろう。


「にぃさま、ありがとうございます」


ルイスは心優しいアルバートに縋りつくように抱きついた。

自分以上にワインを飲んだはずなのに、アルコールの匂いではなく普段彼が好んで使っている香水の香りがしてくる。

それともアルコールの匂いに鈍くなっているせいで、自分が気付いていないだけなのだろうか。

どちらでも良いかと、ルイスはかぎ慣れたアルバートの香りを目一杯吸い込むように息をした。


「あぁ、でも…」

「?なんですか?」

「ルイスが飲み比べに参加する前にした約束、覚えているかい?」

「やくそく…?」


アルバートはルイスがモランに加勢して飲み比べに参加する際、無謀な飲み方はしないこと、と条件を出した。

思考はまとまっていないが、ある程度意識はしっかりしているルイスが時間をかけてそれを思い出そうと首を捻る。

急かすことなくその様子を見ていたアルバートと、彼の意図を推察したウィリアムは愉快そうに表情を変えた。

ウィリアムよりも約束を取り付けたアルバートからの言葉である方が、ルイスの心にも響くだろう。


「…たしか、体をこわすような飲み方はしてはいけないといっていました」

「あぁ、そうだ。それで、ルイスの飲み方はどうだったかな?」

「…体をこわしてはいません。頭もいたくないです」

「でも普段の君なら潰れるほどは飲まないだろう?そんなルイスだからこそ、私もウィルも君を信用していたのだから」

「…それは、そうですけど」


ルイスは気まずそうにアルバートから視線を逸らし、ウィリアムの顔を見れば変わらず微笑んでいる様子が目に入る。

助けてくれないだろうかと期待するが、恐らくはウィリアムもアルバートと同じように潰れるほど飲んでしまったルイスに対しては思うところがあるはずだ。

アルバートとモランにつられて、つい飲みすぎてしまった自覚はある。

これはもう言い訳などせず幾つかの小言を貰う方が良いのだろう。

しょんぼりと肩を落としながらも自分の腕の中から離れようとしないルイスを見て、アルバートは不敵に微笑みながら彼の顎を持ち上げて紅い瞳を覗き込む。


「に、にぃさま」

「自分の限界を知らずにいることは、これから先の脅威になりうることを知りなさい」

「…はい」


困ったように自分を見るルイスを、アルバートは瞳を細めながら時間をかけて見つめている。

アルバートはルイスたちが幼い頃に出会ったせいか、今でも酔ったときやベッドの中で自分に甘える姿を見てしまうとつい子ども相手のように接してしまう。

今も幼子に言い聞かせるように穏やかかつ厳しく話しているが、きっと普段のルイスならばより不満そうに唇を尖らせるのだろう。

長兄の言葉に反省して俯こうとするルイスを抑え、アルバートは少しだけ乱れた前髪がかかる額に唇を落とした。


「んっ…にぃさま?」

「もう無理をしてはいけないよ」


キスをされた額に手を当ててアルバートを見たルイスは、その顔が普段通り優しい表情を浮かべていることに気が付いた。

結局は優しく自分を諭してくれる彼の存在に、ルイスは安心したように瞳を緩める。

兄と弟のそんなやりとりを近くで見ていたウィリアムは、苦笑したように彼らに声をかけた。


「全く…兄さんはルイスに甘いんですから」

「おや、ウィリアムには言われたくない言葉だな」

「ふふ。さぁルイス、そろそろ部屋に戻って休もうか。体が冷えてしまうよ」

「大丈夫です、にぃさん。お二人があたたかいので、ぼくもさむくないですよ」


ルイスが自分を抱いているアルバートの頬と、隣に座るウィリアムの頬に手を伸ばしてその温かさをアピールすれば、確かに思っていたよりもルイスの体は冷えていなかった。

だが夜も遅いのだから休むべきだというウィリアムの言葉に逆らうことはなく、ルイスはもう一度アルバートを抱きしめる。

次にそのままウィリアムを抱きしめると、小さなあくびが漏れてきた。


「ふあぁ…ところで、モランさんはどうするんですか?」

「毛布をかけてあるし、大佐は丈夫だから風邪も引かないだろう。このままここで寝かせておけばいい」

「モランもよく飲んでいたからね。無理に起こして気分を悪くさせるよりも、十分にアルコールを分解する時間を取ってあげた方が良いだろう」


モランを起こすのも部屋に連れて行くのも面倒だというアルバートとウィリアムの心理に、普段のルイスならば気が付いただろう。

だが酔いの残っている今のルイスは言われた言葉をそのまま信じるだけだ。

この二人がそう言うのなら万に一つも間違いはないのだろう。

そう考えたルイスは突っ伏しているモランを一目見てから、彼らに連れられるまま寝室へと向かっていった。



(ぶぇっくしょい!…あ゛~、頭いてぇ)

(モランさん大丈夫ですか?)

(…大丈夫っちゃあ大丈夫だけどな。ルイスおまえ、いつの間に部屋戻ってたんだ?)

(それが…あまりよく覚えていないのですが、兄さんと兄様に起こしてもらったような気がします)

(何だと?何でおまえは起こしてもらって俺はそのまま放置されたんだよ)

(さぁ?)

(おまえ相変わらずあいつらに贔屓されてんな…)

(失礼な。未熟な僕じゃあるまいし、兄さん達が依怙贔屓なんてするはずがないでしょう)

(おま、それ本気で言ってんのか?)

(何がですか。大方、モランさんは起こしても起きなかったとかそういうことなんでしょう。兄さん達のせいにするのは良くありませんよ)

(…もうおまえには何言っても無駄だな…)

(だから何がですか、全く…はい、こちらを飲んでください)

(何だこれ。グレープフルーツジュースか?)

(町の方からいただいたグレープフルーツを絞りました。兄さん曰く、二日酔いに効果があるそうですよ)

(へぇ~。そんじゃ、有難くいただくぜ)

(どうぞ)