Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

どんより空

2019.12.05 11:34


空にべっとりと張り付くような雲。



湿った風。



平年よりも高い気温。



「寒いだろう」と思ってセーターを着てきたことを後悔する。



汗ばむ首元を私は指で軽くひっかいた。



こういう空は一番苦手だ。



いっそのこと雨が降ってくれた方がいい。



「雨が降るか降らないか」という曖昧な天気の日には犯罪も増えると聞いたこともある。



曖昧な状況が続くというのは何かと人間にとってストレスらしい。



私も例外ではなく、その空にどうにもならない苛立ちを感じてしまう。



用事を済ませた私は足早に駅に向かった。



電車に乗り込み、ようやくほっと一息つける。



15時過ぎ。



まだまだ一日は長い。



残りの一日をどう過ごすか。



「時間を無駄にしてはいけない」



書店の自己啓発本の棚の8割には書いてありそうな文句。



毎日SNSを開いていれば一日一回は目にしそうな文句。



15時すぎの電車の中で、べっとりと空にはりついた雲を眺めると、心の中にその文句が浮かんでくる。



「そうだよね……」



ぐったりと座席に体をゆだねながらも、私はその文句にうなずくしかなかった。



自宅最寄り駅まで到着し、自転車に乗る。



電車の乗車時間は30分。



空模様は変わる気配を見せない。



曖昧な状況は長引けば長引くほどストレスになる。



もう一度私はセーターを着てきたことを後悔しながら、汗ばんだ首元を指先でひっかいた。



何事もなく、自宅に到着する。



時計を見ると16時。



「時間を無駄にしてはいけない」



そこらじゅうに落ちている文句が再び脳裏をよぎる。



やらなければならない仕事がないわけではない。



それでも私はお湯を沸かし始めた。



お湯が沸くまでの間は洗顔をしてメイクを落とす。



洗顔を終えた頃、ちょうどお湯が沸く。



ミントティーのティーバッグをセットしてお湯を注ぐ。



蒸らし時間は5分。



スマホで5分を計って待機。



その間外出時に使っていたバッグを片付けたり、上着をハンガーにかける。



タイマーが5分経過したことを告げる。



ティーバッグを外し、私はカップを持ったままソファに体を沈めた。



窓の外には相変わらずの空模様が広がっている。



カップから漂う湯気はミントの爽やかな香りを漂わせていた。



私はそれを思い切り胸に吸い込んだ。



「時間を無駄にしてはいけない」



「知るかそんなもん」



脳内で一人問答をする。








毎週水曜日朝7時ごろにメールマガジン【夜明け】にて短編小説を配信しています。