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のらくらり。

ハツコイ

2019.12.05 11:33

イートン校時代の兄様とルイスの恋。

兄様付きのファグになるルイスとっても可愛い。


伝統あるイートン校において、学年主席を誇るアルバート・ジェームズ・モリアーティを知らない人間はいない。

名門伯爵家の跡取り、文句などつけようもない圧倒的な成績、それに加えて穏やかかつ有無を言わせない迫力を併せ持つその美貌は、イートン校に住まう世界の小さな学生の中では注目の的そのものだ。

粗を探したい者、付け入ろうとする者、その美貌を手に入れたい者、全てを持ちうる地位から引きずり落としたい者。

好意であろうと悪意であろうと、それぞれの思惑が向けられることにアルバートは既に慣れていた。

慣れていたからこそ馴れ合わず、特別親しい友人を作ることもしなかったのだ。

階級社会を作るための人間と親しくなったところで己の自我を保てない。

ゆえに独り気ままな寮生活を送っていたアルバートにとって、イートン校とは自宅よりは気の休まる、けれども気の置けない環境でしかなかった。

周囲から浮いているようにも見えるその立ち振る舞いは、けれども持ち前の気品と合わせて高潔な存在にすら映る。

階級社会の縮図たるこのイートン校において、アルバート・ジェームズ・モリアーティという存在を知らない人間はいなかった。


「ルイス、入学おめでとう」

「アルバート兄様」

「ウィリアムは残念ながら教員に連れられてしまったんだ。代わりに僕が学園を案内してあげよう」

「ありがとうございます、兄様。とても嬉しいです」


監督生として新しく入学してくる学生のための式典に参加したアルバートは、式典後に一人の学生の手を引いてその場を連れ出した。

右頬に痛々しい傷跡を持つ、くすんだ金髪が綺麗な幼い学生。

今年の新入生の中にはあのアルバートとウィリアムの弟が入学してくると、幾日も前から話題になっていた。

あの二人の弟ならばさぞ見目麗しく優秀なのだろうと噂されていたのだが、どこからともなく実弟ではなく養子の末弟だという情報が流れてくる。

はたして一体どれがその養子なのかと興味を持った学生達は、アルバートの行動一つであの傷物の子どもがそれなのだと理解した。

あれが噂の弟で、養子で、アルバートの家族であるルイスという人間なのだろう。


「その制服、よく似合っているね」

「…アルバート兄様も、そのガウンがとてもよくお似合いですね」

「ありがとう。そういえば、以前ルイスが見学に来たときにはガウンを着ていなかったね」

「はい。兄様のガウン姿は初めて見ました」


アルバートに連れられて直々に学園を案内されるルイスの姿は、まるで親に連れられた雛鳥のようだった。

ルイスの世界の中心はウィリアムとアルバートである。

知らない人間、しかも大嫌いな貴族に囲まれた式典など、ルイスにとっては息が詰まるほど苦痛に満ちた空間だった。

けれどもこの学園で学ぶことがモリアーティ家の子息にとって必要で、ゆくゆくはウィリアムとアルバートのためになるのだとルイスは確信している。

この学園で六年間を過ごす覚悟は当に出来ていた。

けれども初日である今日、覚悟を決めていたルイスの気持ちが少しばかり滅入っていたのも確かだ。

その優秀さゆえに飛び級が決まっているウィリアムは多忙を極めていて、もちろん王の学徒であり監督生をも務めているアルバートも多忙なことは間違いない。

そうだというのに、わざわざ都合を付けて声を掛けてくれたことがルイスにとっては何よりも有難いことだった。

黒いガウンを身に纏い、凛々しく前を歩く兄の姿を見てルイスは胸が温まるような心地がした。

式典への参加はこれから先の未来を予感させる神聖なものではあったが、やはりルイスとしてはウィリアムやアルバートとともに過ごす時間の方がよほど大切なのだ。

僅かに跳ねているような足取りを自覚しながら、ルイスは一つ一つ丁寧に案内してくれるアルバートを追いかけていった。


「…兄様、その…」

「気にしなくて良い。そのうち慣れるよ、ルイス」

「…は、はい」


けれどささやかな幸福もつかの間で、周囲の人間からは好奇に満ちた視線が容赦なく浴びせられる。

元よりこのイートン校において有名人であるアルバートへの視線はともかく、その彼が親しげに誰かを引き連れているという興味が有り有りと感じ取れるのだ。

彼に相応しい弟でいなければ、と背筋を伸ばして姿勢を正してはいても、終始気の抜けない時間はルイスにとって負担そのものだった。

頬の火傷のこともあり向けられる好奇の視線に慣れていたつもりでも、燕尾服を着て「アルバートの弟」としてこの場に存在することには慣れていないのだ。

澄ました表情に浮かぶ困惑と疲労に、アルバートは苦笑しながら足を止める。

数多の視線を浴びて居心地悪そうにする姿も中々どうして新鮮で可愛らしい。

きっとルイスの中では、人目を引くほど醜い自分がアルバートの傍にいて良いのだろうかと葛藤しているのだろう。

けれど実際には頬に存在する醜い傷跡すらもルイスの魅力になっていて、だからこそルイス個人への興味が浮き彫りになった結果がこの視線の数々なのだ。

自分の魅力に疎いルイスが気付かずとも、アルバートには手に取るように理解出来てしまう。

そして可愛い弟を見世物にするつもりは毛頭ないと、緊張した面持ちのルイスを見てアルバートは優しく声をかけてあげた。


「…そうは言っても、初めのうちは慣れないだろう。部屋に戻ろうか」

「す、すみませんアルバート兄様」


アルバートの提案に対しホッとしたように表情を緩めるルイスを見て、この学園において二つ目の癒しが出来たとアルバートは喜んだ。


「アルバート兄様は他の学生にも一目置かれているんですね」

「一応監督生だからね。それにしても全く無礼なものだ、弟とのせっかくの憩いの時間だったというのに」


アルバートに連れられて彼の部屋を訪ねてソファに腰を下ろせば、ようやくルイスは今日初めての安堵を手に入れた。

以前面会に来たときに足を踏み入れた以来のこの部屋はアルバートそのものである。

彼らしく落ち着いた色合いでまとめられた清潔感あふれる空間に心が安らぐ。

ルイスは兄の許可を取り紅茶を淹れて、二人だけのティータイムを過ごしながら離れていた時間を惜しむようにたくさんの言葉を交わしていく。

町で出会った人、屋敷で発見したもの、頂いた手紙が支えになって勉強に励んだこと、早く二人に追いつきたくてようやく今日という日を迎えられたこと、式典後に声を掛けてもらえて嬉しかったこと。

アルバートに話したいことがたくさんあったようで、記憶の中では物静かだったはずのルイスが饒舌に話し出したことがとても嬉しい。

まだ声変わりしきっていない高い声にタイミング良く相槌を打ちながら、アルバートは久々に会った可愛い弟の体を抱きしめた。


「入学おめでとう、ルイス。ウィリアム共々、ずっと待っていたよ」


記憶と変わらず細身で、それでも身長は伸びていたらしい。

まだ柔らかく成長途中のルイスを抱きしめて、アルバートは満たされたようにその髪の毛に顔を埋めた。

低い体温も甘い匂いも、緊張して固まりつつ徐々に力を抜いて凭れてくる体も全てが懐かしくて、今日からはまた一緒にいられるのだと思うと幸せしか感じられない。

思わず抱きしめる腕に力を込めると、ルイスからもおずおずと背中に手を回された。

そうして縋るように抱き返し、アルバートの腕の中で赤い瞳を輝かせながら照れたように微笑んだ。


「お待たせしました。今日からまた、よろしくお願いします」

「あぁ」


控えめながらもしっかりと自分の体を抱きしめる弟が愛おしい。

アルバートは片方だけ覗かせている額に唇を寄せて、囁くように愛の言葉を紡いでみせる。

淡いリップ音に頬を赤らめる姿を目で堪能しながら、ふと過ぎるのはこの可愛らしい末弟が寮生活を送るということの弊害だ。

男子しかいないこの学園では同性愛が暗黙の了解になっている。

当然アルバートも言い寄られたことがあるし、ウィリアムも然りだ。

階級社会で上の立場には逆らえないことを利用して下級生に手を出す人間は必ず一定数存在する。

アルバートもウィリアムも上手くやり過ごしてきたのだが、イレギュラーなことに弱いルイスが兄達ほど上手くやり過ごせるのかは疑問だ。

帰省のタイミングで散々注意するよう言い聞かせてきたが、それでも心配は拭えない。

ジャック直伝の殺人術を身に付けているとはいえ、仕留められない状況になるとルイスが得意とする武器ではやり過ごせないだろう。

学年的に卒業も見えているとはいえ、やはり自分とウィリアムで守れる限りルイスを守ってやらねばならない。

傷物とはいえ、それが危うげな魅力をより引き立たせてしまっていることは事実なのだから。


「ルイス、ファグという言葉は聞いているかい?」

「…確か、上級生が下級生に身の回りの世話や雑務の手伝いを任せる制度だったかと」

「概ね間違ってはいないな」


イートン校に根付くファギングとは、階級社会を助長する制度そのものだ。

階級を盾に下級生をまるで使用人のごとく小間使うなどアルバートとしては理解しがたい制度ではあるが、一度ファグとして結びついた二人は周りから干渉されることが減る。

日頃の鬱憤を下級生にぶつけるような関係を持つ者もいれば疑似恋愛めいた関係を持つ者もいて、いずれにせよかつてのアルバートには縁遠いものだった。

ファグを望まれたことはあるが、頷いたことはない。

当然相応の仕打ちはあったが、全て跳ね除けられるだけの地位と学力を持っていたから大した問題にもならなかった。

嫌悪していたファギングという制度だが、交わされた密約の間には他者が関与できる余地はないのだ。

ならば可愛いこの弟を守るためにも、ルイスをアルバート付きのファグにするべきだ。

地位と権力を併せ持つアルバートの手が掛かっているとなればルイスに手を出す人間は格段に減ることだろう。

それでも近付こうとする人間がいた場合、ルイス直々の鉄槌を容赦なく下すに値する人間だということである。

あと一年で卒業する身ではあるが、飛び級の先に大学進学も見えているウィリアムではアルバート以上に時間が取れないだろう。

だからこそルイスをアルバート付きのファグにすることが今一番正しい選択なのだ。


「ルイスには僕付きのファグになってもらいたい」

「兄様の、ファグですか?」

「あぁ。別に君を小間使いするつもりはない。普段に通り過ごしていてくれればそれで構わないよ」

「…それは、兄様のお傍にいても良いということですか?」

「…そうだね、僕の傍にいてもらおうか」


ファグという制度に思いもよらない解釈をしたルイスの顔を思わずまじまじと見るが、前情報などない状態で入学してきたルイスとしてはその程度の知識しかないのだろう。

言い換えれば奴隷契約のような制度を、傍にいても良い権利だと解釈するその純粋さはさすがルイスだ。

その純粋さはこの学園において危険なものかもしれない。

だが自分とウィリアム以外には警戒しか持たないルイスだから、恐らくは大丈夫だと信じるほかなかった。

そんなアルバートの心配などいざ知らず、ルイスは濃い赤をますます煌めかせて縋る腕に力を込める。


「僕で良ければ、是非アルバート兄様付きのファグにしてください!」


きらきらした瞳で自分を見つめる幼い弟を抱きしめて、アルバートはこの学園で過ごす残りの時間全てを持ってルイスを守ることと、身の守り方を徹底して仕込んであげなければならないと決意した。




気候が冬めいてきて、夜は随分と冷えるようになった。

勉学と運動に励んだ後の疲れた体を包むシーツがひんやり冷たいと感じるようになり、ルイスにとってあまり得意ではない季節が近付いていることがひしひしと伝わってくる。

元々循環が悪いルイスにとって冬の寒さは直接その身に響くのだ。

入学する前ならばウィリアムとともに寝て暖を取っていたのだが、多忙に多忙を重ねていつ自室に帰っているかも分からない彼を訪ねる訳にもいかないだろう。

ルイスは冷えた指先に息を吹きかけ、少しでも温まるよう両手を合わせて握りしめた。


「そういえば先輩に聞いたんだけどさ、この時期のファグは上級生のベッドを温めておくのがルールなんだって」

「そうなんですか?」

「あぁ。わざわざファグがベッドに入って温めとくんだってさ。そのまま喰われちまう奴もいるみたいだけど、上級生には逆らえないし教師も見て見ぬ振りなんだと。…嫌だよなぁ」

「…そう、ですね」


特別親しい友人は作っていないが、それでも適当に会話を交わすくらいの関係は築いている。

今ルイスに話しかけた彼はルイス同様に上級生から見初められ、ファグになることを拒否できずに関係を作った同級生だ。

上級生と関わりと持ちたいがあまりファグになりたがる人間が大勢いることを、ルイスは入学してすぐに知った。

もう既にアルバート付きのファグであることが知れ渡っていたルイスに向けられる視線に羨望と嫉妬が入り混じっていたから、嫌でも気付いてしまったのだ。

けれど隣にいる彼はファギングに対して良く思っていないらしく、奴隷なんて最悪だとぼやいていた。

お茶の淹れ方なんて知らない!靴くらい自分で磨け!と喚いていたのをルイスが聞き流していたのはつい最近のことである。

最下層の人間だったルイスにとって日々の雑務など習慣付いてしまっていることだから苦でもない。

けれど貴族である人間にとっては苦痛なのだろう。

感じ取り方の差は血筋ゆえかとルイスは納得していたし、アルバートに命じられるでもなく自主的に彼に尽くそうと行動している。

むしろアルバートのためになるのならばと、彼が制止するまで雑務に勤しんでいたことすらある。

そんなルイスにとって、ファグ仲間でもある同級生の言葉は衝撃だった。

アルバートからもウィリアムからも、ここはそういう空間でそういう目で見られることが多いのだと聞いていたが、いざその実態を聞いてしまうと一層の生々しさを感じてしまう。

喰われる、とは正しくその通りの意味なのだろう。


「ルイスは良いよなぁ。俺の先輩もモリアーティ先輩みたいに格好良かったらまだ諦めついたのに」

「…アルバート先輩をそういった目で見ないでいただけますか」

「はは、冗談冗談。別に取りゃしないって、ルイスのファグだもんな」


少しだけムッとしたように表情を変えるルイスを気にせず、彼はまたも気落ちしたように大きなため息を吐いた。

まだ日の落ち切らない今の時間帯でさえ冷えるのだから、夜はさぞかし厳しい寒さなのだろう。

階級社会に逆らえない彼はきっと嫌々ながらも上級生の部屋へ行き、自らの体でベッドを温め、最終的にはその上級生に喰べられてしまうのかもしれない。

そのことにさほど思うことはないけれど、もし自分が同じようにアルバートのベッドを温めておいたら、彼も自分のことを喰べてしまうのだろうか。

アルバート兄様になら喰べられてしまっても良いなと、心のどこかでそんなことを思っていたが、それにルイスが気付くことはなかった。


食事を終えて軽くシャワーを浴びたルイスは事前に渡されていた合鍵を使い、アルバートの部屋を訪ねていた。

アルバートからはいつでも来て構わないと言われており、今までも手の空いた時間に掃除や繕い物などをしていたから珍しい行動でもない。

だが今日は掃除でも繕い物でもなく、アルバートのためにベッドを温めておく目的でここへ来た。

今まではむしろ低体温である自分が温めてもらっていた立場だから、ルイスにとって誰かを温めようとするのは初めての試みだ。

その初めてゆえか、ルイスの心臓は緊張で大きく高鳴っている。

緊張を鎮めようと大きく深呼吸をしてから、丁寧にベッドメイキングをしたアルバートのベッドに腰を下ろした。


「やっぱり冷たい…」


触れたシーツは思っていた通りに冷たく、こんなベッドではアルバートが中々寝付けないだろうとルイスは思わず眉を顰めた。

そうしてナイトガウンを着込んだまま、ルイスはアルバートが愛用しているベッドへと潜り込んだ。

今日は進学についての相談があると言っていたから帰宅は遅いだろう。

何とか帰ってくるまでにベッドが温まると良いのだけれど、と思いながらルイスは小さく丸まってシーツに包まれる。

質の良いマットとシーツからはアルバートが愛用している香水の香りと彼本来の匂いが感じられた。

思わず、すん、と鼻を鳴らしてアルバートの気配を吸い込んで、上がる口角を誤魔化すようにシーツで口元を覆い隠していく。

アルバートとともに一緒に眠ったことがないわけではないけれど、久しぶりなのは確かだ。

大きな体で抱きしめられながら眠りにつくのはとても幸せで、その穏やかな時間がルイスはだいすきだった。

けれど一緒に寝たいというのも幼子のようで恥ずかしくて、アルバートの迷惑になるのではないかと思うとルイスから言い出すことはなかったのだ。

しかしこれは別に甘えでもわがままでもなくファグとしての立派な役割だという大義名分を得た今、ルイスは戸惑いつつも自信を持ってシーツに包まれている。

帰ってきたアルバートはきっとベッドにいるルイスを見て驚くだろう。

そうして笑いながら許してくれれば、このまま一緒に眠ってくれるかもしれない。

とても優しい彼のこと、ルイスがこの部屋にいる理由を知れば追い出すようなことはしないはずだ。

そう信じられるほどには、ルイスはアルバートのことを信じきっていた。


「…このまま、喰べられてしまってもいいのに」


アルバートの顔を思い描きながら不意に出た言葉に、ルイスは驚いて体を上げる。

今、自分は何を言ったのだろうか。

あくまでも自分とアルバートは兄弟で、同じ人間に付いていこうと決めた同士だ。

どこまでも自分に対し優しく甘やかしてくれてはいるが、それはあくまでも兄としての親愛である。

自分もアルバートのことを兄として慕ってきたことに違いはない。

それなのに、今、自分は一体何を思って声を出したというのだろうか。


「…アルバート、兄様…」


どくり、と心臓が動く。

一音一音、全身へと重厚に響くその音にルイスは戸惑った。

この学園において同性愛は珍しくない、だから自分の身は自分で守らなければならないと、二人の兄に教わってきた。

けれどこんな感情については教わってこなかった。

ウィリアムもアルバートも教えてくれなかったのだから、ルイスが知らないのも無理はないのだ。

傷のある胸に手を当てて、冷えた夜には似合わない火照った頬にもう片手を押し当てる。

あぁ、僕はアルバート兄様に触れて欲しいんだ。

そう自覚してしまった瞬間、受け止めきれない甘い感情を覆い隠すようにルイスはシーツに包まり突っ伏した。

優しい兄をそんな目で見てしまった罪悪感がやりきれず、ふんわりとした甘い感情と同じくらいに重苦しくて苦い感情がルイスを襲う。

これが恋だとルイスは気付かない。

ウィリアムもアルバートも教えてくれなかったのだから、ルイスが気付くはずもないのだ。

だからルイス一人ではどうして良いか分からなくて、答えを教えてほしいばかりにアルバートと早く会いたいと願ってしまう。

早く会ってこの大きな感情のやりどころについて教えてほしい。

自分ともウィリアムとも違う色を持つ優しい瞳と視線を合わせ、全てを従えるような響きを持つのに穏やかなその声で名前を呼んでほしい。

そうして叶うならば、その手で自分に触れてほしいのだ。

ルイスは今すぐにでもアルバートが帰ってこないだろうかと扉を見つめるが、そこは少しも開く気配がなかった。


「兄様、早く帰ってきてください…兄様」


赤く染まった顔のままアルバートを想いながら声を出し、ルイスはまたもシーツに包まれた。

きっとアルバートならこの感情について教えてくれる。

世界で一番大切に思うウィリアムすらも認めた聡明な彼ならば絶対に知っているはずだ。

早くアルバートにこのふわふわした重苦しい感情の正体を教えてもらいたいと、ルイスは静かに丸まって愛しい兄の帰宅を待った。

そうして待って、待って、待ち続けて、気付いたときには寝入っていたらしい。

知らない間に閉じていた瞳を開けて前を見れば優しく自分を見つめる翡翠がすぐ近くにいて、驚きのあまりルイスはすぐさま体を上げた。

その勢いのまま、ルイスは勝手に部屋へ侵入した挙句に家主よりも先に寝ていたという無礼を詫びるのだった。




(…ルイス?寝ているのかい?)

(…すぅ)

(よく寝ている…何かあったんだろうか)

(ん、んん…)

(…ふ。まぁいいか。おやすみ、ルイス)


(…に、兄様…!)

(おはよう、ルイス。よく眠れたかい?)

(はい、とてもよく眠れました。…ではなくて!すみません兄様!勝手にベッドにお邪魔して、挙句寝てしまうだなんて!)

(構わないよ、気にしなくて良い。何か理由があるんだろう?)

(…そ、その…ファグはお付きの上級生のベッドを温める役目があると聞いて…兄様のベッドも冷たかったので、温めようと思い…)

(それで、つい眠ってしまったわけか)

(…すみませんでした)

(はは、気にしなくて良い。ありがとう、おかげで僕もよく眠れたよ)