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自由人 Gutch15 の気まぐれライフ from 横浜

#0043『Eye To Eye』 Eye To Eye

2019.12.07 20:30

新人デュオなのに参加ミュージシャンがすごすぎる。

 今朝はアイ・トゥ・アイのデビュー・アルバム『アイ・トゥ・アイ』を聴いています。ぼんやりしたグリーンのジャケットに EYE TO EYE の文字。これはデュオ・チームの名前でもあり、アルバムのタイトルでもあるんですね。そして右下にはなぜか赤い文字で あい・とう・あい の平仮名が! ひょっとして日本びいきなのか!?

 アイ・トゥ・アイは、シアトル出身のアメリカ人ヴォーカリスト Deborah Berg とイングランド出身のイギリス人ピアニスト Julian Marshall の2人組です。ジュリアン・マーシャルは1970年代に Marshall Hain という別デュオでのヒット曲があります。80年代に入ってヴォーカリストをデボラ・バーグに替えて、新たにデュオを組んだわけですね。

 このアルバムを見て「あっ!」と驚くのは、プロデューサーが Gary Katz だということでしょう! しかも、ゲイリー・カッツの方からアプローチしてプロデュースを買って出たというから驚きもひとしおです。そして彼の人脈である参加ミュージシャンの顔ぶれがすごい!

 Rick Derringer (g)、Donald Fagen (synth)、Jeff Porcaro (ds)、Chuck Rainey (b)、Timothy B. Schmit (backing vo)、Starz Vanderlocket (perc) と来たもんだ!

 さすがは Steely Dan の第三の男 とまで言われたゲイリー・カッツです。

 さて、ゲイリー・カッツとこれらのミュージシャンの名前を見れば、なんとなくウェストコースト・ロック風のサウンドかと予想してしまいますが、さにあらず。その予想は見事に裏切られるのです。全8曲ともメンバー2人のオリジナル曲で、ニューウェイヴ、シンセ・ポップ寄りからロック寄りまでありますが、すべての楽曲が不思議な作風で一つの世界にまとめられているのです。少なくとも単純な爽やかロックではないんだね。


Side-A
  1 Hunger Pains
  2 Life In Motion
  3 Nice Girls (1982 - 全米37位)
  4 More Hopless Knowledge


Side-B

  1 Progress Ahead

  2 Physical Attraction

  3 Time Flys

  4 On The Mend


 A面トップの「ハンガー・ペインズ」で聞こえてくるデボラ・バーグの高音ヴォーカルは摩訶不思議な雰囲気を漂わせます。音程は確かなんだけれども、どこか不安定な気がする声質。落ち着いたリズムに平坦なメロディの曲だけに、そのヴォーカルの特徴が目立ちます。後ろで出しゃばらないように配された Ruth Underwood のマリンバのアレンジも心憎いですね。

 「♪ 空腹が痛い、空腹が苦しい」と歌われるサビの歌詞はけっこうシュールです。

 A-2 「ライフ・イン・モーション」の狂騒的なリズムとキーボードのリフに驚いてはいけません。後になれば分かりますが、この速いテンポの後打ちリズムはアイ・トゥ・アイの基本的特徴と言っても良いのです。バックの主役はあくまでもジュリアン・マーシャルのキーボードで、他の楽器は決して目立つほど前には出てこないのですが、「音」に注目して聴くとやはりかなりの工夫があります。ここでは途中から入ってくる Elliot Randall のギター・ソロが良い味を出していますね。クールな味わいはスティーリー・ダン的でもあります。

 A-3 「ナイス・ガールズ」は彼らにとって唯一の、ビルボード・ホット100でトップ40入りしたヒット曲になります。「なんじゃ、このマイナー・グループは!」と思ったそこのあなた、ちゃんと全米37位のシングル・ヒットがあるんだからね!

 この曲はアルバムからのファースト・シングルで、基本となるミドル・テンポの「タカタカタッタ~、タカタカタッタ~」というリズムの繰り返しは、アイ・トゥ・アイの真骨頂です。しかし作者の片割れがイギリス人だけあって爽やかロックのアプローチにはなっていませんね。あれだけのミュージシャンを起用しながら、キーボード中心のニュー・ウェイヴ・サウンドになっているのに驚きます。

 「ナイス・ガールズ」はメロディラインが秀逸。途中で入る予想を裏切るコード進行や、サビで聞かれる高音のヴォーカルは素敵です。終盤のギター・ソロはまたまたエリオット・ランドールです。

 A面ラストの「モア・ホープレス・ナレッジ」でドラマーが Jim Keltner に交代しています。そのことと直接は関係ないかもしれませんが、この曲はフュージョン的なサウンドです。サビでテンポ・アウトするなどリスナーの目先を上手く変えてくれます。ここでも終盤のギター・ソロはエリオット・ランドール。

 レコードをひっくり返しB面のスタート。ドラマーがまたジェフ・ポーカロに戻って「プログレス・アヘッド」が始まります。曲調は一転、ハード・ロック的なベースのリフが中心のナンバーです。A面の楽曲に慣れた耳にはとても新鮮に響きますね。もしも Toto がこの曲を演っていても全然違和感はないと思います。

 B-2 「フィジカル・アトラクション」ではまたまた「ナイス・ガールズ」のような「アイ・トゥ・アイ・スタンダード」なリズムになります。途中途中でテンポに変化があって、メロディも明るくポップで楽しい曲ですね。私としてはAメロが終わってBメロに展開する部分で一気にエネルギーが弾けるのがとても好きです。

 B-3 「タイム・フライズ」のイントロのベースを聴くと、「えっ? バカラック?」と思ってしまうかもしれませんね。Aメロに入るところからは普通の「ETEスタンダード」になるんですけどね。サビのところで次第に音域が上がっていくところも上手いメロディ運びだなぁ。

 間奏部や終盤のキーボード・ソロも良いし、ティモシー・B・シュミットのバック・ヴォーカルも素敵です。こんな良い曲がシングルのB面で終わってしまったなんてモッタイナイ!

 アルバム・ラストを飾るのは「オン・ザ・メンド」です。ドラムスはまたジム・ケルトナーになりました。リック・デリンジャーはソロ・ギターに専念し、ドナルド・フェイゲンがシンセサイザー・ソロを弾いています。アルバム中唯一の「切ない系」「on the mend」っていう英語は「病気が治っている」とか「事態が好転している」とかいう意味です。「♪ 私たちの愛は on the mend なの?」と悲しげに歌っているんですね。

 フェイドアウトの部分で聞こえるシンセ・ソロは、まるでドナルド・フェイゲンが自分のソロ・アルバムで弾いているのかと勘違いしてしまうほどです。





 私がこのグループを知ったのは、アメリカン・トップ40で「ナイス・ガールズ」を聴いたときが初めてでした。それがなかったら一生聴かなかったでしょうから、ヒットチャートの番組って偉大だな(^^)

 当時は日本盤も出ていなかったので、私が持っているのはUS盤のLPレコードです。というわけであまり話題にもならなかったこのアルバムですが、信じられないことに、後に日本盤CDが出ました。99年にボーナス・トラックも無しで、収録時間36分弱のまま!

 私? もちろん買いましたよ(爆)






 時系列で考えると、この直後、このメンバーたちがそのままドナルド・フェイゲンの『The Nightfly』のレコーディングに突入したことになります。81年から82年にかけて、奇跡的なレコーディングが続いたんですね!