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明日を支配するもの 21世紀のマネジメント革命

2019.12.08 04:17

  ドラッカーさんの著書の紹介が続きますが、今回紹介するのは1999年に出版された「明日を支配するもの」です。本書は「日本の読者へ」というまえがきから始まります。著者(ドラッカー)は、「今日の『世界経済』を生み出したものは、経済大国『日本』の興隆である。」と考えていますが、(日本は現在転換期にあることを認め、)「(これからの日本にとって)必要なのは、これ以上の『均質性』ではなく、多様なモデル、多様な成功、多様な価値観である。」として、高齢化や少子化といった日本の転換期における新しい現実に独自の解決策を見出し、この転換期を乗り越え、再起することを期待しています。そして、そのためには、日本自身が、今日の世界と日本が直面している今まで前例のない問題を理解することが必要で、それらの問題を明らかにすることが本書の目的である、としています。

  そのため本書ではまず、戦後の経済成長から(経営の)前提となっていたものの見直し、再定義を行っています。最初が「マネジメント」についてです。(第1章「マネジメントの常識が変わる」) マネジメントのような社会科学において最も重要なことは、何を前提とするか、です。その前提条件によりマネジメントにおけるパラダイムも当然変わってくるからです。そこで著者は実務家や研究家がマネジメントに関し間違えている項目を7つ紹介しています。1、マネジメントとは企業のものであること。2、組織には唯一の正しい構造がある。3、人のマネジメントには唯一の正しいい方法がある。4、技術と市場とニーズはセットである。5、マネジメントの範囲は法的に規定される。6、マネジメントの対象は国境で制約される。7、マネジメントの世界は組織の内部にある。

  例えば、4、についてですが、一昔前では、ある特定の産業の中だけでメーカーは研究開発を行い、製品をつくりだし、消費者のニーズを満たしていたが、戦後、あらゆる最終需要は、その手段と分離をはじめ、今日では、ますます多くの最終用途が、多様な手段で充足されるようになっている、逆に考えると、メーカーも消費者のニーズ(製品)を満足させるためには、自らがもつ研究所が開発するものとは異質の技術、例えば、医薬品メーカーの場合は、遺伝子工学、微生物学、分子生物学、エレクトロニクスなど外の技術にも頼らざるを得なくなっている、と言います。

  次にドラッカーは「経営戦略の前提が変わる」(第二章)として、21世紀において経営戦略自体が前提とすべきもの、確実なものを5つ挙げています。

1、先進国における少子化。2、支出分配の変化。3、コーポレート・ガバナンスの変容。4、グローバル競争の激化。5、政治の論理との乖離。

  この中で私的には、「2、の支出分配の変化」というのが勉強になりました。ドラッカーは「人口構造の変化と同じように重要でありながら、経営戦略上ほとんど関心を払われない21世紀の現実として、支出分配の変化がある。21世紀ではこの支出分配の変化が大きな意味を持つ。(中略)これこそあらゆる情報の基本である。しかも、必要な情報の中ではむしろ手に入れやすいものである。なぜならば、支出分配は、一度落ち着くならば、長い間そのまま続くからである。一般的には好不況の影響さえ受けることがあまりない。しかがって、支出分配ほど、企業にとって重要なものはない。同じように重要なものが、同一内カテゴリー内での変化である。」(P58) として、20世紀において成長分野として次の4つの分野を挙げています。 1、政府 2、医療 3、教育、4、余暇。

  そして、このうち国民所得の30-50%を社会に再分配を行う「政府」が、支出分配の変化において大きな影響を与えた、といいます。今後(つまり21世紀に)この支出分配において大きな影響を与え得る新しい要因として「環境対策」を挙げています。また、余暇についてはすでに「成熟分野」であり、今後も「成長分野」であり続ける分野は「医療」と「教育」である、といいます。 「これら四大成長部門は、市場経済のものではない。経済学にいう需要と供給の法則に従わず、価格の影響も受けず、経済学のモデルの外にあって、経済学の理論に従わない。にもかかわらず、これら四つの部門は、先進国では、最も資本主義的な国においてさえ、GNPの半分以上を持っていく。したがって、企業をはじめあらゆる組織が、自らの経営戦略を考えるうえで真っ先に検討すべきものが、これら四つの部門における諸々の変化である。しかも今後数十年において、このいずれもが大きく変化することが確実である。」(P59、60)と話しています。(また、「支出分配の変化」のところでは、成長産業、成熟産業、衰退産業それぞれについて、「成長産業とは、需要の伸びが国民所得や人口の伸びを上回る産業。成熟産業とは、両者の伸びがほぼ同じ産業。衰退産業とは、前者が後者を下回る産業である。」(P61)と定義しています。)

  そして、第三章では「明日を変えるのは誰か」というタイトルで、チェンジリーダー(変化を機会としてとらえる者。変化を求め、機会とすべき変化を識別し、それらの変化を意味あるものとする者)になれる組織について説明しています。第1条件は、まず変化を可能にするため、もはや成果を上げられなくなったもの、貢献できなくなったものに投入している資源を引き上げる「体系的廃棄」、第2条件は、自らの製品、サービス、プロセス、マーケティング、アフターサービス、技術、教育訓練、情報のすべてについて「体系的、かつ継続的な改善」、第3条件は「成功の追求」、第4条件は「イノベーション」である、としています。

  最後の章は「自らをマネジメントする」(明日の生き方)というタイトルで、これからのマネジメントに必要なものとして、次の五つの項目を説明しています。 1、強みは何か、2、所を得る、3、果たすべきl貢献、4、関係にかかわる責任、5、第二の人生。 1、~4、については、著者が今までも他の本で言及していたもので、本書においては、それらを発展させて提示している感じですが。この章で面白いと思ったことは、「5、第二の人生」です。これは、著者が「マネジメント」を語る上で初めて言及したことです。具体的には、単に組織を変える(転職する)、パラレル・キャリア(第二の仕事)を持つ、そして、ソーシャル・プランナーになること(非営利団体の仕事をもつこと)と挙げています。「歴史上初めて、人間のほうが組織よりも長命になった。そこでまったく新しい問題が生まれた。第二の人生をどうするかである。もはや、30歳で就職した組織が、60歳になっても存続しているとは言い切れない。そのうえ、ほとんどの人間にとって、同じ仕事を続けるには、40年、50年は長すぎる。」(P224) (ただ、この「第二の人生」に関しては、本書よりむしろ「ライフシフト」なんかを読んだ方がより現代的だと思ますが。)

  また、本書において、現代の「情報革命」についても言及している章(第四章「情報が仕事を変える」(新情報革命)があります。これについては、実は現代の情報革命のような技術革新は、人類の歴史上すでに前例があり、それは、グーテンベルクが活版印刷を発明したのに端を発する印刷本の生産(印刷革命)です。そして、「今後、10年、20年を待つまでもなく印刷メディアと流通チャンネルは一体となり、その時は、IT主導ではなく、会計士や出版人主導の本当の情報革命が起こる。」と考え、その時こそ、組織としても、個人としても、あらゆる者が、自らの必要とする情報が何であり、いかにしてそれを手に入れるべきかを考えなければならなくなる、と話します。(P126) また、組織が必要とする情報については「コスト管理」に言及し、「活動基準原価計算(アクティビティ・ベイスト・コスティング - ABC原価計算)」を紹介し、そこから「経済連鎖全体のコスト管理」や「価格主導のコスト管理」(その管理方法について必要な情報の種類)について説明しています。

  最後は「日本の官僚制を理解するならば」という附章を設け、「アメリカの対日政策は官僚が指導層であり続けるとの前提のもとに組みたてたほうが現実的。」「日本にとっての優先順位を知ることが、日本の官僚がいかに行動するかを理解する上で必要。」「日本は歴史的に見て経済問題より社会問題を優先する。」等日本の官僚制について考察を行っています。

(*)ドラッカー氏には、本書のように、近い将来において起こり得る変化について、その諸問題を提起しているものに2002年出版の「ネクスト・ソサエティ」があります。こちらはドラッカー氏が以前、雑誌に発表した論文や、インタビューを集めたものでが、私的にはこちらの方も(が)、日本の農業とか製造業とかに言及している箇所があったり、最近のデービット・アトキンソンさんの著書と重なる部分があったり、とても興味深かったです。