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じいさんのグルーヴ/小坂逸雄

2017.01.13 09:35

お風呂から出たら、大家さんが玄関で座っていた。今年最後の収穫になるだろうと言ってシイタケを持ってきてくれたのだった。いつもなかなかの量をいただくので、食べきれない分はすぐに干しているのだが、どうやら大家さんはそれがあまり好きではないらしく、ジクを取ってビニール袋に入れて冷蔵庫で保存しろ、と強く勧めてくる。そうか、わかったよ、ありがとうね、と、いつも話が長くなるので切り上げようとしたのだが、じいさんは別の用件があると言って部屋にあがりこんできた。

ストーブの前に座り込むと、左腕が上がらないのだと訴えてきた。前にも聞いたことがある話なのだが、それを言ってしまうのはなんだか残酷なのでいつも聞くようにしている。そしてこの話はたいていの場合「重い物を運んで欲しい」というリクエストの枕なのだ。さて今回はどんな用件なのか。その日は腕の話から、かつて患った病気と今日まで続く薬の服用、病院で取った心電図の話が主題になっていた。どれもかつて聞いたことがある話だけども、決して大げさに脚色されることのない内容は、じいさんの人柄を感じたりもする。たまに聞いたことのない小話が追加されることもあって、その日はとある病院の事務員と看護婦の人数についての考察が挿入された。オチは処方された薬を勘違いして飲みすぎてしまったというもの。なにがおかしいのか、けっして爆笑できないのだけどボクはこのじいさん落語がけっこう好きだったりする。放っておくとそのオチから薬の副作用についての話に進んでしまうので、すかさず用件は何なのかと聞くと、今度の日曜日に行われる“とんど”で燃やすものを一緒に運んで欲しいと言うのだった(やっぱり)。

お手伝いをするそのときは“とんど”か祭事ネタの小話をしてくれることを密かに期待している。




小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。