参加費無料の衝撃! 「大人の自動車教習所2.0」は若者のクルマ観に変革をもたらすか?
11月29日、静岡県御殿場市の富士スピ―ドウェイP7駐車場で「大人の自動車教習所2.0」プレス向け発表会が行われた。このイベントは“究極の安全運転”をテーマに2020年1月から一般開催されるもの。プロレーシングドライバーの指導のもと、クローズドコースで急加速や急ブレーキ、急ハンドルといった自動車の限界走行を体感し、安全運転技術の向上につなげようという試みだ。 主催するのはアネスト岩田 ターンパイク箱根の大観山スカイラウンジ内にギャラリースペース「HC GALLERY」を運営する株式会社TAKE FRONTIER。講師はル・マン24時間レースや世界選手権WECなどにも参戦経験のあるレーシングドライバー、澤 圭太氏と若手レーシングドライバーとして海外レースにも参戦中の山田 遼氏が務める。
大人の自動車教習所2.0を主催するTAKE FRONTIER代表取締役 佐野順平 氏
インストラクターを務めた澤 圭太 氏。公式戦200戦以上出場というベテランレーシングドライバーであり、ドライビングレッスンなどを行う団体「ワンスマ」も主宰する。論理的で分かりやすい講義にただただ感心してしまった。
若手レーシングドライバーの山田 遼 氏。若干23歳ながらレース活動と共に自身のドライビングスクールも主宰している。
「我々は若い人にもっとクルマ好きになってもらいたいという思いから『大人の教習所2.0』を始めることにしました。自動車を移動手段として安全に運用するための技術を学び、免許を取得する場所が1.0。つまり普通の自動車教習所です。それに対し、我々が提供したいのは運転を楽しむための技術を学び、それを安全運転に活かすための場所です。先日行ったリハーサルでは千葉県警の方にもご参加いただきましたが『ぜひこのプログラムを教習所を卒業して自動車免許を取得した全員に体験してもらいたい』と言っていただけました。現在の教習所では思いっきりブレーキをかけることすらしません。一度ABSを作動させるだけで課程は終了です。大人の自動車教習所2.0では1日で何十回、何百回と急ブレーキを踏む経験をする訳ですが、そうすると本当に急ブレーキをかけなければいけない局面でしっかりと対応できるようになるんですね。『危ない』と思って急ブレーキをかけたものの、車の挙動に驚いてブレーキをリリースし、結局ぶつかってしまう。こういう事故のケースも多いんです」(TAKE FRONTIER代表取締役 佐野順平 氏)
ここまではよくあるドライビングスクールとさほど変わらないが、大人の自動車教習所2.0の特異なところは参加対象が21歳~33歳限定であることと、参加費が無料であることだ。
「こういったプログラムはマシンへの負担が大きいこともあり、無料で行うという団体はこれまでなかったと思います。どうしても高額な参加費がかかってしまうため、若い子は中々参加できないんですね。現在はクルマ離れと言われておりますが、ではクルマ好きが減ったのかと言えばそうではないと思うんです。グランツーリスモを始めとするドライビングゲームやクルマを題材にした漫画は現在も若者に大人気ですし、ファンも多い。そういう彼らに本気でクルマを楽しんでもらえる機会を与えたるために、まずは1年間、無料でこのプログラムを提供したいと考えています」(佐野順平 氏)
この日、参加者が走らせるために用意された4台のマシン。FFとFRのライトウェイトスポーツカーだ。もっとも日頃、2スト550㏄のジムニーを転がしている筆者からすると、どれもスーパーカー並みの加速に感じられた。
よく自動車雑誌などでは「車」と「クルマ」と表記を使い分けることでニュアンスを変える。前者は移動手段としての自動車を意味し、後者は趣味や愛好の対象としの自動車という意味がある。昨今、カーシェアリングの発達により、ますます車はただの移動手段と捉えられがちだ。大人の自動車教習所2.0はドライビングの真の楽しさを知ることで車に対する好奇心や愛情を育み、車をクルマへと昇華させようという取り組みという訳なのだ。 この日、用意された車両は「VW ゴルフGT」 「アバルト124スパイダー」「スバル BRZ」「スズキ・スイフトスポーツMONSTER COMPLETE II」の4台。参加者全員がすべての車両に乗って走行テストを行う。
走行前に澤 氏による講義があったのだが、これがとても説得力のあるものだった。
曰く、上手なドライビングというのは目的から逆算をして、経験や記憶、技術などを鑑みながら最適なプロセスを構築していくことだという。これは会社で大きなプロジェクトを成就させるのと基本的には同じことであり、仕事ができる人間はドライビングの上達も早いという。
山田 氏によるデモ走行。コーナリング中は小さなスキール音が一定の音量で鳴る。タイヤのグリップを最大限に活かしている証だという。
講義を終えたらいよいよ実践である。 パイロンを置いて作られたショートオーバルコースでフル加速とフルブレーキ、旋回しながらのフルブレーキを体験した。駆動方式による挙動の違いや、アンダーステアやオーバーステアを身体で体感できる……はずなのだが、私はヘルメットを装着してドライビングシートに座ったことすらないド素人である。ひとたび走り始めると興奮のあまり頭の中は真っ白。先の講義の内容などすっかり忘れ、いつしかタイヤをギャンギャンと鳴かせて遮二無二に周回することに没頭していた。
走行終了後、インストラクターの山田 氏から「ちょっとコーナリングが荒っぽいですね。タイヤのグリップが限界を超えないようコーナーの曲がり具合に合わせて最小限にハンドルを切るようにしてください」とアドバイス。 何でも、コーナリング時に「キュー」と小さく長く安定してスキール音が鳴るのが理想的とのこと。つまり、私のようにタイヤをギャンギャン鳴かすのはヘタであることを周囲にアピールしているようなものだった。まったくお恥ずかしい限りである。
ちなみにこの山田 氏は何と若干23歳。大勢のメディアの人間を前にしても、じつに堂々としたもの。大人の自動車教習所2.0ではクルマの楽しさに加えて、頭脳明晰かつ、常に冷静沈着でいられる鋼のメンタルをもったレーシングドライバーのカッコ良さにも大きな感銘を受けることになる。
午後には澤氏によるポルシェ911GT3RSによるアトラクション走行も行われた。助手席に乗っていると横Gと縦Gに耐えるだけで一杯一杯で、何が何だか分からないうちにあっという間に既定の周回数が終わった。月並みな感想だが、やっぱりレーシングドライバーの運転技術は人間離れしている。
午後は路面をウェットコンディションにして走行体験。コースもハート型に変更され、S字や途中で曲率が変化する複合コーナーになるなど、より進んだテクニックが求められる。しかし、周回を重ねていくと僅かながらクルマの挙動……クルマの「声」が感じ取れるようになってくる。それを手足の動きにすぐにフィードバックするのは難しいが、少なくともこれまでの運転から一歩進んだ気がする。僅かながらクルマで「スポーツ」する実感がある。やはり私のような素人は技術云々以前にまず体験、まず場数である。
確かに一度でもこういう場でドライビングの奥深さに触れれば、どんな状況であっても漫然と運転をすることはなくなるだろう。常に考えながら、常に感じながら運転するようになるし、良いクルマ・悪いクルマを見極める審美眼も自ずから身に付くはず。そうやって手に入れた愛車で無謀な運転をするだろうか? 他者を煽る運転をするだろうか? きっとしないはずだ。
クルマを上手に操ること、クルマを好きになること、そしてクルマを安全に運転することは地続きなのである。
それにしても参加費無料のインパクトは凄い。ひょっとするとこのイベントを通じて若者のクルマに対する意識を調査したいという思惑もあるのかもしれないが、いずれにしても潜在的なクルマ好きにとっては空前絶後においしいイベントである。ぜひ大勢の若者に応募してもらいたいし、ぜひ本サイトでも続報をお届けしたい。
(文/佐藤旅宇 写真/佐藤旅宇、大人の自動車教習所2.0)
「大人の自動車教習所2.0」の参加方法について
【開催場所】 富士スピードウェイ P2 駐車場 〒410-1307 静岡県駿東郡小山町中日向694 【対象年齢】 21歳~33歳 【募集人数】 各回16名 【参加費】 無料(車両も無料で用意)
【応募方法】
自身のSNSアカウントから、 HC GALLERY公式アカウント(Twitter:@gallery_HC/Facebook:@halcagal/Instagram:@ halcagal)宛てに、#大人の自動車教習所2.0を付けてダイレクトメッセージを送れば応募完了。返信をもって当選となる。
【開催予定】 ※年間で全6回の開催を予定
第1回 2020年1月26日(日)8:15~16:00 (参加者抽選予定日:1月8日)
第2回 2020年2月29日(土)8:15~16:00 (参加者抽選予定日:2月10日)
第3回 未定(2020年4月予定)
第4回 未定(2020年5月予定)
第5回 未定(2020年10月予定)
第6回 未定(2020年11月予定)