1番は私。 ⑥ 私はわたし。
中学2年の夏休みははじけていた。
部活が終わると、
近くの川沿いの小さな湖で
体育服のまま泳ぎ
その格好で帰ってきたりした。
どこの田舎の中学生だよって
言いたくなるくらい
野生児だった女子4人。
とっても楽しい夏休みの後の
実力テストは
凄まじかった。
次女は勉強嫌いなんだろうな、
と思っていた。
が、中学2年の3学期。
厳しいと有名な塾に行くと言い出した。
宿題をしていないと
居残りさせることで有名だった、
学校の宿題すらしないのに、
無理でしょう、と笑った。
「いや、今度こそちゃんとやるから。」
既に2回、塾を辞めていた。
入塾に試験まである。
なんとか合格したものの
宿題をしていく習慣がつくまで
3学期いっぱいかかった。
毎回居残りをして、
迎えに行くのは11時近くだった。
熟の送迎を友達のお母さんと交互に
することにしていた。
送迎の車の中の会話に呆れていた。
「英語の単語ってさ、読めないよねー」
「それな。読み方わかんないの
いっぱいあって困る。
あれ、なんだっけ。
おじさんとかいう意味の、
ン、ン、ンクル?」
うそ。中1の単語じゃ。
運転しながら口を出す。
「アンクル」
「えーー。あれそうなん?
ンクルかと思ったー。ギャハハ」
「ウチもそう思ってたー。
うんこかって。ギャハハ」
「あとあれも。dから始まるやつで
娘とかいうの。あれ読めない。」
はぁ〜〜〜。
「ドォーターね。」
「マジ⁉️なんでgとかhでそうなる?」
なんで、と言われても。
「あと レ、レ、レイズ?」
「ライズね。」
「それ意味がわかんね。」
「Rising Sunて、EXILEが歌ってるじゃん!」
「えー、それって?」
「ライズの進行形で、日がまた昇るって意味」
「マジ〜。あれって太陽昇るって歌?
ギャハハ。ずっと太陽のぼる、のぼるって
言ってんのー。
マジうける。」
こっちがマジうけです。
これで4月から中学生3年生。
2年間、遊び倒すとこうなるのかって
青くなる。
これからで、間に合うのか不安だけれど
勉強する気になっただけでも
良かった。
3年生になって部活をしながら
塾に通った。
中体連に向けて
テニスの実力に差が開いていく。
試合にも出るが
いつもあっという間にに応援部隊になる。
最後の中体連では
その応援がすごかった。
次女が最初に声をあげる。
みんなが後に続く。
声かけ、拍手
リズムよく応援が続く。
ベスト8を目指す試合に残る
選手のお母さんが言われた。
「練習試合も当番でなくても
見にきてるんだけど、
いつも◯◯ちゃんが、
すごく応援してくれるの。
先に声を出してみんなを
引っ張って。
あの大きな声にいつも胸が熱くなる。」
部活では活躍しなかったけれど、
先輩の応援もせずに散歩してた次女も
いつのまにかチームワークを大事にして
ここぞって時に精一杯
自分の役割を果たしていたんだと
思うと嬉しかった。
最後の試合には負けたけど、
「応援は1番だったね!」
お母さんたちが口々に言う。
大事な仲間たちと
心を一つにした中体連が終わった。
夏休みが始ると
あなたはどなた?
と、声をかけたくなるくらい
次女が勉強を始めた。
志望校を決める以前に
成績の底上げが必要だった。
夏季講習の時間が過ぎても
残って自習する。
みんながオープンキャンパスに行っても
「塾の先生が見るより勉強しろって」
と、そのまま鵜呑みにして
高校も見に行かなかった。
夏休み始めの模試で
ここなら行けるかな?と
書いた志望校もD判定だった。
1日8時間以上の時間を
塾で勉強するようになった。
6日間ぶっ続けで勉強すると
塾の休日はいつもの友達と息抜きをする。
そしてまた6日日間勉強する。
夏休みがあっという間に終わる。
そんな集中力、
どこに隠していたんですか?
と聞きたくなる。
勉強の要領は悪かった。
ただわかるまで何度も繰り返す
粘り強さがあった。
夏休みを終えての実力テストは
努力した分伸びていた。
学校からそのまま塾に行って
10時過ぎまで戻らない。
夕方に塾弁を届けた。
中体連で最後まで応援した友達が
学校の休み時間に
数学を教えてくれた。
秋も深まる頃には最初に書いた
志望校がB判定になっていた。
でも本心はもう1つ上の
高校に行きたかった。
でも志望校を決める最後の
模試の頃には
みんなも頑張っていたから
とても届かなかった。
頑張り過ぎて疲れも出ていた。
「どこの高校に行けばいいか
わからない」
年が明けて、本当の志望校に
届かないとわかったら
泣きながら、そう言った。
オープンキャンパスにも
行かなかったから
高校の雰囲気も距離も
わからなかった。
悩み過ぎて頭が痛くて
学校に行けなかった日に
行きたかった、
行けそうな、
行ってもいいかな、
の3つの高校を回った。
学校や周りの雰囲気や
寄り道できそうな場所、
家からの距離。
本当に行きたかった高校では
涙がでた。
「もっと早くに
勉強すればよかった」
でも、
イメージは掴めた。
通学の距離も考えて、
今、1番確実な高校に決めた。
心が決まったら
また頑張れた。
塾の休みの日には
「高校生の自習室を使っていいよ」
塾の先生が許可してくれた。
8月から3月までの半年間、
季節を感じる間もなく
駆け抜けた。
一等になれなかったかけっこも
チャレンジできなかった水泳大会も
上達しなかったテニスも
何もかも飛び越えるくらいの
競走を
自分に課して
自分を超えてきた。
1人で頑張った。
けれどみんなが応援してくれた。
校舎の壁に貼り出された
合格者の受験番号に
次女の番号が確かに
書かれていた。
飛び上がって喜ぶ次女が
一瞬、テレビのニュースで
映し出された。
ほら、わたし
がんばったよ。
がんばれたよ。
いちばん素敵な笑顔だった。