13/07/30
2019.12.12 22:09
雨が降る。
「 」ちいさな声でそう言ったのをきっかけに、そのひとは泣きだした。手を伸ばして、抱きしめることができたなら。少しは優しかったのかもしれない。そして、そのひともそう望んでいたのかもしれない。けれどあたしにはできなかった。心の奥底では許してほしいと、思っていたのに。
針が皮膚を裂いていく。数時間前までは紙の上で眺めていたそれがあたしの肩に刻み込まれ、一体になったはずだった。「きれいにできた」彫り師の男がそう言って微笑む。
鏡越しに見たとき、なにかの生き物だ、と思った。
それは針をつかい皮膚を裂き血を出し、黒いインクで身体に刻み込まれたものではなかった。蓄積されすべてを蝕み、心が焼け落ちた、痛みそのものだった。
雨脚は強くなるばかりで、一向にやむ気配はなかった。そのひとはもう生きていられないとでも言うように泣きじゃくり、あたしの無力なこの腕にすがりつく。なにを望むでもない、ただ、変えられないものへの絶望だった。
「なにも忘れないよ」震える声で、そう言った。
やがてそのひとはあたしだったことに、気づく。