3歳まで様子を見る必要はない
日々発達相談をしていると、こういうケースによく出会います。
「1歳半健診で言葉の遅れを相談したけれど、『3歳まで様子を見て』、と言われた」
「すぐに療育や専門機関を紹介してほしかったけど、『3歳になってから』と言われて、不安な日々を過ごした」
発達相談室つばさでは、
「様子を見る」のではなく、今必要な支援や関わり方を考え、具体的なプランを提供していける存在でありたい、そう考え、日々の相談に乗っています。
以下、事例をお読みください。
初めての子育て、身近に小さい子もおらず、子どもと関わった経験もあまりない
Aさんはお子さんの子育てに漠然とした悩みを抱えていました。それは、言葉がなかなか出てこず、要求を伝えてくることもあまりなく、いい意味でも悪い意味でも”手がかからない”我が子についてです。
周囲からは「男の子はそんなもの」「そのうち言葉も出て来る」「母親の愛情が大事」などと言われますが、Aさんの漠然とした不安は消えず、余計に周囲に相談できなくなっていくのでした。
Aさんは1歳半健診の時に、思い切って保健師さんに相談をしました。
健診では積木は3個積んだものの、絵カードによる指差しは出来ず、母親の後ろにじっと隠れていました。
保健師さんに言葉がなかなか出てこないことを話し、後日個別に相談をすることになりました。
そこでは、少し言葉の遅れがあるものの、まだ小さいし、しばらく様子を見てみましょう、ということでした。
Aさんは”そんなものなのかな…”と、まだ不安を抱えたままでしたが、保健師さんがそういうなら…と待つことにしました。
しかし、2歳になっても意味のある言葉は出てこず、それまではあまりなかったかんしゃくが激しくなり、子育てにも疲労の色が濃くなってきました。
子どもがかんしゃくを起こすので周囲の目を気にして外出をするのも苦痛になり、周囲にも相談できず、ひきこもり、子どもにあたることも増えてきました。
たまらず2歳半健診で再び保健師さんに相談し、「3歳になったら医療機関を受診してください」と言われ、3歳の誕生日後すぐに受診が出来るように予約を取りました。
しかし、それもまだ半年後の事(大きな医療機関では初診まで何か月も待つことがざらです)。
我が子にどう対応していいのかわからず、このままでは幼稚園に就園できるのか、もしかして母子このままずっと家にいる日々が続くのかと、精神的にも不調をきたすようになりました。
このように、子どもの発達について漠然と、しかし確実にひっかかるところがありつつも、早期に適切な専門機関に繋がる事の出来ないケースは多々あります。
発達に明確な遅れがない場合に特に多く、”一般的な発達”を知らない第一子を育てるお母さん達は、不安を抱えながらも”こんなものかな…”と時を過ごし、周囲からの安易な「大丈夫」や「愛情が大切」という言葉に傷つくことも多いのです。
発達の遅れが顕著であっても、こういうケースもあります。
Bさんは1歳過ぎから子どもの言葉の発達が遅いこと、夜中の睡眠が安定せず、かんしゃくが多いこと、こだわりや過敏(少し手や口が汚れただけで嫌がる。日常生活の音に敏感に反応して泣く、など)が強く、育てづらさを感じていました。
保健師さんに相談し、市の療育に通い始めましたが、子どもの様子は一向に変わりません。
自分で医療機関を探し、2歳を過ぎる頃に初めて受診しました。
簡単な問診の後、発達検査を取り、1年の遅れがあると言われました。
ショックではなく、むしろ「やっぱり」と思ったそうです。
しかし、医師からは「半年後にまた来てください」と言われただけで、特にどうすればいいのかという説明はありませんでした。
「何か出来ることはありませんか?」と聞くと
「母親との愛着が育っているから大丈夫。子どもの気持ちを代弁してあげて」と言われました。
それはその通りかもしれないけれど、日々の子育ての苦労は一向に減りませんでした。
Bさんは自分の子どもが自閉症ではないかと思っていましたが、医師からは明確な診断はなく、「3歳になってから」と言われました。
自分で民間の療育機関を探し、通いだしましたが、子どもと楽しく遊んでくれるのはいいものの、Bさんの疑問や質問には明確な答えは返ってこず、”このままでいいのかな…”と不安が募っていきました。
3歳になり、自閉症の診断がおり、病院の言語訓練や作業療法に通いだせるようになりました。
Bさんは「もっと早く診断がおりていれば、早くから子どもに適切な療育や対応が出来たのに…」と悔しい思いをされたそうです。
悲しいことに、現在の日本の小児保健医療はより早期の段階で子どもの発達を見極め、適切な関わり方、支援方法、支援(医療・療育)機関を紹介することが十分に出来ていません。
「様子を見ましょう」というのは今特に出来ることや助言できることがない時に、とりあえず保険のように言う言葉です。
仮に様子を見ることにしても、何をいつまで観察し、どういう結果だったら次にどういう手を打つのか、ということまでを提言するのが専門家の務めです。
そうでなければ親御さんをただ不安にするばかりです。
医療機関であっても、乳幼児期に適切なアセスメントをし、子どもとそのご家族に何が必要か判断できるところはごく少数なのが現状です。
診断と投薬は医師の仕事ですが、子育てに関する具体的な関わり方や子どもの導き方については基本的に医師は専門外です(もちろん、ごく一部にそういう丁寧な診察をされている医師もいらっしゃいます)。
それが可能なのは心理士、言語聴覚士、作業療法士などの専門職です。
しかし、そういった専門職が常駐し、親御さんからの継続的な相談に乗れる体制が整っている病院は限られるのです。
診断が必ずしも必要なのではありません。
診断がおりていようがいまいが、障害があろうがなかろうが、
大切なのは、今、どのような関わり方が子どもにとって必要なのか、です。
各家庭に応じた、子どもの発達を促すための手立て、
問題行動を解決するための手立ては、より早期に、より早い段階で手を打てば、効果も上がりやすく、解決が簡単になります。
「様子を見る」のではなく、今必要な支援や関わり方を考え、具体的なプランを提供していける存在でありたい。
発達相談室つばさはそういう療育機関、相談機関でありたいと思っています。