大家の爺さんのシイタケづくりを手伝う その3/小坂逸雄
ご存知のことと思うけど、シイタケは菌を原木に埋め込んで栽培をする。菌というのは原木に開けた穴に埋め込む耳栓のような形をしたアレだが、埋め込む作業は見たこともやったこともなかった。その日はその菌を植え付ける作業だったのだが、実はボクは菌全般の取り扱いに対して完璧に心を閉ざしていて、例えば大豆を納豆に、牛乳をチーズにしてしまうほどのパワーを持つ菌を畏怖している。納豆もチーズも、もちろんシイタケも製品になってしまえばなんとも感じないし、むしろ大好き。菌ってすごいね!とすら思うけど、仕事中の菌の姿は見てはいけないものだと思っている。恩返しに来た機織り娘の部屋を勝手に開けてはいけないのだ。
そういうわけなので菌の植え付け作業は、声をかけられてからというもの精神的なストレスを感じていて、正直、菌に触れなきゃいけない作業のことを考えたりせず、むしろ「たのしみだなー」とか言いながら現実を直視しないようにしていた。シイタケの菌なんて手で触れてしまっても大丈夫なのか?その手で髪の毛を洗っても頭からシイタケは生えてこないのか?あ、軍手をして作業したら大丈夫なのか?いやいや、軍手にシイタケが生えてきたら家中シイタケ菌だらけになるじゃないか。菌、菌、菌!気が狂いそうだ。
さて、作業自体は怯えながらも淡々と短時間で済んだのだった。天気のいい日中だったから大丈夫だろう(勝手に菌は夜行性だと思っている)と言い訳しながら軍手を身体のどこにも触れないように片付けて帰宅し、作業着はすぐに洗濯機へと放り込んだ。が、しまった!洗濯機に菌が!菌に水分を与えるなんて自爆行為じゃないか!などと、そんな考えがいちいち頭から離れずとても疲れた一日になってしまった。
ちなみにこの日打ち込んだ菌がシイタケになるのは一年後だそうです。
ここからさらにハンマーでたたき込む(恐怖に打ち勝つがごとく)
小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。