そのナポリタンにのって/小坂逸雄
ナポリタンという料理が気になってから久しい。特に思い出があるわけでもなく味もとくに興味がないけど、ナポリタンという言葉の響きにはディズニーランドや天空の城がかもす趣きと同じものを感じていた。想いは募り、ついに先日小豆島では良く知られたナポリタンが食べられる喫茶店へと足を運んだ。
お店は海が見渡せる建物の二階で、気分はまるで地中海。ナポリタンを食べるには最高のロケーションだ。メニュー表にはたしか「イタリアン」と書かれていたけど、これこそがボクが思い描いていたナポリタンがナポリタンたる証拠だと確信した。そう、ナポリタンは概念なのだ。たとえイタリアンと言ってもその概念は説明がつく。
きっとその昔、イタリアではスパゲッティ(あるいはパスタ)という汁の無い麺が食されているらしい、とか、イタリアという国で汁のない麺を食べた、という話を聞いた誰か、あるいは実際に食べた誰かが、トマト、肉、ピーマン、玉葱などという大ざっぱな情報から推察してつくったのがこの料理であって、庶民は異国への憧れや海外の料理を食べるというステータスをこの料理を通じて実現することができたのだ。他国の料理を勝手に解釈し、これこそがイタリア料理であるという確信を持ってつくったものが完全なるオリジナルの料理になったという事実はクリエイションの域を超えて、もはやファンタジーだろう。だって、ある国の料理をつくったはずなのに、それがどこの国の料理でもなかったというのであれば、その国も料理も実在していないし、存在していないということはファンタジーを引き合いにしなければ説明ができない。ナポリタンは空想のナポリという国の料理なのだ。
この説から強引に話を繋げると「その船にのって」の指す「船」はこのナポリタン説で説明がつくと思うんだけど、くだらないので細かく説明するのは控えておく。でも、わりと本気でいつかこの船でナポリにも行ってみたいと思ったりしている。
料理の姿はご想像にお任せします(ファンタジーだからね)
小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。