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砕け散ったプライドを拾い集めて

ムーンリバー

2019.12.15 14:20

1995年の春。ロスアンジェルス・フィルハーモニック交響楽団のディレクターから誘われて、ヘンリー・マンシーニ(1924年4月16日ー1994年6月14日)の“誕生日パーティ”に参加した。とは言っても、彼自身は前年に逝去しているので、亡くなった後でも誕生日を祝って故人を偲ぼうという粋な趣向なわけだ。 同伴は妻と娘の3人。



ヘンリー・マンシーニとは映画音楽で有名になった作曲家で、特に映画『ティファニーで朝食を』でヘップバーンが歌った『ムーンリバー』はスタンダードとなっている。このセイで、NYの五番街にある「ティファニー」へ行き、レストランは何階なの?という間抜けな質問をして、チェッ!またお上りさんか……という顔をされた。ここはアクセサリーの専門店なんだよ。

(「ベルエア・ホテル」↑)


だが、4月16日の誕生パーティはカリフォルニア州のベルエア……まあ、言ってみればベバリーヒルズの奥座敷という位置づけ……で開催された。ここ一帯は有名な「ベルエア・ホテル」が林の中に隠れるようにあり、付近には豪壮な邸宅ばかりが点々とある。 そのうちの誰かさんの邸宅を借りてパーティをやるという。……このようなパーティを、ホテルのバンケットとかレストランを借りてやるというのはもちろんあるのだが、これらは“オシャレじゃない”というランキングになっていて、美術館や博物館の施設を借用してやる方が上位にランクされ、まあ、最上位のランクはプライベートな邸宅を使ってやるものになっているようだ。
この邸宅の広い庭に大きなテント小屋を建て(これだけでも、日本人は腰を抜かす。なんたって、庭に小型のサーカス小屋のようなものを設営するんだから……)、そこへ30〜40人のバンドを入れ、指揮者を入れ、歌手を入れ、100人以上の客席もしつらえてある。出席者には一人づつ歌詞カードを渡されてマンシーニの歌を歌わなきゃならないが、私は一つも歌えない。バンドのすぐ前にいる未亡人には大変に申し訳ない気持ち。

料理はその邸宅のキッチンを使ってサーブしてくれるのだが、これがなんとアイランド・キチンも数えればたっぷり3セット分もあり、トータル30畳くらいの広さにもなる。そこへどこかの有名レストランのシェフが3人出張ってきていて、腕を振るってくれている。 出来たばかりの料理を皿に山盛りにして、書斎……というよりライブラリーへ行く。これが小さな町の図書館より大きい。蔵書の数もハンパない。恐ろしく高い天井もまで本棚があるので、移動式の梯子がついていてその高みまでよじ登っていける。足元には幾つかのテーブルと椅子があるので、そこで談笑しながら料理を頂くわけだ。

 折しもタイミングよく綺麗な月。お開きの前に、皆で『ムーン・リバー』を歌おうと司会者がアジっている。歌詞カードを頼りに、ビッグバンドで歌う。


両脇に妻と娘がいて……

♬あなたが何処に流れて行こうとも、私はついて行くわ…♬ 

っていうのもね……?!

ベルエア(美しき大気)の夜も随分更けた。
基本、砂漠の気候だから、ぐ〜んと冷えてきた。