ONE

症例.小児の外感病

2019.12.15 16:25

☑患者 小1の娘。

☑主訴 喉が痛い、しんどい、発熱。

☑現病歴 夜になって喉が痛いと泣き出す娘。顔が熱いので検温すると38度。悪寒はない。

☑起こし鍼 神童てい鍼。

☑脉状診 浮、数、虚。

☑切経 頭は熱いのに手足は冷たい(厥)。

☑経絡腹診 腎肺虚、脾心実、肝平。

☑比較脉診 腎肺虚、脾心実、肝平。

☑証決定 腎虚証。

☑適応側の判定 病症に偏りなく女児だから右が有力だが、天枢診でも確認すると右天枢に労宮を置いた方が脉、皮膚の艶ともに良くなるので右で間違いない。

☑本治法 イトウメディカル社製中野てい鍼小里モデルの尻尾の方を右復溜に当て五行程補う。

→脉が充実する。

☑標治法 

✅高熱に対して両手に水掻きの鍼。

✅全身に気を巡らせるように小児はり。

☑補助療法 咽喉痛に対して子午治療。人迎を押さえると左の方が圧痛が強いので、反対側の右蠡溝を補う。

→喉の痛みが和らぐ。

止め灸として無熱灸14壮して金粒を貼付。

☑止め&セーブ鍼 左後谿にてい鍼の頭の方でチョコン。


※水かきの鍼のやり方は以下の動画をご覧下さい。

子午治療簡便表

宮脇優輝先生考案無熱灸のやり方

☑経過 治療後、手足が温まる。テレビを見て笑えるようになる。

治療2回目 翌朝

☑経過 朝は少ししんどそう。妻曰く夕べは寝ては起き寝ては起きだったとのこと。また熱がっていた。

咽喉痛はマシ、食欲がない、しんどさが辛い。体温は37度5部。手足は昨夜ほど冷たくはない。

☑脉状 浮、数、やや虚。

☑治療 同じ。

治療すると声にはりが出る。

治療3回目 お昼休み

☑経過 妻が午前中に小学校を休ませて小児科へ連れていく。

診察結果はA群溶連菌性咽頭炎。

インフルエンザじゃなくて一先ずは安心。

のどが痛い、しんどい。体温は38度。やはり悪寒なく熱がる。

☑脉状 浮、数やや実。

☑治療 本治法の選穴を湧泉に変えて、あとは同じ。治療するとやはり少し元気になる。

治療4回目 夜帰宅後

☑経過 昼から少し食欲が出てきたので肉まんを半分食べる。

その後吐く。

しばらくしてみかんを食べる。

夕方から元気になってきて座ってテレビを見れるようになる。

のどの痛み、頭の後ろと横の間ら辺が痛いとのこと。

ようやくしんどさもない。


☑脉状診 浮、数、実。

☑切経 体も手足も温い。

☑経絡腹診 腎肺虚、脾心実、肝平。

☑比較脉診 腎肺虚、脾心実、肝平。

☑証決定 腎虚証。

☑適応側の判定 天枢診にて右。

☑本治法 右湧泉を補う。

→脉が充実する。

☑標治法 

✅両手に水掻きの鍼。

✅全身に気を巡らせるように小児はり。

☑補助療法 

✅子午治療。人迎を押さえると左の方が圧痛が強いので、反対側の右蠡溝を補い、無熱灸14壮て止め、金粒を貼付。

→咽喉痛軽減。

✅頭痛に対して宮脇奇経治療。宮脇奇経腹診®より帯脉と診断。左臨泣にプラスのテスター、右外関にマイナスのテスターを貼ると、お腹の反応が和らぐので、主穴に10壮、従穴に6壮無熱灸して金銀粒を貼付。

→頭痛消失。

☑止め&セーブ鍼 左後谿にチョコン。


※宮脇奇経治療✖宮脇奇経腹診®については以下のリンクをご覧ください。

☑経過 治療後、一段と元気になり、柿やゼリーを食べ、兄と走り回って遊ぶことができるようになり、ほどなくして就寝。様子を見にいくと大量の汗をかいている。

翌朝、「パパ起きなよー」と元気な声で起こしに来てくれるまでに回復。

朝ごはんもしっかりとれたのでもう大丈夫そう。

症状も特にないので治癒とした。

☑反省と考察

1回目の際、虚脉であった。

治療を重ねるごとに実脉になっていった。

と同時に元気さが出てきて最終的に発汗して治った。

生気が邪気に勝てたからだ。


生気<邪気→生気=邪気→生気>邪気


裏から始まったものを表に押し返したとも言えます。


正に脉作りの臨床の成せるワザです。 

外感病であれ、雑病であれ、生命力の強化に尽きます。

また、本症例でもそうであったように、的確な補助療法、標治法を入れてあげると症状が和らぎ体も楽になりますから、対症療法も侮れません。

外感病を治療するに当たって

一般的に先ずは病院に行かれます。

私たちの治療はその後が多いですが、患者さんとの信頼関係が構築されていれば、鍼灸院を先行されることもあります。

家族や近しい人たちであれば逆にそうなると思います。

私の失敗談を含め、幾つかの注意事項を記します。

消炎鎮痛解熱剤の功罪

消炎鎮痛解熱剤は、急性発熱時に現れる痛み・発赤・腫脹・熱感を和らげてくれますが逆に治る時期を遅らせます。

先ず、発熱の意義ですが、

  1. 病原体は高温下ではその複製が抑制されるか死滅する。
  2. 免疫担当細胞は高温の方が活性化する。

ということで、発熱は感染に対抗するための生体反応です。

そしてさらに、

  1. 痛みは警告反応と過度な動きの制限。
  2. 発赤は血液が集まって代謝を促進
  3. 腫脹は白血球やリンパ球が集まって感染を防ぐ。
  4. 熱感は免疫力を高めるめに発熱している。

ということで、炎症反応は障害部位を守り治す反応なのです。

ですので、消炎鎮痛解熱剤は炎症を抑えて痛み・発赤・腫脹・熱感を軽減し、苦痛を和らげてくれますが、それと引き換えに直接の治す反応(炎症)を抑えるので症状は軽減するが治るのは遅くなる(問題の先送り)ということになります。


医療機関を頼ることは悪ではない

とはいえ、こらアカンなと思ったら病院に行きましょう。

ある程度技術がないと全く効きません。

臨床経験の浅い方も無理せず病院に行きましょう。

次に該当する場合も病院を受診してお薬をいただいてください。

  1. 痛みや炎症が生活に差し障るほど激しい場合。→激しい痛みが持続すると脳の可逆性に問題が起きる。
  2. 大事な要件があり、高熱や痛みにより適えることが難しい場合(EX.子供の結婚式、大事な契約 etc.)
  3. 持続する痛みや高熱により食事が摂れなくなり、体力が著しく落ちた場合 etc.
  4. 慢性疼痛で痛みの悪循環を断つ。
治療のリスクマネージメント
  1. 発熱時
  2. のどの痛みが激しい時
  3. 咳が酷いとき

等は、肺経を補うと悪化することが多いです。

私もよく失敗しました。

駆け出しの頃、長男がよく発熱しましたが全く治せず、それどころか治療しては余計に熱が高くなり、意識が朦朧としだしたので、慌てて夜間診療に走ったこともありました。

肺経を補っていたからです。

肺経には気を循環させて体を温める働きがあるので、太陽病などでは肺経を補って温めて発汗させる、あるいは太陽経や陽明経を瀉して発汗させればいいと考えていたのですが、余り上手くいった試しがありません。

特に小児の場合は余計に熱が高くなり、その邪熱が背中の督脉から上に昇り、脳症へと発展する危険すらあります。

(一社)東洋はり医学会元会長の故柳下登志夫先生に、小児の発熱は逆気の極みだから、腎を補って気を下げなさい、そして手に水掻きの鍼をしなさいと教えていただきました。

確かに発熱児の体表を観察していくと、頭と体は熱いけれども、足あるいは手足が冷たいのが分かりました。

それから以降、この治療法を実践するようになり、我が子の外感病を治せるようになると、治療室に来てくれる子どもたちも事なきを得られるようになりました。


小児の急性発熱は先ずは、脳を守ることを最優先にすべきです。

そのためには陰中の太陰である腎を補って気を下げ、水掻きの鍼を施して邪熱を泄らします。

そうして生気の回復を図り邪気が衰えるのを待てば、来るべき時が来たら、必要に応じて汗・吐・下して癒えていきます。

過去の記事にもう少し詳しく書いていますので、外感病の病因病理と併せてご覧ください。

肺管九節

肺経を補うと、余計に熱が高くなるだけでなく、咽喉痛や咳が酷くなる理由を解説します。

以下の図を見て下さい。

これは古医書にみられる臓腑図ですが、現代の解剖図とは違っています。

なぜなら、カタチよりもハタラキを重視して描かれているからです。

八葉蓮花と呼ばれる8枚の葉っぱで描かれているのには二つの理由が考えられます。


  1. 何か大切な物を葉っぱに仕舞い込んでいる様を表している。
  2. 陰の働きを表している。

何か大切な物とは気です。

肺は気を主ります。

このように、臓腑図が葉っぱで描かれているのには肺ともうひとつ肝です。

肝も大切な物を蔵しています。

肝は血を蔵します。


陰の働きとは粛降です。

口鼻から取り入れられた天空の清気(酸素)を臍下丹田まで降ろしていきます。

それで気道が清浄に保たれています。

肺は上焦に在り陽臓でありながら陰的な働きを有し、五臓の最上に位置し気血津液を粛降します。

それを8枚の葉っぱで表しているのです。

東洋医学では偶数は陰を意味します。

なので8は陰数であり陰的なを意味します。

ちなみに肝は七葉です。右四葉左三葉からなり奇数は陽数で、肝は中焦以下に在り陰臓ですが陽的な働きがあることを意味します。

血を動力源に発散して疏泄しています。


ということで、このような大切な気を含んだ八葉蓮花の上に在るのが肺管九節と呼ばれる9つの連なった節です。


現代医学的には上下の気道辺りに位置します。

奇数は陽数で、九は陽の極みを意味します。

つまり、熱を持ちやすいということを強調したいがために九節としたと思われます。

ここの熱は肺熱と考えていただいて構いません。

故にうかつに肺を補うと肺熱を益々熱してしまうのです。


咽喉痛も咳も肺熱がほとんどです。

肺気が粛降できずに気逆したのが咳ですから、当然と言えば当然です。

駆け出しの頃は勉強不足で、こんなことも分かりませんでした。

それでも治療をさせてくれた妻と息子には感謝の気持ちで一杯です。

お陰様で今では外感病を癒せることが多くなりました。

本当にありがとう。

(了)