コインランドリー/小坂逸雄
洗濯物が溜まっていた。はっきりしない天気が続いていて、いつ干したらいいのか見極められず何日も経っていた。こういうとき、皆はどうしているんだろう。部屋干しでガマンしているんだろうか。
いつもより早めに起きた朝、その日もぐずついた空模様だったけど思い切って洗濯機を回し、脱水をしただけの洗濯物を大きな袋に詰めこんでコインランドリーへと向かった。似たような境遇の人が多いのか、朝なのに乾燥機はほぼ全機がフル稼働。幸い空いているマシンが二台あったので待ち時間なく洗濯物を放り込むことができた。そして30分後。乾いた洗濯物を取り出し、台の上で畳んでいるときにふと周囲の目が気になった。それはパンツを畳んでいるときだった。こういうものは他人に見られないにこしたことはないな、とか、というか誰も見たくもないだろうよ、とか、別に自分のパンツだし、別にもうおじさんの年齢だし、堂々としていればいいのだけど、公の場でパンツを畳むという行為に「いまここにいる自分と身の上」を妙に意識させられる。こういうところが肝っ玉の小さいところだよなと我ながらガッカリしながら、肝っ玉を隠すようにして小さく小さくパンツを畳んだ。
人目を盗むように畳み終え、はて、誰かに見られなかっただろうかと周囲を伺うと、「あら、おはようー」「あら、お宅も?」「乾かんねぇ」「ねぇ」だのというやり取りが交わされている。パンツを畳むこともある現場で知り合いと会ったというのに、すばらしく自然なやりとりだ。スーパーでの立ち話となにも変わらないそれがボクにはとてもすごい能力に見えた。きっとこの人たちは銭湯で会ったとしても、なにくわぬ顔でこんな風に世間話をするんだろう。そうそう、コインランドリーの空間は銭湯に似ている。湿度に音響、石鹸の匂い、下着。銭湯、もとい全裸のコミュニケーションを想像させられたボクにとって洗濯物は少し生々し過ぎるように感じた朝だった。
小坂逸雄
東京出身、小豆島在住。
2020年4月現在、高松にて養蜂の修行中。