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郷愁の風景

【東京都】本郷(文京区)

2020.02.11 04:58

本郷地区は文京区の東半分を占め、旧東京市時代では「本郷区」として一つの区をなしていた。

起源は、湯島郷の中心地に存在していた集落を指す「湯島本郷」で、戦国時代になり「湯島」を略して「本郷」と呼ばれるようになる。

本郷台地の辺縁部に旧中山道が通り、その東側に加賀藩前田家上屋敷が広がっていた。

明治10年にその跡地に東京大学が開学するが、その象徴である「赤門」は旧加賀藩上屋敷御主殿門である。

一方で早くから町屋として開け、弓町、元町、真砂町、金助町、菊坂町、元富士町などが昭和40年の住居表示実施まで残っていた。

東京大学が控えていることから学生が住む下宿屋や旅館が残っている一方で、多くの文士が棲んでいた場所でもあり、名前を挙げるだけでも夏目漱石、坪内逍遥、樋口一葉、二葉亭四迷、金田一京助など錚々たる人物が登場する。

奇跡的に戦禍から免れたため、戦前からと思われる木造家屋が少なくない。 


【東京都】本郷「樋口一葉旧居跡」(文京区)201909

本郷といえば必ずと言っていいほど登場する、樋口一葉が文壇デビューの前に3年間住んでいたといわれる路地で、当時からあったとされる井戸がそのまま残っている。 

石段の上に木造家屋が並ぶ光景、戦前が残る貴重な場所だと実感できると同時に、都内の真っただ中でありながら高低差を改めて実感できる。

石段上からの路地の眺望


【東京都】本郷菊坂「旧伊勢屋質店」(文京区)201909

菊坂沿い、胸突坂下にある旧「伊勢屋質店」は明治2年創業、前述の樋口一葉が生活費工面のために通い続けたことでも知られる。

一葉とのつながりは深く、最後の際には香典を送ったと言われている。

現在の建物は明治20年に鹿浜(足立区)から移築した土蔵と、同23年築の平屋主屋、同40年築の二階建て店舗で、昭和57年まで現役の質屋として営業を続けていた。


【東京都】本郷菊坂(文京区)201909

本郷は坂の町でもある。

菊坂は本郷台地の南斜面を斜めに貫く坂で、南側は谷地となっていて並行した細い通りがある。

数少ない戦前の木造家屋が残り、その横に石段が谷地へ伸びている。

高低差を感じさせる光景である。

上記木造家屋を谷川から望む


【東京都】本郷「金田一京助旧居跡」(文京区)201909

戦前の木造家屋が点在しながら残っているが、この辺りには国語学者金田一京助・春彦父子が住んでいたとされる。


【東京都】本郷「求道会館」(文京区)201909

この地で布教活動を行った真宗大谷派僧侶・近角常観が開いた「求道学舎」が原点で、ヨーロッパで建築を学んで帰国したばかりの武田五一に設計を依頼し、大正4年に竣工。

長らく閉鎖され荒れ果てていたが、登録有形文化財指定を受けて再生し、活用されている。

余談ながら、その並びにはかつて威容を放っていた木造3階建ての下宿「本郷館」も近年まで残っていた。


【東京都】本郷「高崎屋商店」(文京区)201909

安永7年創業の酒店で、銅板張りの庇を持つ出桁造りがひときわ目立つ。

この酒店がある角は江戸時代、日本橋から中山道と日光御成街道への分岐点(本郷追分)だった。

江戸から北へ直進するのが旧日光御成街道(現在の本郷通り)で日光へ、左に折れると旧中山道で69の宿場(六十九次)を経て京へ向かう。


【東京都】本郷「棚沢書店」(文京区)201909

東京大学を擁するだけあり、本郷通りを中心に古書店や出版関係の事務所が並ぶ。

出桁造りの棚沢書店もその一つだが、建物は明治期に建てられたものだという。

並びに見える喫茶店「こころ」は、夏目漱石の作品にちなんだ店名だろう。

学生街の本郷は喫茶店も少なくない。


【東京都】本郷「万定フルーツパーラー」(文京区)201909

東大正門の前で本郷通りから折れた場所に建つ看板建築は昭和3年築で、現役の喫茶店。

店名の通り果汁搾りたてのジュースが名物で、現在はカレーライスやハヤシライスも定番となっている。

「フルーツパーラー」は昭和を象徴する呼び方で、本来は果物やそれを使ったデザートを出す喫茶店を指していた。

この店も創業当時は果物屋だったそうで、東大病院への見舞客相手の商売だったと想像できる。


【東京都】本郷(文京区)201909

前述の万定フルーツパーラーから本郷台地の奥に進むと、出桁造りの町家が異彩を放っている。

敷地の奥行きも深く、裏手にも蔵のような離れが見えるが、どうやら元々は質屋さんだったらしい。


【東京都】本郷「鳳鳴館」(文京区)201909

東京大学を擁するロケーションだけあって、下宿屋や旅館も多く残る。

「鳳鳴館」の創業は古く、この本館も築100年を超すと言われているが、もとは下宿屋で後に旅館に転業したそうだ。

本館の並びに台町別館、旧森川町の森川別館もある。

本館の玄関口 登録有形文化財指定のプレートが見える

手前が鳳鳴館台町別館 通りを挟んで本館が並ぶ

鳳鳴館森川別館 


【東京都】本郷(文京区)201909

新しい住宅やマンションが増えているものの、歩けば昭和初期から残っていると思われる木造町家に幾度と遭遇する。

2軒の木造家屋の間に新しい住宅が挟まっているが、元々は両側と同じような家が入っていて、長屋のような感じだったのだろう。

「向こう三軒両隣」とはもはや死語になりつつあるが、かつてはそうしたコミュニティが健在だったのだろう、そう思わせる町並みである。


【東京都】本郷(文京区)201909

文京区ふるさと歴史館がある炭団坂の途中に立派な門構えを構えるお屋敷がある。

見た感じ、こちらも戦前からあったものだろう。

名所でもないので散策スポットでも名前は登場しないので個人のお宅なのだろうが、その土地の名士か有力者なのだろうか。

それでも持ち主が長く大事に使われておられる感じで、こうした風景がいつまでも長く見られるといいものだ。