鈴木さんの杜豚(もりぶた) /大塚智穂
いつだったか「池田地区で豚を飼っている人がいる」と聞き、私は車を走らせて探しに行った。大体この辺りに…というところで郵便配達のおっちゃんがいたので場所を聞くと、「もう少し先にいるよ」と、言われた方へ向かって行くと、人の膝くらいの高さで囲まれた電気柵を見つけた。
…ここかしら。
でも、なにもいない。
車から降りて電気柵の前まで行くと、柵から離れたところに大きなブーちゃんが何頭かいるのが分かった。ブーちゃん達はしばらく様子を伺っていたが、私が敵じゃないと分かるとブヒョブヒョいいながら近寄って来てくれた。こんな低い柵で大丈夫かしら、と心配したが、柵を超えてくることは無かった。豚はとても頭が良いらしく、過去にビリっとしたことがあれば、次からは近づかないそうだ。
収穫後の葉や茎、選定したハーブ類、調理の時に出る野菜くずなんかを持って行くと、ブーちゃんたちは嬉しそうに食べてくれる。何度も足を運んでいると、車の音がしただけで分かるらしく、すぐに近寄ってくれるようになった。ブーちゃんはとても優しい目をしている。
月に1度ブーちゃん1頭は屠畜され、お肉になる。
普段からブーちゃんにオヤツをあげに行く私はとても複雑な気持ちになるが、ブーちゃんはお肉になり、色んな人に食べられる。会いにいくたび色々な事を考える。1頭また1頭と減っていき、それ以上に新しい命も生まれてくる。
今日オーダーしていた豚肉が2キロ届く。
つい先日までオヤツをあげていた豚だ。
1mmスライス1キロ、ミンチ500g、ブロック500g。
スライスは愛知の友人宅へお礼を兼ねて発送予定。
ミンチは冷凍しておいて、餃子や肉まんに。
ブロックの半分はリエットにしてサンドイッチや前菜に。
残りはハムかローストに。
とても大切なことを、私は学ばせてもらっている。
大塚智穂