入門物理学・第5回
本日の『入門物理学』の講義内容。ニュートンの運動方程式とはどういうものかから始まって,ベクトルの有用性と次元の関係に飛ぶ。ハウスドルフ次元の話まで紹介し,シェルピンスキーの三角形やコッホ曲線の話を先週の逆2乗則は空間が3次元であることの証拠になるという話に絡めた。
続いて「運動方程式はどこから出てくるのか」という問いから最小作用の原理の話を簡単に紹介。高校時代に物理を履修していない学生が対象の講義なのでもちろん数式の紹介は最低限にとどめ,物理的本質だけを取り出す。そのために,先週末浅草で実施したNOTHの一般向け新講座「マナビとアソビの間」でも体験してもらった,最短距離を見つける話・フェルマー点・シュタイナーツリーの話を使った。さらにシャボン膜が極小曲面を作るということで,事前に針金で作っておいた立体図形でシャボン膜がどうなるか,試して遊んでもらった。
最後は,「…というかっこいい話が背景にあるけれど,そうはいっても簡単で地味な運動方程式が解けないとダメわけで…」ということで,立式のコツ(つまりは力の矢印を描き漏らさないためのポイント)を説明。
この間に,何か飲んだり,余計なものを机の上に置いたりして講義を聴くのはなぜいけないか(熱中症予防はもちろんしなくてはいけないが,必要ないものをちょこっと置いておく程度のことがなぜだめかということ),人間の副視野の話と "Broken Window Theory" に絡めて説明。また,学生がごく初期段階に見せる小さなサインの段階で,「俺はお前のことを見ているよ」という対応をしてあげることで状況の悪化を避けられるということ,そういうことは親が教えるべきか,学校が教えるべきかということではなく,両方で教えるから初めて説得力を持つということも伝えた。
それからこの講義が1限ということもあり,遅刻する学生がだんだん増えてきたので,遅刻やその大抵の原因である「しょうもない」夜更かしは,教育においてある意味最重要である「人間は寿命が限られている。人生は有限である」ということにいかに関係しているかを力説。
さらに,話している人が終わりを宣言するまで筆記用具などを片付けるべきではないという話から,学びには人と対象(つまり学問そのもの)に対する尊敬がなければ何も身に付かないということも話した。
とにかく一つも出し惜しみせずに,これまで自分が勉強したこと,研究・教育において経験してきたことを全部伝えるつもりだ。教育は国の根幹である。単なるお題目で終わらせてはいけない。といっても毎回これだけ濃密な内容だ。消化不良を起こす学生もいるだろうし,聞き続けることも楽ではないだろう。僕の講義を聴きたいという気持ちを学生が持ち続けてくれるかどうか,小林の講義は聴く価値があると思ってくれるかどうかは,僕の腕と誠意が本物かどうかにかかっている。半年後,1年後,さらには10年後や彼らが社会に出てから,その真価が問われる。心せねば。