とうふのにおい/大塚智穂
「ちほちゃんってとうふのにおいがするよね」
小学生のころ何度か言われたことがある。言われた時は決まって自分のウデのあたりをクンクンして「とうふのにおいって、どんなにおい?」と聞き返すも「とうふはとうふのにおいだよ。おいしそう」と返ってきた覚えがある。
手前味噌のワークショップをすることになった。普段からなんでも1人で黙々と作業することが多い私だが、3年前の味噌作りの時に島で知り合った知子さんに「お味噌仕込むとき見学したい」と言われ、一緒に仕込んだことがある。明るくニコニコした知子さんとなんやかんやと話をしながら仕込んだ事を覚えている。数ヶ月後完成したお味噌を渡すと「美味しい!!!」とメッセージが届いた。そう、手作り味噌は美味しいのだ。そして今回も知子さんが「あの時にお味噌は美味しかった」という話から、なんと7人(私をいれて8人)が集まり味噌を作る事になった。
今回使う大豆は愛知県産で、年末年始、車で帰省した際に実家から持ってきていたものだ。今回は乾燥大豆6キロ、生の米麹9キロ、塩3キロを用意した。これでできあがりが約25キロ分の味噌になる予定だ。準備は前々日からスタートする。大豆をたっぷりの水で浸水させておく。豆腐屋は大きな圧力鍋で大豆を炊くので浸水は季節(新豆だと吸収が早い)にもよるが14時~16時くらいで、翌朝6時あたりにボイラーの音がしていた。個人では普通の鍋で時間をかけて炊くので、事前にしっかり浸水させておかなくてはならない。今回浸水させていたのは大きめの漬物樽だった。豆の量と樽の大きさから「大丈夫だよな…いや、大丈夫だよな…」と20時間後に様子を見に行くと、6キロの大豆にその樽は小さかったようで、水を吸った大豆が大爆発していた。なぜ2つに分けて浸水させなかったのかと悔やまれるが仕方ない。こぼれ落ちた大豆を拾い集め、2つの大きなお鍋に分けて入れた。
タップリの水で炊き始め、途中から2台の灯油ストーブにのせてコトコトコトコト。なんども豆を味見し、スダチのママレードとロールケーキと豆乳のパンとシナモンロールが焼き上がり、約5時間。親指と小指で豆を挟んでつぶれるくらい、豆はやわらかく炊きあがったのだった。炊き上がった豆の香りはとても美味しい。あ、そうか。「とうふのにおい」ってこれだ。大豆が炊き上がったときの美味しいにおい。こどものころは、さらに油揚げとがんもどきの香ばしいにおいもセットだったかもしれないな。明日は10時からみんなでお味噌を仕込みます。
大塚 智穂